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桜のひと
◇◇ショートショート
海を見下ろす高台に、とてもお洒落な洋館があります。レンガ造りでステンドグラスから差し込む光が美しいお城のような建物です。
坂の下から見上げると、その家は絵本に描かれているような夢の館に見えました。
普段は誰も住んでいないのですが、毎年桜のジーンズになると眉目秀麗の若者が花を咲かせにやって来るのです。
地域の女性たちは毎年、その青年のことでざわついています。
「また、そろそろあの人がやって来る頃じゃない」
「いつになるんじゃろか、桜の蕾が出来た頃にやってくるよね」
「ほうよ、あの人はいっつも春風と一緒にやってくるんよ、芳しい香りとともにね」
「あの青年はあの家とはどんな関係があるんじゃろか、もう何年も来とらいね」
「あの人ずっと変わらんかろう、何年経ってもいっつもさわやかで、この上なく美しいんよねー」
「桜の精みたいに、俗世に染まってない言うか、あの優しい笑顔はたまらんねー」
桜が蕾の頃にやって来て、2週間ばかりの間に、洋館をピンク色に染めて、花びらがハラハラと散るまでの間、一生懸命桜の世話をして、何時の間にか姿を消す青年。
ある時から地域の女性たちは彼のことを「桜のひと」と呼ぶようになりました。
「桜のひと」はスラリと背が高く、まるで子犬のようなつぶらな瞳で相手を見つめ、出会う人たち全てを虜にするのです。
彼がふっとため息をつくと、桜の花びらが一つ一つ開いていきます。
「桜のひと」は館の全ての花を、そのため息でひとひらひとひら咲かせて、そしていつの間にか消えてゆくです。
洋館の本棚には沢山の本が並んでいます。中でもイラストが美しい一冊の絵本があります。
そのタイトルは「さくらの館」
美しい花を咲かせるために、自分の命を削って花に力を与えている花の精の姿を描いた絵本です。
絵本に描かれているレンガ造りの洋館はまさにこの館そのもので、桜を命がけで咲かせる「桜のひと」は彼にそっくりなのです。
「桜のひと」は館の桜を満開にして、ハラハラと散る頃には、いつの間にか絵本の中に姿を消してしまうのです。
「桜のひと」は、次の年もまた桜のつぼみが膨らむ頃に、絵本の中から姿を現して、洋館をピンク色に染めるのです。
絵本に描かれている「桜のひと」は誰なのでしょう。
桜が満開の洋館で、絵本を手にとった青年が、最後のページをめくるとピンク色の花びらがハラハラと散りました。
「桜のひと」は、絵本の中で生きています。
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【毎日がバトル:山田家の女たち】
《あんた面白いこと考えたねー》
※92歳のばあばと娘の会話です。
「そんなことがあったら面白いねー、桜は小説にも色々出てくるけど、あんた面白いこと考えたねー、ファンタジーじゃけん、これからも考えたらええわい」
「桜は素敵なテーマよねー」
「桜のひとに会いたいねー」
母は私が書いた物語の中に入ってくれたようです。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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また明日お会いしましょう。💗