僕とバドミントン
僕がもし子どもにスポーツをさせるなら後に別スポーツを専門とするとしても、様々な運動経験をさせてあげたいと考えています。子どもをオリンピアンにしたい、プロにしたい願いは今のところないのですが(ほら、実際に子どもを持たないから言える綺麗事みたいなものもあるじゃないですか、きっと自分の子どもができたら天才キッズの育成に命懸けてSNSでバズることねらってるかもしれないし)早期専門化の弊害みたいなものはきっとあって、怪我やバーンアウトのリスクを考えると早くに専門種目一本に絞ってしまうのはあまり望ましくないのかなと思うのです。
これまでたくさんの子どもと授業をしてきましたが、初めてのスポーツに強い子は、もれなくたくさんの運動経験をもっていました。初めてやるスポーツでもそのスポーツのもつ特性と類似する運動経験を用意して運動課題に適応していくことができるので、運動経験の少ない子どもと比較すると単元の中で身に付けることのできるものが量的にも質的にも違います。
定期的に読み返すサガン鳥栖の宮脇晴己くんのこの記事がめちゃくちゃ良い記事なので、僕の記事はもうこの際どうでもいいので代わりに読んでみてください。
記事の中でも
と述べられています。
要するに小さい頃から色んなことやっておいた方がいいよねーという話です。コアな女性ファンもほしいので美容に例えて説明すると、導入美容液入れておいた方がその後の化粧水の浸透率が良い的な話です。
ちなみに僕が教えていたJFAアカデミー福島の子ども達もサッカーのエリートでありながら、小学生の頃はアイスホッケーやゴルフ、バスケ、陸上等でも県を代表する選手だったといいます。
遊びがなくなってきた今だからこそ、意図的に遊びの環境を作る必要があるのですが、日本の学校体育ってその点優れたシステムだと思っていて、週3回、年間5〜8程度の運動種目を経験できるのです。つまり色んな動きを体育の中で作ることができます。
もしFMSの構築に体育が一役買っているとしたら、植中朝日(横浜F・マリノス)に卓球を教えたのは僕だし、三戸舜介(アルビレックス新潟)にソフトボールを教えたのは僕だし、加藤聖(Vファーレン長崎)にハードル教えたのは僕だし、鎌田大夢(ベガルタ仙台)にバスケ教えたのは僕だから、彼らが代表入ったら僕もブルーペナント貰えるんですか?(黙れ)
めちゃくちゃ前置きが長くなったので、本題に入ります。
今回はバドミントンいいよって話です。僕に子どもがいたらまずバドミントンやらせたいなって話です。そんな話を僕の授業とともに話していきます。
バドミントンのここがいい
授業をやっていて僕が感じたバドミントンの良いところを紹介します。
1 筋力に頼る事なくシャトルが飛んでいくから楽しい
こんなことを言ったら桃田賢斗さんに怒られてしまうんですが、バドミントンはそのスポーツを初めてやる人が出逢うハードルが他のスポーツと比較しても低いと思うんです。良い意味で!良い意味で!つまりプレーが上手くいきやすいスポーツなんです。シャトルの構造上、大きな筋力に頼ることなくプレーできること、またシャトルに対してラケットの面積が広い分捕らえやすく、「上手くいくから楽しい」を学習初期から実現できるため、成功体験から授業がスタートしやすいのです。
「上手くいくから楽しい」はそのスポーツを楽しむための絶対条件ではありませんが、あるに越したことはないため、スポーツを初めてやる子ども達にポジティブな経験からスタートさせるためには良いなと思います。つまりモチベーションが維持しやすいため、運動に親しむことができる時間の長さからバドミントンのもつトレーニング効果をしっかりと享受できるのではないか、という話です。
2 コスパ良く落下地点に入ることを求められる
運動が苦手な子に共通することは、運動経験の不足です。「運動神経がない」と言われるアレは、「運動経験がない」と言い換えても良いかもしれません。
例えばソフトボールの授業において、まず運動経験のない子が直面する課題は、落下地点に入れないということです。打球の方向、角度、高さ、速さからボールの落ちる位置を瞬時に判断する必要があります。ただ、「この高さで、このスピードだとどれぐらいの位置に落ちるか」を知らない子はいわゆる、かぶってしまったり、打球に届かなかったりするわけです。しかし、練習量を増やす中でだんだんと予測という名の経験、知識との照合ができるようになります。つまりは、知識量の増加がパフォーマンスの向上につながるわけです。
ただ、ソフトボールの授業では自分のところにフライが飛んできてもせいぜい1時間で3回程。落下地点に入る練習をするにはあまりにコスパが悪い。
しかし、バドミントンの授業では常に落下地点に入る事を求められます。空間認知のトレーニングがコスパ良くできます。
はじめのドリルからゲームまで1時間で何回シャトルを打ったか(落下地点に入ったか)を数えてくれた女の子がいます。
「先生問題です。私は1時間で何回シャトルを打ったでしょうか?3択です。①500回②501回③502回さてどれでしょう?」
「え、問題作るのめっちゃ下手なんだけど、、バラエティとか見たことないの?まぁいいや、、③?」
「えーと多分501か502!忘れた」
「えーと、怒ってもいい?」
でもその女の子のおかげで多い子で500回近く落下地点に入ることができることがわかりました。
ちなみに僕がこの単元で一番身に付けさせたかったスキルは、「下がりながら打つ」なんですが、単元のはじめには頭の上をシャトルが通過していった子ども達も、みんな下がりながら打てるようになりました。
ちなみにサッカー部はヘディングがめっちゃ上手くなりました。学習の転移はあると思います。
3 短時間でたくさんSAQを求められる
バドミントンは世界最速球技なんて呼ばれるのですが、シャトルの構造やコートサイズから考えてもプレー間が短いため、より素早く次のプレーへの移行が求められます。ホームポジションという次のプレーに効率良く出て行くためのポジションがあるのですが、そのポジションに戻ることも、相手の打ったシャトルに素早く反応することも、その動作全てに正しく、速く動くこと、つまり高いSAQの能力が求められます。SAQ:Speed(スピード):重心移動の速さ Agility(アジリティ):運動時に身体をコントロールする能力 Quickness(クイックネス):刺激に反応して速く動き出す能力 らしいんですが正確にはもっと細かいと思います。
ラダートレーニングなどに代表されるステップワークのトレーニングがアスリートにとって大事なのは理解した前提で、バドミントンのように楽しみながら刺激を入れられるスポーツは、子どもにとってやらされてる感なく気づいたら鍛えられていた、を作るのでモチベーションを維持しやすいと感じます。
4 「頭を使ってプレーしよう」を実現しやすい
スポーツの世界ではよく指導者から「頭を使ってプレーしよう」と言われることがあります。脳によって動かされてプレーが起きるわけですから、厳密に言うと頭を使ってプレーしていない選手なんていないわけです。そのため発言の意図は「敵の位置やスペースを認知して、敵が嫌がる効果的なプレーをしよう」的なところにあるでしょうか?サッカーの流行り言葉で言う認知、判断、実行のサイクルを速くかつ正確に回すことが求められているのだと思います。
ただ実行における技術的な負荷が高いスポーツにおいては、正しく情報を取れて行おうとするプレーの選択が間違っていなかったとしても、技術の不足でプレーが成立しないことがあります。「頭使えよ!」と言われてしまっても、「考えてはいたんだけど…」という子どもがいます。技術があれば選んだであろう方法も、そのプレーの難しさから選べないことがあります。そのため相手の意図を読んで駆け引きをするゲーム展開まで体育の授業内ではもっていくことが難しいのです。
ただバドミントンは学習が進んでくると、子ども達の中で意図的な駆け引きが見られるようになります。これは大きな筋力に頼らなくても相手を動かすことができること、人数の少なさからスペースを認知しやすいこと、技術が安定しやすいため「次どうしようかな?」にリソースを割けることなどが理由です。
技術の難しさによって相手の頭の中まで想像するだけの余裕がない、というのは運動経験の少ない子どもあるあるですが、バドミントンはそんな子どもでも駆け引きを楽しむ姿が見られました。
相手がこうだからこうしよう、そんな頭を使ってプレーする感覚を得るためにうってつけのスポーツだと思います。
僕のバドミントンの授業展開
では、そんなバドミントンの良さをどのような授業展開の中で学んでいったかを紹介します。
基本的には
①アップ(鬼ごっこ系) 5分
②ドリル、制約ゲーム15分
③フライト(ショット)の紹介、練習5分
④1分ゲーム 15分
⑤フリー 10分
こんな流れで毎回授業を行います。それぞれ簡単に紹介します。
①アップ(鬼ごっこ系)
僕の授業は毎回簡単な動的ストレッチの後に、20種類ぐらいある鬼ごっこの中からその日の目的によって1つを選びます。心肺に刺激を入れるもの、頭を使うもの、チームで協力するもの、細かなステップワークが求められるもの等さまざまです。機会があればまとめてみます。
② ドリル、制約ゲーム
このように毎回さまざまなドリルや制約を設けたゲームを通してできることを増やしていきます。ドリルや制約を自分で考えるのが好きなのでやってみてオーガナイズやルールのエラーに気付くこともあるのですが、その時はだいたい子どもが「これってルール変えてもいいですか?」「コート狭くしてもいいですか?」と言ってくれます。ゲームが拮抗するためにはどんな難易度が良いか、1年間一緒に過ごしているとみんなで授業をおもしろくしていこうとする気概が見えます。
③ フライト(ショット)の紹介、練習5分
この単元ではサーブ、クリアー、スマッシュ、ドロップ、ドライブ、ヘアピンを扱いました。それぞれどんな効果を持つのか説明した後、それらが自然と生まれるような制約ゲームを入れます。
Ex.クリアー
対空時間の長いフライトを打った方がいいような制約を加える→ナンバーラリー(打つ瞬間に指で数字を提示、相手は打つ瞬間にそれを読む)→見て読むために時間が必要→クリアーのような山なりのフライトが増える
Ex.ドライブ
地面と並行の速いフライトを打った方がいいような制約を加える→ハヤウチ(40秒で40回)→クリアーのような山なりのフライトだと対空時間が長くなり数が稼げない→ドライブのような低くて速いフライトが増える
Ex.スモールボックスゲーム
ネットすれすれのフライトを打った方がいいような制約を加える→スモールボックスゲーム(ネットから1mぐらいのボックスでゲームを行う)→大きいフライトだとアウトになる→ヘアピンのようなフライトが増える
やはり使えるフライト(ショット)が増えるとともに戦い方の幅が広がるようになりました。
④1分ゲーム
1分間、ハーフコートでシングルスのゲームを行います。1分間経ったら右に1つずれて相手を変えます。1人が守れるスペースを減らすことで男女混合誰とでも拮抗したゲームができるようになりました。
⑤フリー
毎回10分程度自由に使える時間を用意しました。コート一面使って正規のゲームをやる者、僕に勝負を挑む者、シャトルとラケットを使ったニュースポーツを考える者、そのどれもがちゃんと遊びなのです。こういう強いられたトレーニングでない遊びの中だから、上手くなることを求められることから解放されて、勝手に上手くなっていくんだと思います。
僕らはアスリートの育成をしているわけではない
日本の多くのアスリートが学校体育を経験し、幅広い運動経験を与えられたことでアスリートとしての幅を広げていたとしても、僕ら体育の先生の目的はアスリートの育成ではないのです。子ども達がさまざまな運動経験を積んだことで、結果としてアスリートとして大きく力を伸ばしてもそれは副産物でしかないのです。
僕らの仕事はあくまで学校体育の楽しかった記憶が、ずっと子ども達の中に残り続け、生涯に渡って運動に親しむことのできるきっかけを与えるぐらいのものです。
だからスポーツは上手くなければ楽しめないという勘違いから、順番を間違えてはいけないんですね。上手くいかない過程にもたくさんおもしろさが詰まっているのに、味もしない練習をずっと繰り返したり、基礎ができるまでゲームはさせないなんて指導しちゃったり。地味でつまらないことしか人を上手くしないと考えている大人がまだまだたくさんいるよねって話です。
僕は遊びの中で野球やバスケが上手くなりました。そこには大人の手が掛かっていない。アスリートを目指しているわけでなければ、遊びがある程度まで育ててくれるんですね。
教育は邪魔しない、ですから。
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