銀のばあばとペルシャ猫
◇◇ショートショート
仁美の住んでいる団地の高台に蔦が絡まる洋館があります。その館には地元の人たちはほとんど近づきません。
かつて、ここの住人が3人も自ら命を絶ったと言われていて、不吉な館として地域の子どもたちはその前を通る時に駆け足で通り過ぎるくらいです。
その館にはグレイヘアの上品なおばあさんが住んでいます。そのおばあさんは子どもたちから銀のばあばと言われています。
「昨日、あの蔦の館の銀のばあばに会うたんよ、にっこり笑いかけよった」
「えー、お前銀のばあばに会うたんか、縁起が悪なー、あの銀のばあば笑いよったん」
「うん、なんか優しい顔しとったよ」
子どもたちにとって銀のばあばに出会うのは、ある意味ラッキーだったのです。銀のばあばは今年80歳、今は蔦の館に一人で住んでいます。
銀のばあばは30年前に旦那さんと二人の子どもを交通事故で亡くしています。
ご主人の運転ミスで車ごと海に落ちて、全員が助からなかったので、心中をしたと噂されて、それから蔦の館が不吉な場所だと言われるようになったのです。
ある日、仁美は飼い始めたばかりのペルシャ猫のミランがその蔦の館に入っていくのを見て、銀のばあばに見つかったら大変と思いながら蔦の館の外から「ミラン、ミラン」と何度も名前を呼びました。
すると、その声を聞きつけた銀のばあばが門扉を開けて出てきたのです。銀のばあばは色白で、真っ赤な口紅そして、大きなフレームのメガネをかけていました。
「あーら、ミランって、あの子の名前、何処の子猫ちゃんかと思っていたら、あなたのところの猫ちゃんだったのね」
「あのー、ミランはまだ子どもだから、勝手にどこでも行っちゃうんです、すみません」
「あーら、いいのよ、最近時々遊びに来てるのよね、家の猫ちゃんたちとよく遊んでいるわよ」
「えー、ミランよく来てるんですか、すみません」
「いいのよ、家には猫ちゃんが5匹いるからね、来ると楽しんだと思うわ」
仁美は困った事になったと思いました。銀のばあばに目をつけられたら怖い。早くミランを連れて帰ろうと思ったのです。
「あなた、中に入ってみる、美味しいクッキーを御馳走するわよ」
仁美は断りたかったけれど、早くミランを連れて帰らなくてはと思って蔦の館にほんの少しだけお邪魔することにしました。
庭から中に入ると、まるで童話の世界のように、可愛い草花がセンス良く植えられていました。花のアーチもあって仁美はイギリスのお城のお庭みたいだと思いながら建物の中に入って行きました。
部屋の中はフランスの映画に出てきそうな雰囲気です。
暖炉があって、ゴブラン織りの大きなソファーがあって、上にはクリスタルなシャンデリアが飾られていました。
仁美は早く子猫を連れて帰ろうと「ミラン、ミラン」と名前を呼びます。
すると奥の部屋から猫が3匹やって来ました。手入れの行き届いた毛並みのいい猫です。でもそこにはミランはいませんでした。
座り心地がいいソファーに座ってあたりを見回していると、階段の上から猫の声がします。見上げると、青い目の大きな白い猫が仁美を珍しそうに眺めていました。
「お待ちどうさま、このクッキー美味しいのよ、召し上がれ、イチゴジュースにしたから、飲んで帰って」
「ハイ、でもミランが居ないから」
「そんなに急がなくっても、子猫ちゃんも遊びたいのよ、あなたも少し遊んで帰ったら、うちの猫ちゃん達も可愛いわよ」
「おばあさん、何で猫飼ってるんですか」
「家族が亡くなってから、家で飼っていた猫のドロシーが私を長い間慰めてくれたのよ、今はその孫たちがいるのよ、私独りぼっちだったんだけど、寂しくなかったのよ」
「銀のばあばは・・・あー・・・」
「えっ、銀のばあば、それは私のことかしら・・・」
「あっ、友達がそう言ってるんで、ついつい言っちゃった」
「まあ、銀のばあばいいじゃない、私は嬉しいわよ、今度お友達も連れてきたら、銀のばあばがもてなしてあげるわよ」
「えー、皆をもてなしてくれるんですか・・・」
「と言っても、お菓子と飲み物くらいだけど・・・」
「じゃあ、連れてこようかな・・・」
そう言っていると、ミランが上品な猫と一緒に仁美の傍にやって来ました。
何だか、ミランは嬉しそうです。仁美もミランの様子を見て、ほっとしました。
「今度、友達を連れてきます」
「銀のばあばも、楽しみに待っているわよ」
仁美はミランを抱いてお土産のクッキーをたっぷり貰って蔦の館を出て行きました。
仁美が返ったあと、蔦の館では6匹の猫が仲良く暖炉の前に座っていました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《私は猫好きじゃないけど面白かったよ》
「何か知らんけど面白いねー、蔦の館におったんは全部猫ばっかり言う事かね、人間と猫の区別がつかんけど、銀のばあばは猫じゃったんかね」
「お母さん、これは想像の世界じゃけんね」
「面白かったよ、私は猫好きじゃないけど面白かった」
猫好きじゃない人にも楽しめたらいいと思って書いたショートショートです。本当に猫には不可思議な魅力と、ミステリアスな雰囲気がありますよね。
筆止めて気配を探す猫の恋
猫の恋は春の季語です。この時期、何処からともなく、恋に憂き身をやつす猫の声が聞こえる時があります。特に夜遅くその声を聞くとハッとすることがあります。
イラストを描いていてふと手を止める母、そんな春の一コマを詠みました。私も夜、書斎で文章を書いていて、ふと手を止めることがあります。
猫の恋、何だか切ない気がします。
最後までお読みいただいてありがとうございました。たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。この記事が気に入っていただけたらスキを押していただけると励みになります。
また明日お会いしましょう。💗
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