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見つけられないままの何かと、終わらない物語。冬、AM0:40のタクシーと夜行。

あの頃、僕はずっと「生きる意味」を探してた。
きっと誰もが一度は考えることだと思う。

当時のことを振り返ってみると、
とても不安だったのだと思う。

起業して2年で1000万円ほど稼いだり、
友人と楽しく遊びに出かけたり、
美味しいご飯を食べれたり、

満たされているはずなのに、
先の見えない霧がかった道にずっと怯えていた。

白黒はっきりしない、輪郭のない、
そのぼんやりとした何かが怖かったのだと思う。

「本当に欲しかったものってなんだろうって。生きる意味ってなんなんでしょう。」

合計3万円ほどの馬刺を食べたあとのタクシーの中、
年間1億近く売っているストーリーライターに突然尋ねた。

季節は全てが枯れきった冬で、僕たちは厚着をして、
その寒さに必死に対抗していた。

しばらく何も答えが返ってこなかったものだから、
聞こえなかったのかと思い、顔を覗こうとしたものの、

その後すぐに返答が返ってきた。

「Y君はさ、小さい頃にかくれんぼ、したことある?」

なんのことだろうと思ってもどかしかったものの、
答えを早く知りたかったゆえ、

かくれんぼをしていたのが
いつのことか思い出せないうちに返事をした。

「はい、ありますけど、、」

「じゃあかくれんぼのルールは分かるよね?」

もう一体なんのことか分からなかったし、
自分が質問を間違えてしまったのかと思ったけど、
焦る気持ちを落ち着かせて、一旦話を聞くことにした。

「鬼と隠れる人がいて、隠れた人が鬼に見つかったら鬼の勝ちってやつですよね。」

「違うよ。」

心臓がドキッと脈打ったのを自分でも感じ取れた。

ここでは、そのストーリーライターをMとする。

M「かくれんぼの重大な本質はさ、勝ちとか負けとかじゃないんだよ。鬼は見つける側、隠れる人は見つけられる側。そして、このゲームは鬼が隠れた人を見つけたらそれで”終わり”っていうことなんだよ。」

僕「うん、、、なるほど。確かに言われてみればそうですね。でもそれが一体何と関係あるんでしょうか。。」

M「物語の中にいる人と展開はなんで動くと思う?なぜ多くの人から見られると思う?」

次々と押し寄せる謎の質問で頭の中が氾濫して、
自分の答えにどんどん自信がなくなっていく。

僕「みんなそれぞれ目標があるから主人公たちはそこに向かって動いて、それを見るのは感動したり、勇気が出たりするからでしょうか、、?」

M「終わらないから、だよ。」

僕「なるほど。。。」

全く意味が分からなかったものの、
もう時間も時間で車内の暖かい暖房と、
郊外から見る光を放った幾つかのビル群によって
眠たくなってしまい、それ以上は尋ねなかった。

それにしても新宿や池袋、渋谷の街は、
近くで見ると、喧騒に感じてしまうのに、

少し離れた遠くから見ると、
静かで綺麗に見えてしまうのはなぜだろう。

タクシーを降りて、
それぞれの帰路に着いて、別れ際になったとき、

Mは「一本だけ吸わせて」と言って、
煙草を手に取った。

「ねえ、さっきの話だけどさ、見つけられないままだから希望や理由があると思うよ。見つけてしまったら、手に入ってしまったら、そこで物語は終わっちゃうから。」

その言葉の意味を理解しようとする、
わずかな刹那的な数秒が経たないうちに、

「また何か進んだら教えてね。今日はありがとう。」

そう言い残して夜の街に溶け込んでいってしまった。

その時の、寂しさと孤独を溶解する街の灯りと、
そこに溶け込んでいった彼の後ろ姿が、
いまだに残像として記憶にこびりついて剥がれない。

帰り道、手を暖めようと吐息を吹きかけると、
白く染まった気体が両手に吸い込まれた。

そういえば季節は冬だ。

ふと先ほどの一連の記憶が想起され、
Mが手にしていた煙草には火が付いていなく、

あれは真冬の空気中に放った、
静かな気霜だったことに気付いた。

見つけられないまま。
手に入り切らないまま、満たされ切れないまま。

100%に達することなく、
70%、80%、あるいはそれ以下。

あえてわずかな欠乏感を残しておくという選択が、
本当は、僕たちにとって幸福であるのかもしれない。
希望や理由、意味となりうるのかもしれない。

「見つけられないまま、手に入らないままだからいい。見つけてしまったら、手に入ってしまったら、そこで物語は終わってしまうから。」

その言葉が、夜の黒いパレットに浮かび上がる、
ネオンの街と彼の横顔を背景に何度も木霊している。

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