【表現辞典】霊石典〈序文〉
言葉というものを、どのように表せば最も腑に落ちるかと考えたとき、わたしが第一に思いついたのが「霊石」という表現でした。
言葉ひとつひとつは、どれも私たちの身の回りに溢れていて、私たちはそれを無意識に口から発したり、紙に書き記したりしています。言葉とは、意識しなければその存在すら気づかない取るに足らないもの。それはまるで、道端に転がる石のようなものではないでしょうか。
しかし、言葉はただの石ではありません。そのひとつひとつには、たしかに意味や印象が込められていて、ときに驚くべき力を発揮し、美しい詩や、人を奮いたたせる演説などに姿を変えるのです。その込められた力に実体はありませんし、取り出して眺めることもできませんが、そんな目には見えぬ霊力と呼ぶべきものをすべての言葉は持っていて、優れた書き手は自在にその力を引き出すのです。
文章を学ぶうえで絶対に必要となる言葉の理解。私自身、その原点にもういちど立ち返りたいと思い、言葉とじっくり向き合ってみることにしました。語句をひとつずつ取り上げ、その意味や用法を丁寧に探っていくことをつうじて、自分の文章に活かすことを目指します。
その記録および集積として、表現辞典という形式に編集していくことにしたのですが、霊力を宿した石をひとつひとつ集めていくという意味を込めて、その辞典を「霊石典」と名づけました。
霊石典では、よく使われる言葉をひとつひとつ扱い、その意味や印象、さらには類語や用例を取り上げることで、その言葉の輪郭と本質を学びます。そして、その言葉を文章表現のうえでどう活かすか、その方法を考えます。
言葉にはすでに力が宿っています。そして、その言葉を誰でも使うことができます。だとしたら、その力を自分の文章に活かせるか否かは、純粋に書き手の意識しだいということです。この霊石典では、言葉の持つ力を最大限に引き出すための、真摯な言葉への向き合いかたを学んでいただけると思います。
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