新宿のとある焚き火Bar、銭湯での回想と、欲について。
僕たちはいつも何か、目の前の出来事に頭を悩ませ、
まだ起こっていない未来に対して不安を抱く。
お金がなければ、どうやってお金を稼ごうかとか、
今の仕事のままで今後やっていけるのかとか、
もっと勉強しておけば良かったとか、
彼女がいなければ、
自分に自信がなくなってしまったりとか、
好きな人ができて、彼女にしたいと思っても、
デートに誘ったら断られるんじゃないか、
告白して振られてしまったらどうしようとか、
彼女ができても今度は、
もっと会いたいという欲が生まれて、
その欲に飲まれ、不満が生まれたり、
他のことが手につかなくなってしまったり。
たくさん会えば今度はそれが日常になり、
関係がマンネリ化して、
会いたい気持ちが薄れてしまう。
どんなに望むものを手に入れても、
どれだけ欲を満たそうとしても、
次から次へと、悩みや、不安が訪れる。
それゆえ、理想を完全に、
完璧に達成することは不可能なのだ。
人類は常に不安を予測して、
それを回避することで生き延びてきたし、
他者に勝とうという意志を持つことで、
優秀な生存に適した遺伝子を残そうと試みてきたため、
勝手に、不満や欲が生まれ続けるよう、
プログラミングされている。
僕たちは、その数千年の歴史に抗うことはできず、
逃れることはできないのかもしれない。
それに、何かを手に入れようと勇気を出しても、
失うことだってたくさんある。
実際にこんなことが、1つや2つじゃなく、
本当に、数え切れないほどあったように思う。
沢山傷ついてきて、傷つけてしまったこともあったと思う。
以前、売上億を越える経営者たちと、
新宿のとあるバーで飲みながら話していた。
作り物の焚き火がゆらゆらと揺れていて、
それが店内の暗闇を静かに灯して。
僕たちの人生も焚き火と一緒で、
どれだけもがいても、堰き止めることはできず、
ゆらゆらと移り変わってしまうもので、
信じていた永遠もいつかは
終わってしまうのかな。なんて思いながら、
グラスに入った、
マスカットのカクテルを口に運ぶ。
店内は静かで、その焚き火だけが頼りで、
アルコールが入っていたのが原因かは分からないけれど、
視界はほんのり朧げだったのを覚えている。
最近の事業の調子や、これからの展望、
周りの経営者のプライベートなど、
表には出てこないような話を沢山した。
光が生まれる場所には必ず影が生まれるもので、
表では煌びやかな凄腕経営者も、
孤独という名の闇を抱えていたり、
精神的に疲弊してしまっている人いた。
それぞれ2〜3杯ほど、アルコールを摂取して、
話も大方落ち着いてきたところで解散した。
その後、その場にいた経営者1人と、
タクシーで近くの、こじんまりした銭湯に訪れた。
もう時刻は2:00を過ぎていたこともあり、
アルコールで朧げだったこともあり、
湯に浸かっている間、僕たちは言葉を交わさず、
ただ、浮遊している泡を掬おうと試みた。
数え切れないほどある泡は、
掬おうとすると、たちまち弾けて、
形を残さずに消えてしまう。
まるで最初からなかったかのように。
掬っても掬っても、次々と弾けてしまう。
時々、そっと静かに掬った泡だけは、
わずかな間だけ、手のひらの上で、
形を保ったままゆらゆらと浮かんでいた。
しばらく湯に浸かったのち、更衣室に戻ったとき、
一緒に温泉に訪れた経営者が、ふと髪を拭きながら、
「起業の世界に限った話じゃなく、
成功している人の大半は、
本当に欲しかったものを手にしてないと思う。
君は本当に欲しかったもの、なんだったの?」
と呟いた。
そのときの悲しげで、でも何かを悟ったような、
力強い表情は今でも鮮明に覚えている。
その経営者は夜中の街に消えていき、
僕は少し仮眠を取ったのち、帰路に着いた。
高層ビルがギラギラと灯されて、
人で溢れかえったいつもの新宿とは裏腹に、
まだ日が昇らない夜明け前の新宿は、
人気がなく、閑散としていて、何もなかった。
全てがそこにあるように見えて、
本当は最初から何もなかったのかもしれない。
僕たちはこれから先もずっと、
理想を完全に達成することはできないのかもしれないし、
何かを手に入れても、
代わりに何かを失い続けるのかもしれない。
自分の欲しいものすべて、
手に入れることはできないのかもしれない。
ただ、それでいいのかもしれない。
ずっと手に入れられないまま、
ずっと見つけられないままだからこそ、
物語は続いていくのであって、
見つけてしまったら、手に入れてしまったら、
その時点で物語は終わりなのだから。
むしろ、見つからず、手に入らないことは、
不満や不安、劣等ではなくて、
僕たちにとっての
永遠の希望とも言えるのだから。
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