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おとぎばなしの手紙〈一通目〉あいさつ(全文無料で公開しています)

あいさつ

 きっとみなさんは、王子さまやお姫さまがお城で踊っていたり、妖精や鬼が森のなかをうろついていたりする、そんなおとぎばなしの世界は、われわれがくらしているまことの世界とはまったくべつのところにあるとお考えでしょうが、それはあなたが馬を背中におぶって走るのとおなじくらい、まちがっています。おとぎばなしの世界、それはみなさんも小さいときに絵本や童話でおよみになったものですが、それは今でもまことの世界のあちこちにひそんでいて、ときどき、わたしたちにふしぎな映画をみせてくれるのです。

 たとえば、バターのびんの底とか、花びらと花びらのあいだであるとか、人があまり注意して見ないような場所がありますが、そういうところによく、おとぎばなしの世界はかくれています。おとぎばなしの世界は、ちいさくて透明なのような形をしていますから、必然、ものの隙間とか裏がわに貼りついていたりして、なかなか気づきにくいものですが、わたしはそれを五十は集めました。

 そこでは、みなさんがもうとっくの昔にいなくなってしまったとかんがえている魔法使いや、死んでしまわないと会えないとおもわれている幽霊などがあたりまえのようにいて、彼らだってちゃんと、ごはんをたべて暮らしています。おとぎばなしの世界はきっと、みなさんも見たいとお思いでしょうから、わたしはわたしの見つけたおとぎばなしを、とびきり上等な便箋びんせんに真っ青なインクでしたためてお届けしようとかんがえました。

 だから、これからおはなしするのは、わたしがみなさんに渡り鳥の切手を貼ってさしだす、おとぎばなしの世界からの愉快な手紙なのです。

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おとぎばなしの世界でみつけた、たのしいおはなしや、めずらしいおはなしを手紙にかいて、つむじかぜゆうびんで送ります。つむじかぜゆうびんはいいかげんなので、いつ届くかわかりません。渡り鳥の切手の代金をいただきます。

おとぎばなしの世界でみつけた、たのしいおはなしや、めずらしいおはなしを手紙にかいて、つむじかぜゆうびんで送ります。つむじかぜゆうびんはいい…

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