お祖母ちゃんの連句碑
◇◇ショートショート
光は東京から愛媛県松山市にやって来ました。叔母さんが亡くなったので母から実家の片付けを頼まれたのです。彼は叔母よりもむしろお祖母さんとの縁が深く、実家で懐かしいお祖母さんの香りに包まれたいと思っていました。
「お祖母ちゃんの俳句とイラストは本当にいいなー、何となく味があるんだよな」光は、入学式や誕生日など人生の節目に送られてくるお祖母さんからのメッセ―ジがとても好きでした。
実家の整理を頼まれて、光が嬉しかったのは、お祖母さんの遺したものから宝物が見つかるかも知れないと思ったからです。
お祖母さんの日記を見ていると、文章や俳句、添えてあるイラストが楽しくて、ついつい片付けがおろそかになります。
ある日の日記に目が止まりました。
「今日は嬉しい日です、私たちの連句碑がお寺の敷地に建立されました、私の句もそこに刻まれています、こんなにうれしい事はありません、ずっと残るんだから」
句碑がある事を知らなかった光は、見に行きたくなりました。
「あのお寺にあるのか、僕は知らなかった、お祖母ちゃんの連句碑、見に行かなきゃ」
朝から作業をしていた彼は、うとうとと浅い眠りにつきました。いつもは夢など見ない光が夢を見たのです。
お祖母さんの夢でした。
「光、あんたお祖母ちゃんの句碑を見に行ってくれるんかや、嬉しいわい、あんた帰りにお寺の裏の洞窟を巡ってお祈りしておいで、きっといいことがあるけんね」
「お祖母ちゃん、いい事って何・・・」
光が聞くとお祖母さんは
「まあ、お祖母ちゃんを信じとおみや」
そこで、光は夢から覚めました。
翌日、光はお祖母さんの連句碑を見に行きました。
「みんないい句を詠んでるけど、お祖母ちゃんのは本当にいい句だなあ、俳句を知らない僕でも分かる」
そう思いながら、句碑の写真を撮影していると、蝶が一羽優雅に飛んでいました。
「あ、そう言えばお祖母ちゃんが裏の洞窟を覗いとおみって、言ってたな、せっかく来たんだから覗いてみるか」と光は、洞窟の中に入って行きました。
小さい頃におばあさんと通った記憶が蘇りました。ひんやりとした洞窟内は声が反響して、何だか怖いくらいの空間です。
洞窟の途中まで来ると、薄暗い穴の奥から声が聞こえます。
「光、あんたやっぱり来たんかね、ええ子じゃねー、あんたこれからもお祖母ちゃんのこと忘れんといてね」
光は「もちろんだよ」とつぶやいていました。
懐かしいおばあさんの声を聞いて、迷路のような洞窟を出ると、日溜まりに可憐な花が咲いていて、その傍でまた蝶が遊んでいます。
「今日は何度も蝶を見るな・・・」と思っていると、そこに美しい女性が立っていました。
「この洞窟は何だか怖そうですよね」女性が尋ねます。
光は「そんなことないですよ、心が引き締まって気持ちいいですよ」そう言われて、彼女は入ってみようと決心したようです。
光は美しい女性に見とれながら
「僕でよかったら、中に一緒に入ってあげましょうか」思い切ってそう言うと、「えー、いいんですか、是非お願いします」
答えを聞いて、光はすぐさま彼女を洞窟に案内しました。
一番奥までやって来て彼女が言いました。
「私のお祖父さんが、一度は洞窟に入ってみろって言ってたので、あなたがいて良かったです」
「今日は、お参りに来たんですか」と訪ねると
「私のお祖父さんの句碑がお寺の敷地にあるので、見に来たんです」
「えー、僕もお祖母さんの句碑を見に来たんですよ」
「それって、あそこの連句碑ですか・・・」
「そうです、偶然ですねー」
それから、二人はお互いの祖母や祖父の話で盛り上がり、また会う約束をしたのです。
光はその日「お祖母ちゃん、ありがとう、いい人に出会ったよ」と仏壇に報告しました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《あの洞窟は怖いんよ、足がすくまい》
「あんたこのお話のモデルはひょっとして私、そんな気がするんじゃけど」
「そうよー」
「やっぱりねー、連句碑が出来た時を思い出したわい、いろんな人の顔が浮かんだんよ、石手寺のあの洞窟は怖いわいねー、足がすくまい」
「お母さんが苦手なラブストーリーにしておきました」
「ショートショートじゃけんまあ創作じゃけんねー、私は自分をモチーフにしてくれて嬉しかったよ」
母が納得してくれたので良かったです。実はnoteのお仲間と出会った際に、お寺をテーマに書きましょうと言うことになって、本日の投稿が実現しました。母に喜んでもらえてダブルでラッキーでした。
春光や仁王の阿吽いかめしき
今回のショートショートストーリーに登場する連句碑は、四国八十八箇所51番札所の石手寺にあります。母は石手寺の山門で向かえる金剛力士像を句とコラボさせました。
その表情は春の陽射しを浴びて、いかめしさが増して見えます。筋骨逞しい威厳があるその姿は、参拝する多くの人にパワーを与えてくれています。
最後までお読みいただいてありがとうございました。たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。この記事が気に入っていただけたらスキを押していただけると励みになります。
また明日お会いしましょう。💗
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