お祖母ちゃんと僕の夏越し
◇◇ショートショートストーリー
僕は小さい頃からお祖母ちゃん子で、お祖母ちゃんと色々な所に行きました。初詣も夏祭りも、秋の宮出しもお祖母ちゃんに手を引かれて、昔話を聞きながら目的の場所に向かうのが楽しみでした。
僕は5歳の時に行った夏越し(なごし)のことが忘れられません。
夏越しの前の日の夜には、枕の下に自分の名前と年齢を書いた白い人形(ひとがた)の紙を敷いて寝ました。翌日、お祖母ちゃんが、「洋二、ここに息を吹き掛けるんぞね」と言というので、僕は人形に息をふーと吹きかけました。面白いなーと思っていたら、お祖母ちゃんはその人形を僕の体のいろんな所に擦り付けます、その人形を持って神社にお参りに行くのです。
僕はお祖母ちゃんと一緒に家族全員の人形を持って、氏神様に行きました。神社の石段は100段以上もあって、僕もお祖母ちゃんもハーハー言いながら登っていきました。お祖母ちゃんは「洋二、転ばれんよ」と、僕の手をぎゅっと握り締めてくれました。
太鼓の音が響く境内で、浴衣姿の家族連れに交じって僕とお祖母ちゃんも夏越しの列に加わります。
「洋二、夏越しはな、夏越しの大祓(なごしのおおはらえ)言うてねな、普段の災いやけがれをきれいにしてくれるんよ、世俗の垢を落としてくれる言うんかな、あの茅で作った大きな輪を八の字を書くように三回くぐるんよ、洋二、おばあちゃんと一緒にくぐろや」
「うん、分かった、お祖母ちゃん僕の手を握っといてよ」と言って僕はおばあちゃんの手をぎゅと握りしめました。
僕は茅の輪が上手にくぐれなくて足を引っかけて転びそうになりましたが、お祖母ちゃんが僕の体を全身の力でグイっと引き上げてくれたので転ばずに済みました。
「あー、びっくりした、お祖母ちゃんありがとう」
「洋二、ちゃんと手を握っとったけん良かったんよ、手を離したらいかんよ」
僕は輪をくぐりながらフワーっとそのまま空に運ばれていきそうな、お祖母ちゃんと一緒に空に舞い上がっていくような不思議な感覚を味わいました。その時も僕はお祖母ちゃんの手をしっかり握りしめていました。
「洋二、ありがとう、おばあちゃんどっかに行きそうじゃった、ほじゃけどあんたが手を握ってくれたけん、いかんで済んだわい・・・」
「お祖母ちゃん、大丈夫、僕、お祖母ちゃんの手を離さんけんね・・・」
「洋二、頼むよ」
僕は「今日は何だか変な日だなー」と思っていました。しっかり者のお祖母ちゃんが自分の人形だけ忘れてきたのです。
「洋二、おばあちゃん自分の人形を家に忘れてきたわい、みんなのは持ってきたのに、ばあちゃんのだけ枕の下に入れたままじゃったわい」
僕は何だかわからないまま、お祖母ちゃんに言いました。「お祖母ちゃん、今日は僕の手を離したらいかんよ、絶対に」
「洋二、あんた頼りになるなー」そう言いながらお祖母ちゃんは僕の手をぎゅっと握りしめました。
僕は今もお祖母ちゃんのあの手の感触を忘れることが出来ません。
何故なら、あの日が、僕とお祖母ちゃんとで出かけた最後の夏越しになったからです。
僕は毎年夏越しの日にはお祖母ちゃんを思い出して、人形にふーっと息を吹きかけています。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《行事は大事にせんとねー》
リビングでおもちを頬張っているばあばとの会話です。
「やっぱりしきたりは守るんがええ、夏越しにおばあちゃんと一緒に行けたんはよかったねー、思い出になったけん」
「お母さんに、ストーリーに入り込んどるがね」
「昔からの行事は、大切にしてほしいわい、それだけ、今年ももうすぐじゃけん、私の人形忘れられんよ」
今年も母の代わりに私が氏神様に行くことになります。夏越しは私にとっても、大切な行事です。
【ばあばの俳句】
北斎の描き迫るや夏嵐
ばあばは最近葛飾北斎の絵もオマージュで描いています。波の迫力に圧倒されてそのイメージを捉えようと懸命です。その迫りくる波に圧倒されながらイラストを仕上げました。
書き始めたばかりなので中々思う作品が生まれないと、自分の中で葛藤しているようです。そんな自分自身を詠みました。これから毎日葛藤している姿が見られると思います。
▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗