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おとぎばなしの手紙〈十一通目〉花と星座(全文無料で公開しています)
花と星座
月がとおり道にある星を隠したからといって、そのせいで月を恨むひとなどありませんが、その詩人はちがっていました。星を詩作の師とあおぎ、夜空からふりそそぐ星あかりを美の源として受けとる彼には、月が目あての星を、そのおおきすぎる図体でもって隠してしまうことなど、ゆるせるはずもなかったのです。
そこで、詩人は月がその場から離れるまでのあいだ、なんの一文字も書くことがありませんので、ひまをつぶそうとおもったその人は、野辺に咲く花をつんでは、丘のうえにでたらめに並べました。詩人が一輪の青い花を丘のうえになげたとき、さきにあった、たくさんの白い花と、すこしの赤い花と、そのあいだくらいの黄色い花がつくっていた十一角形のライオンの、ちょうど目のところに落ちました。
ライオンが、わあと吼えたので、詩人は丘をはしってにげました。ライオンも花びらをまきちらしながら追ってきて、どどんと詩人にむかって飛びかかりましたが、ライオンは詩人のあたまのうえをこえていったので、詩人にはライオンのへそが見えました。へそは赤い花だったので詩人は笑いましたが、ライオンは七つの白い花がならぶしっぽをひるがえしながら、よるのそらへ駆けあがってしまいました。
それいらい、詩人は毎晩、花をつんで丘にならべましたので、鹿や檸檬や水車や土瓶など、夜空にはたくさんの星座が舞いあがり、その花の色をきそっているのです。
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