アランとリセの遍路旅
◇◇ショートショートストーリー
同行二人と書かれた金剛杖を手にして、白衣に、菅笠をかぶっているアランは自分がまさかこんなスタイルをするとは思っていませんでした。日本に来てから遍路旅には、興味を持っていましたが、旅に出る勇気はありませんでした。
ちょうどそんな時に、妹のリセが夏休みでフランスからアランを訪ねてきたのです。
「お兄ちゃん、私は精神世界に興味があるし、日本の家屋も好きだから、楽しみだよ、私のお友だちは3か月もかけて歩いたって・・・」
「リセが一緒だから歩くんだよ、僕一人だと自信がないね」
「兄さんはパパのために歩くんでしょう、巡りながらパパのことをお祈りするんでだよね」
フランスの企業から日本の支社に来ているアランは、しばらくぶりで妹に会いました。昔からとっても仲が良かった兄妹は、小さい頃から二人で何でも挑戦してきました。
彼のお父さんはフランスの大学で数学の教授をしていましたが、定年してから元気が失せて、沈んでいると聞いていたアランは、お父さんにパワーを送りたいと二人で遍路旅をすることにしたのです。
「お兄さん、88って言うのは人間の煩悩の数なんでしょう、88の霊場を巡ることで煩悩が消えて願いが叶うって言われてるんだよねー」
「リセ、よく調べてるねー」
「もちろん、四国の88の霊場は弘法大師が1200年も前に建てたんだよね、人々を災いから救うために・・・・」
「そうらしいね、行程は1400キロもあるから、すべて歩いて巡ると45日以上もかかるらしい・・・」
アランは仕事の都合でそんなに長くは休みが取れません。まずは職場の同僚の出身地である愛媛県の札所を2週間程かけて巡ってみることにしたのです。
「お遍路って、一番札所から行かなくてもいいの・・・」
「うん、一番から回っていくのは順打ちって言うらしいけど、僕らはこれから何回かに分けて回るから、区切り打ちって言うんだ、思い立ったら何処からでも回れるのが気楽でいいよねー」
アランとリセの遍路旅のスタートは愛媛県の南の端、南宇和郡愛南町御荘にある40番札所の観自在寺(かんじざいじ)からです。
「リセ、ここは四国霊場の裏の関所って言われてるらしい・・一番札所の徳島県の霊山寺(りょうぜんじ)から一番遠いところにあるから・・・」
「そうなんだ、山門が素敵だねー、神秘的」
「日本の建物は素晴らしいねー、リセ写真撮った」
「もちろん、私のライフワークだからね、お遍路でもたくさん撮るよー」
二人は納経帳に御朱印をいただいて、階段をゆっくり降りていました。
ところが、遍路旅のスタートで残念なことが起こります。リセが大切なカメラを石段から落としてしまったのです。
「ワ~、兄さん、カメラが壊れちゃった、どうしよう、ファインダーから何も見えないよ」
「大変じゃない、旅が始まったばかりなのに・・・」
とそこを通りかかった青年が、「どうしたんですか・・・」と流ちょうなフランス語で語りかけてきました。
彼はお父さんが先達(せんだつ)をしているという、遍路旅に詳しい青年でした。大学では語学を専攻していて、英語もフランス語も堪能です。
先達と言うのは四国八十八ヶ所霊場を4回以上巡拝して、徳を積んだ人が札所から推薦され、巡拝のマナーなどを教えてくれる、お遍路のスペシャリストのような人のことです。彼はお父さんの影響もあって、いつもお遍路さんへのおもてなしを心がけていました。
「あー、これはすぐには直らないなー、僕が修理してくれるところに持って行って、出会える札所でお渡ししましょうか・・・」
二人はその親切な対応に驚きます。
「遍路旅を始めたばかりでこんなことになって、ショックでしょう、大丈夫、四国にはお接待という文化があるんですけれど、特にお遍路さんには優しく接する人たちが多いんですよ」
青年のまっすぐな瞳を見て、二人は彼にカメラをゆだねることにしました。
LINEの交換をして、遍路の途中に連絡を取り合うことにしたのです。親切な彼の名前は三四郎と言いました。
三四郎は、フランス文化にも興味を持っていて、一人旅でモン・サン・ミッシェルを訪ねたこともありました。
三人は毎日のようにビデオ電話で会話をして、旅の間に親しくなっていきました。
「アランさん、どうやらカメラ直りそうですよ、次の札所に、持って行きましょうか」
「三四郎、ありがとう、隣でリセが喜んでる」
「三四郎さん、こんばんは、あなたから借りたカメラで写真はたくさん撮ってます、今度会った時に見せますねー」
「よろしくねー、久しぶりにアランとリセに会えるのが楽しみだなー」
そんな、やり取りをしてながら再会の日を迎えました。
三人が会う約束をしていたのは、松山市にある52番札所の太山寺(たいさんじ)でした。
山門から参道をゆっくり歩いていると、途中にある茶屋の縁台に見慣れた若者が笑顔で座っていました。
「はーい!!サバ、お遍路さ~ん」三四郎がおどけて二人を呼び止めます。
アランも、リセも、日焼けした顔に、白い歯が眩しく光っていました。
三四郎は、何だか昔からの友人に会ったような懐かしさを感じていました。
茶屋で抹茶と和菓子を味わいながら三人は、遍路旅の話でまたまた盛り上がり、笑顔を交わしています。
三四郎は修理を終えたカメラをリセに渡しました。
アランとリセの愛媛での遍路旅はあと半分残っています。三人は遍路旅の最後の日に再び会う約束をして別れました。
太山寺の本堂に向かいながらリセが言います。
「兄さん、三四郎には、フランスにも来て欲しいね、本当に好い人だ・・・」
「リセ、何だか、三四郎のことが、気に入ったみたいだね」
「兄さん、私は愛媛の遍路旅で、本当の人の優しさが知った気がする、パパにも、三四郎に会ってもらいたいって思ったんだよねー、パパにパワーをくれそうな気がするんだ・・・」
アランとリセにとって、四国での歩き遍路は人生の素敵な友人との出会いになったようです。そして、これからもまた新しい出会いが待っているでしょう。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《歩き遍路は出会いと学びがあらいね》
リビングで緑茶を楽しんでいるばあばとの会話です。
「今は、コロナ禍で難しいけど、海外のお遍路さんも増えてきとったねー、歩き遍路は大変よー、バスや、タクシーで回りよる人も多いよねー」
「歩き遍路は人生の学びがあらいねー」
「歩いたら、人との出会いが多いわい」
私は八十八ヶ所を一巡したことがありません。近いうちに巡ってみたいと思っています。
【ばあばの俳句】
梅雨晴間今日の散歩はポストまで
母にとって雨が足かせになる梅雨はあまり好きな季節ではありません。その上、ステイホームで歩くことがおろそかになっているので一人での外出は近くの郵便局のポストまでと嘆いている自分を詠みました。
それでも出掛ける気力がある母は素晴らしいと思います。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗