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出会いは喪失なのか、あるいは加算なのか。

赤坂の割烹料理を食べに行った後、
気分転換でなんとなく港区を散歩していると、
突如として赤い塔が現れたことがあった。

そこには一度しか訪れたことがなかったものの、
ふとその時の懐かしい感覚が蘇ってきて、
気付けばそこへ向かって歩みを進めていた。

当時はそこまで関心がなかったのか、
それとも違う何かに夢中で見えていなかったのか。

東京タワーの鉄骨がこんなにも地面から近くに、
聳え立っていることに驚いた。

ここに訪れたのは小学生以来だ。

あれから時間が経って、近くに住んでいたはずなのに、
一度も訪れたことはなかった。

当時のクラスメイトは今何をしているんだろう。
ふと当時の同級生を回想し始める。

当時から繋がりがあるほんの数人から、
同級生の近況について断片的に知ることはあった。

高校を卒業してすぐに地元の工場で働き始めた人、
高校生で子が生まれて、そのまま家庭に専念し始めた人、
某有名大学に合格して日々課題に忙殺されている人。。

みんな、それぞれの道に進んでいた。

元々は同じ場所にいたはずだったのに、
今はそれぞれ全く違う場所にいる。

学校にいるときも、放課後も、
ずっと同じ時間を過ごしてきて、

それがこれからもずっと続いていくと、
思っていた。

でも一度、違う道に進み始めると、
再び出会うことは無くなった。

歳を重ねていくと、出会いが増えていく一方で、
その数だけ別れが訪れることを知った。

昨日まで同じ景色を見て、言葉を交わして、
同じ方向を向いていたはずなのに、

あるとき、それぞれが一本違う道に進み始めた瞬間、
歯車が揺らぎ、何かが変わってしまうのだ。

その後、再び出会うことはあっても、
あの頃とは違う、お互いの相違に気付かされ、
自然とまた違う方向へと進み始めてしまう。

小学校も、中学校も、高校も、大学も、
当時、毎日のように言葉を交わしていた人は、
たしかに沢山いて、

飲み会で浴びるようにアルコールを摂取して、
お互い支え合いながら最寄り駅までふらふらになって歩いたり、

朝まで号泣しながら本音を打ち明けて話したり、
旅館で間接照明だけが頼りの部屋で、恋愛とか人生を語り合ったり。

色んな時間を共にしてきた。それでも、
あるときをきっかけに、道の分岐点を超えた瞬間に
再び出会うことはなくなってしまう。

そんなことがこれまで、
幾度となく繰り返されてきたように思う。

だから、出会いというのは喪失だと思っていた。

「東京タワー、ここから見えるね。綺麗だなぁ。あそこにたくさん人が集まってて、今も街を眺めてるのかな。」

恋人と夜、東京の街を散歩していたとき、
いくつかの建物を挟んだ先に橙の光を放った塔が見えた。

真っ黒のキャンパスを上から橙の絵の具で、
ゆっくりと押し広げたように、街へと光を広げていた。

出会いは喪失なのだろうか。
だとしたら僕たちはなぜ出会うんだろう。

「ねえ。付き合った先には、別れか、死ぬまでずっと一緒にいるか。この2択しかないでしょ。だから出会いを遠ざけていたし、始めることが怖かった。その時は幸福でも、いつか失ってしまうんじゃないかって。」

頭で考えるよりも先に
独り言のように言葉が溢れていた。でもそれは間違いなく本音だった。

彼女は歩いている道の途中で止まり、
遠くにある何かを眺めている。

「出会えば出会うだけ、別れの数も増える。でもこれまで出会ってきた人がいるから今私はあなたといるわけで。過去の出会いが1つでも欠けていたら、今私はあなたといないかもしれない。だとしたら、過去の出会いは別れじゃなく加算になると思うんだ。」

静かに微笑みを浮かべながら、遠い何かを眺めている、
視線の先を静かに追いかけてみると、

建物をかき分けた最奥に、
根元まで橙色に発光した東京タワーが露呈し、
麓の道には車が忙しなく交互に行き交っていた。

「出会いは別れじゃなく加算」

その言葉に今だに救われる瞬間がある。

僕たちは、歳を重ねていくたびに、
出会いと別れが共存していることを知っていく。

だから出会うことに億劫になって、
次第に自分の殻に閉じこもってしまう。

自分の殻に閉じこもるために、
僕たちは歳を重ねるのだと思っていた。

でも、本当は何も恐れなくていいのかもしれない。

あの日から、僕たちが歳を重ねるのは、
過去の出会いを加算に変えるためだと思い始めた。

そうして、出会いが喪失ではなく、加算なのだとしたら、
僕たちは勇気を出して出会いにいくべきだと思う。

初めから喪失を恐れて、出会わない選択を取ってしまえば、
それこそ本当に大切なものを失ってしまう気がする。

出会うことは怖い。いつかふとした瞬間に、
お互いが違う道に進み始める瞬間が必ず訪れる。
歯車が揺らぐ瞬間が必ず訪れる。

でも、あの時の彼女の言葉を加えれば、
むしろ、出会いというのはその瞬間から、
始まるものなのかもしれない。

お互いに相違があることを見つけてから。
そこからが”出会い”なのかもしれない。

道は必ず道へと繋がっている。

ほんの少しの勇気さえあれば、
別れた道の先でも、また再会できることに気付かされた。

昔、ある小説家と一緒にタクシーに乗った時に、
ふと呟いていたことを思い出す。

「まあ今の時代、ちょっとよさそうなものは沢山溢れてるけどさ、本当に大切なものって本当に僅かで。結局、人生、最後に残るのは、思い出と人だけだよ。」

もしそうなのだとしたら、
目の前の出会いを心から大切にしていきたい。

違う道に進む時が訪れても、歳を重ねても、
再び、出会う勇気を持ち続けたい。

今年中にもう一度、恋人と一緒に、
朧げな橙色に染まったあの場所へと足を運んでみよう。

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