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ピアノが奏でるありがとう
◇◇ショートショート
コンサートホールで和音のピアノの演奏が終わるとスタンディングオベーションで鳴りやまない拍手にブラボーと賞賛の声が上がりました。
その様子を見ながら涙を流していたのは母の久子でした。これまでの苦労が一気にどこかに飛んで行った気がしました。
和音は3歳の頃からピアノに魅了されていました。
裕福な家庭に育ったわけではありません。長屋住まいで、ピアノなど縁のない家庭でした。
近所の大きなお屋敷を通る時、ピアノのレッスンを受ける子どもたちのバイエルを演奏する音が聞こえていました。和音はその音を聞きながら「私もピアが弾きたいなー」と言っていました。
和音が特に気に入っていたのは、きらきらと輝く水が山から海に流れているように繊細で心地いい曲でした。それは日曜日の午後に必ず聞こえてきたのです。お屋敷のお嬢さんが演奏していたラヴェルの水の戯れでした。
和音は玩具屋さんの店頭に飾っていた可愛い卓上ピアノを喜んで弾いていました。その時間がとても楽しかったのです。
4歳のお誕生日にお母さんがその卓上ピアノを買ってくれました。
娘が紙の鍵盤で一生懸命ピアノを弾く楽しさを味わっていたので、お母さんがお裁縫の内職をして買ってくれたのです。
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娘がテレビから流れてくる曲をすぐさま卓上ピアノで再現するのでお母さんはいつも驚いていました。
「この子は誰に似たんかな、音感がええんよね、私は歌も上手に歌えんし、お父さんも音楽には縁がないのに・・・」
卓上ピアノが始まりで和音は小学校に入っても音楽のクラブに入って、毎日楽譜と格闘していました。その指導に来ていたのが近くのお屋敷のお嬢さんでした。
和音はそのお嬢さんに才能を見初められて、お屋敷でレッスンを受けることになり、高校生を卒業するまでそのお嬢さんに指導を受けていました。
和音が高校二年生の時にお父さんが病気で亡くなって、お母さんは近くの電気店で働きながら娘と一緒に懸命に生きていました。
お母さんは娘が音楽大学に進学したいのは分かっていましたが、自分たちの生活で精一杯なのに、それは無理だと諦めさせようと思っていました。
しかし、和音はアルバイトをしながら奨学金を貰って頑張るからと母の反対を押し切って故郷を離れ、都会の音楽大学に進学したのです。
和音は本当に大変な毎日を過ごしました。学友のほとんどは、裕福な家の子息でアルバイトなどする必要もありませんでした。
でも和音は懸命でした。母親は大学の4年間、娘の都会での姿を見ることは一度もありませんでした。
田舎に娘から便りが届きました。
「お母さん、卒業コンサートで私、あの曲を弾くことになったの、お母さん飛行機のチケットを贈るから、絶対に聞きに来て、私、心を込めて弾くからね」
お母さんは、娘の晴れ姿を見ようとその日大学のコンサートホールに出掛けました。
演奏が終わってお母さんは、わが耳を疑いました。娘は素晴らしい演奏をして喝采を浴びていたのです。
娘の手紙にはこう書かれていました。
「お母さんが買ってくれたあの小さなピアノから私の音楽人生は始まったの、お母さん、私は自分の力でピアニストを目指します、これからは私がお母さんの人生に幸せのメロディーを奏でてあげるからね、お母さんありがとう」と。
お母さんは晴れやかな舞台で拍手を浴びる娘の姿が、かわいい卓上ピアノを弾く4歳の娘の姿と重なって見えました。
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【毎日がバトル:山田家の女たち】
《あの子は本当に音感が良かったんよ》
「卓上ピアノはええ音色よ、あんたこのストーリーのモチーフは何?」
「これはほんのちょっとだけお母さんと妹のお話、ちょっとだけね」
「あの子は本当に音感が良かったんよ、私は新人演奏会に行った時が忘れられんわい、私はご褒美を貰ろたような気がしたんよ」
私も母と妹の音楽の絆をモチーフにショートショートストーリーを書くことが出来て幸せです。
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あれこれと刻むリズムや春隣
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春が近づいて少しずつ暖かくなってくると、日常の様々な事が楽しくまた、軽やかにこなせるようになってきます。
母はそんな二人を詠みました。イラストには母が洗濯を、私が掃除をリズミカルにしている様子を描いています。まだまだ寒い日もありますが、春はそこまで来ています。
最後までお読みいただいてありがとうございました。たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。この記事が気に入っていただけたらスキを押していただけると励みになります。
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また明日お会いしましょう。💗