授業中の回想。春の中、風が運ぶ五感。
もう20代前半も終わろうとしているというのに、
あの時の風の温度と感触を今だに覚えている。
中学の頃、英語の授業を受けていた。
窓際の席だったが何列目だったかは覚えていない。
外にグラウンドが見える。
時間なんて存在していなかったように思う。
ゆっくりと、ただ授業が進行している。
ここわかる人いますかー?
先生が教壇に立ち、教科書を読み上げている。
窓際で、窓を開けて穏やかな大気を飲む。
暖かく、涼しく、柔らかい風だった。
何にも形容詞しがたい、優しい香りがした。
確かあれは春だった。
五感を潤沢に含んだ大気が窓の中に、
運ばれ続けている。
最高に贅沢な時間だった。
何にも比較されず、何にも干渉されず、
全てがそこにあった。
過去への後悔も、未来への憂いも、
そこには一切存在しなかった。
給食のおかわりジャンケンで
毎日クラスが盛り上がっていた。
放課後の部活で毎日真剣に仲間たちと、
心と技術と体を高めた。
あの子、実はお前のこと好きらしいよ。。まじか。
恋バナで盛り上がった。
あの頃よりも知恵や経験を多く、
持っているはずなのに、
心の底から笑って、
心の底から楽しんでいる時間は、
あの頃の方が遥かに多いことに気付く。
何かを得るということが何かを失うのだとすれば、
知恵の代わりに純粋な五感を失ってしまったんだろうか。
自分が何になりたいか。
自分が大切なものは何か。
自分とは何なのか。
正解も、不正解も、何も分からないまま、
沢山の選択肢と岐路ばかり与えられて、
必死にもがいて進んできた。
あれだけ、繊細に世界が見えていたのに。
あれだけ、夏祭りのイベントが楽しかったのに。
どこかに五感を置いてきてしまったんだろうか。
インターバルの合図を示すようにチャイムが鳴った。
はい、じゃあ今日はここまでね〜。
柔らかい風の中の一部、ほんの一部に、
もち煎餅工場から出た煙が混ざり、窓際の外を通過している。
甘い良い香りがする。
人生で大切なものは、そこにあったのかもしれない。
回想を経てその結論に辿り着く。
チャイムがなった後もしばらく、
何も考えずにぼーっと外の景色を眺め続けていた。
ゆっくりと穏やかに、気付けない微小なレベルで、時間が流れていた。
yama.
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