村の女壺の掟
◇◇ショートショートストーリー
ある村の外れに不思議な場所があります。レンガ造りの建物の中に大きな壺が8つ埋められていて、その壺の蓋はしっかり閉められています。そこは村人から「女壺(おんなつぼ)」と呼ばれていました。
男子禁制で、女性たちだけしか出入りできない建物です。男性が近づいたが最後、その身に恐ろしい事が起こると言う伝説がありました。
村の子どもたちには代々そのことが告げられていて、男子は「女壺」には近づいたらいけないと言われ、中に入ることを許されるのは18歳以上の女子と言う、固い約束がありました。
ハルは近所のお姉さんに連れられて村の「女壺」に向かいます。18歳の誕生日を迎えたばかりの彼女はやっとその場所に入ることが許されました。
お姉さんがハルに言います。
「ハル、ここで見聞きしたことは誰にも言ったらダメよ、あなたがこれから異性のことで腹が立つことがあったら何でもいい、ここにきて、この蓋を開けて、思いっきり叫んでまた蓋をするの、他言無用、そうすればあなたの怒りは静かに治まるからね」
「お姉さん、どんなことでもいいの」
「もちろん、腹が立つこと、理不尽なこと、うんざりすること何でもいいの、異性のことならね、ただね、言ってしまったら、全て忘れること、それで村が平和になるのよ」
「分かった、一度試してみてもいい」
「もちろん、やってごらんなさい」
ハルは女壺の蓋を開けて叫びました。
「いつも、父さんは弟のことばかり心配してる、私だって父さんの娘なんだから心配してくれてもいいじゃない、それに門限が厳しすぎる、もう私だっていい加減に大人なんだから」
「そう、そんな感じ、最初はたわいもない愚痴でいいのよ」
「えー、皆はどんな事を言ってるんですか」
「暫くここにいたらわかるわよ」
そう言うとお姉さんは、ハルを置いて帰っていきました。
ハルが「女壺」にやってくる女性たちの様子を見ていると、いつも旦那さんに従順な奥さんが大声で叫んでいます。
「あんた、いつも私に偉そうにあれしろ、これしろって、あんたはそんなに偉い分けじゃないよねー、何もかも自分でおやり」
次にやってきた、おばあさんは
「これまで私の世話になっておきながら、母さんの面倒はみられない、何を偉そうなこと言うとる、お前をここまで大きくしたのは私なんじゃ、私は許さん」
大声で壺に愚痴を叫ぶと、おばあさんはさっぱりした顔で去って行きました。
お隣の新婚の奥さんは
「あんた、付き合ってた時とすることが全然違うんよ、毎日遅く帰ってきて、私に、優しい言葉の一つもかけやしない、少しは家事も手伝えよ、大嘘つき」
そう叫んだ後は、いつものしとやかな表情に戻って出ていきました。
ハルはこの村の女たちがいつも穏やかな笑顔をたたえている理由がわかりました。女壺で愚痴を吐き出し、壺の中に封じ込めていたのです。
それからハルは「女壺」を覗くのが習慣になりました。女たちの愚痴を聞いていると人生勉強になるので足しげく通っていたのです。
ある日のこと、ハルに恋心を抱いているアキトが、いけない事だと分かっていながらハルの後をつけて「女壺」までやって来ました。
最近、ハルが「女壺」に夢中になっていることが気がかりだったのです。
その日は誰も来ていないとわかるとハルは早々と「女壺」を去りました。
アキトもハルを追って出ていこうと思いましたが、大きな壺が無性に気になって仕方がありません。
「ここは監視もされてないし、自由に出入りできるから、蓋を開けたって誰も気が付かないはず、女壺の中には一体何が入っているのかな・・・」
ほんの遊び心で村の掟を破って女壺の蓋を開けたアキトに、この後大変なことが起こります。
蓋を開けた途端に、壺の中から、村の女たちの数えきれない愚痴が悪魔の囁きのように襲ってきました。アキトはその言葉に、ぐるぐる巻きにされて金縛りになってしまい、サナギのように身動きがとれなくなってしまったのです。
伝説は本当でした。
男子禁制の「女壺」に、立ち入ったアキトは意識不明になって眠り続けたのです。
目覚めないアキトに三日後、奇跡が起こります。
アキトの枕元でハルがある呪文を唱えました。
「私はあなたが好き、私はあなたを守ってあげる、これは秘密のお話よ」
「私はあなたが好き、私はあなたを守ってあげる、これは秘密のお話よ」
「私はあなたが好き、私はあなたを守ってあげる、これは秘密のお話よ」
ハルがこの呪文を三度唱えると、アキトはパッと目を見開いて
「あっ、ハル、僕はどうしたんだろう、何にも覚えてないや」
ハルは言いました。
「良かったね、アキト、覚えて無くて良かったね、私は覚えているからね、あなたを助けたのは私だから」
アキトは分けが分からず、ハルを見ていました。「女壺」の掟を破ったアキトはこれからずっとハルの言いなりになるしかないのです。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《爆発するけん女壺あったらええねー》
最近はまっている華流ドラマを見終わった後のばあばとの会話です。
「人は約束は守らんといかん、女壺あったらええなー、愚痴があったら、友人と話して解決する人もおらいねー」
「お母さんはどうしてた」
「私は人に言えんことは日記に書きよんよー、心にしまいよったら、爆発するけん、女壺あったら、ええねー」
母は日記に愚痴を書く事があるとはびっくりでした。私は幸せな事に今の所、女壺は必要ありません。
【ばあばの俳句】
人そぞろ旅する心秋近き
秋が近くなると何故か心もそぞろになって、あてもなく旅に出掛けたいそんな気持ちになるものです。母は何故かアンニュイな心になるこの季節を詠みました。
ふと目的もなくどこかに出掛けてみたい、特にコロナ禍で制約された日常だからこそそんな思いが募ります。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗