「(笑)」について
たとえば、インタビュー原稿を書くとき、文中に
「(笑)」
…をいくつ挿入すべきか
(=いくつまで挿入してもいいのか?)は
意外と重要な問題だったりします。
ぼくは、まだ駆け出しのライターだったころに
「(笑)は一つの本文に一つ、多くても二つ!」
…と、当時の担当編集者に
叩き込まれてきた世代なので、
30年近く、そんなセオリーを
死守するよう努めてきました。
ところが、現在の若い世代の…とくにネットコンテンツを主戦場とする編集者には、この
「(笑)の出し惜しみ」
…が「なんで?」ってことになるらしく──先日は、とある格闘家のインタビュー記事を入稿した際、
──お休みのときはなにをしてるんですか?
◯◯:食べるのが好きなんで自炊しています。
──じゃあ、好きな食べ物は?
◯◯:意外と「豆腐」なんですよ(笑)。
…といったくだりを、
──お休みのときはなにをしてるんですか(笑)?
◯◯:食べるのが好きなんで自炊してます(笑)。
──好きな食べ物は(笑)?
◯◯:意外と「豆腐」なんですよ(笑)。
…と修正され、一つに絞った渾身の「(笑)」を
一気に4つも使われてしまいました。
「好きな食べ物は(笑)?」
…って、なんやねん!?
「いくらなんでも笑いすぎだろ!」
…とは、ついツッコミたくなりましたよ(笑)。
でも、昨今のネット記事では、
「(笑)を句点(。)代わりに使用する」
…くらいのほうがリズム感も良くスイスイ読めるのかもしれない…などと考え直してみたら、もはや、なにが「正解」なのか、わからなくなってしまいました。
そう言えば、我が阪神タイガースを日本一にまで導いてくださった岡田彰布監督のインタビュー記事でも、去年はどのスポーツ新聞も、岡田監督の口癖である
「おーん」
…を「そのまま原稿に起こす」という実験的な試みをなさっておりました。
たとえば、以下のような感じであります。
「理想はだって一年間ローテーション守ってな、おーん。そら当然2桁でな。貯金つくれるピッチャーやで、開幕も、そやなー、おーん」(※去年「開幕投手の理想像は?」と質問された際の回答)
「12月はもう、ゴルフばっかりやってた。そんなん、おーん。まあ、1月入ってからやな、動き出したんは」(※去年「現役時代、12月はどう過ごしていた?」と質問された際の回答)
「今年だけやろ。しゃあないけど、今年はな、おーん、なあ、おーん。だから3キロぐらいやせてたわ」(※去年「今年のオフは岡田監督もお忙しかったでしょ?」と労われた際の回答)
たしかに、リズミカルかつ破壊力抜群…ではありますけど──ただでさえ岡田監督の(タメ口になったときの)会話内容は、音声で聞いても解読難度が相当高いのに、あらためてこう活字に起こしてみると…
なにを言っているのか、さっぱりわかりません。
そして、「さっぱりわからない」ってことは、
「わかりづらい内容の談話を
内容を変えずに
わかりやすく伝えること」
…を至上命題としなければならないはずの
メディアの姿勢として、本来的には
「間違っている」
…ってことになります。しかし、大手スポーツ新聞は
「わかりやすさより
面白さとリアルなニュアンス」
…をチョイスしたわけで、少なくともぼくはこれらの「おーん」入りの岡田語録記事を去年は毎日ネット上で読むのを楽しみにしていたので、やはり
「イマドキの正解?」
…ってことになるのでしょう。ただ、今年になって
からは、本文中の「おーん」を極力省き、
──インフルエンザが流行っているみたい?
「おーん。なんかのう。まあ、明日の状態。明日(発熱した梅野捕手の熱が)下がってたらええけどなあ。下がってたらあれやけど、明日の状態みてからやな。おーん」
…と、最後の〆となる世間話的な文章にのみ、
「これでもか!」という勢いで「おーん」をブチ込む手法にブラッシュアップ(?)されている
みたいですが…???
(※ちなみに、「おーん」の発音は「お」にアクセントをつけます。あと、「お」と「ん」の間は「〜」みたくあまり揺れないため、「―」がベストなのです)
そして、この「おーん」の正体とは──
とどのつまりが
「〜だね、うん」
「〜だと思うよ、うん」
「〜ですね、はい」
「〜でしょう、ええ」
…などのしゃべり口調の「うん」「はい」「ええ」に該当するもので、岡田監督の場合は(おそらく)「うん」がいささか間延びしたような格好で「おーん」に聞こえてしまうのだ…と推測されます。
また、こうした「会話中、無自覚につい多用してしまう“口グセ”」は、なにも岡田監督だけではなく、「しゃべりのプロ」であるアナウンサーやタレント・役者のような職に就く者以外の誰もが、矯正されずに一つや二つ持っているものでもあります。
たとえば、ぼくはたまにテレビやラジオに出演した際、そのオンエアを録画でチェックすると…
「もう〜」
「そりゃ〜」
「そんなん〜」
…という単語がやたら耳についてしまいます。
緊張すればするほど、熱くなればなるほど、無意識のうちに口グセとして連発してしまうのです。
サッカー日本代表の吉田麻也選手をはじめとする多くのアスリートが、ヒーローインタビューなどで接頭語として頻繁に使用しがちな
「そうですね〜」
…とかも同様──もし、なにかのきっかけで自身の会話をチェックできる機会に恵まれたならば…
一度そこから
「不必要な口グセ」
…をピックアップし、それ(ら)を省略してしゃべる訓練をしてみることをオススメします。
そういったちょっとした気配りだけで、あなたのトークは、うんと洗練され、わかりやすくなるはず──
もちろん、岡田監督みたいに
「口グセがゼニになるレベルの面白さ」
…を秘めているレアケースは除いて
…なんですけど?
なんか、今日は話がえらく
脱線しちゃいましたね(笑)???