蛍と川と夜と。出会う世界線と、出会わない世界線の間に揺れて。
この世界は全てが紙一重だなと思う。
1つの出来事が連鎖的にその先の出来事を動かして、
湖の波が波及するように、微小で、僅かながら、
でも確実に未来を変えていってしまう。
あのとき、ぎゅっと抱きしめていたら、
まだ一緒にいたのかな。と思う恋人とか、
自らこの世を去った大学の先輩も、
一緒にご飯食べに誘って、馬鹿みたいにはしゃいでいたら、
もう少し頑張ってみようと思えてくれたのかな。
とか、そんな紙一重の世界線について、ふと考える時がある。
彼女の地元へ行って、
無数にひかる蛍を観に行った。
木にくっつき、自分はここにいるんだと、
一生懸命発行を繰り返す蛍と、
それを包み込む静穏な川。
屋台もあった。
昔ここで水泳を教わっていたんだ。
もしかしたら、この屋台に来るかもしれないね。
そう言いながら、周辺を歩いていると、
彼女が驚いた表情を見せたから、
え、どうしたの。本当にいた?
と聞いた。
うん。10年以上ぶりだけど、
全然変わってない。間違いなくそうだ。
10年という長い時間が経過しても、
ちゃんと覚えているというのもなんか良いな。
と思ったり、
その時を経て再会するというのも、
滅多にあるものじゃない。
まだ覚えてるんじゃない?挨拶してきなよ。
こんな機会なかなかないと思い、
すかさず、彼女の背中を押してみた。
うん。どうしようかな。行こうかな。。
声をかけるか。
声をかけないか。
しばらく迷っているうちに、
そのコーチらしい男の人はどこかへ歩いて行ってしまった。
行っちゃったね笑
うん、、やっぱり声かければよかったかな、、
結局、彼女は声をかけることなく、
彼女と水泳のコーチは再会しなかった。
じゃあチョコバナナ食べて帰ろうよ。
僕らは屋台でチョコバナナを買い、
蛍に囲まれながら、星の下を歩いて帰路についた。
もし、彼女が声をかけていたら、
一体どんな再会になったのだろうか。
その先の未来で何が変わったのだろうか。
全てが紙一重の世界で、
僕たちはAとBという選択に直面したとき、
一体どちらを選ぶべきなんだろう。
黄色い発光が宙を通過して、
目で追うと、月光に浮かび上がった森と、
満点の星が広がる空が目に焼き付いて、
その世界に引き込まれてしまった。
今僕たちが見えているそれは、
今はもうない星の残像と聞いたことがある。
そう考えると、夜空というものは、
星たちの「記憶の箱」なのかもしれない。
意識を前方に戻すと、
先に進んだ彼女が笑顔で手を振って呼んでいた。
風がまだ生ぬるい初夏のことだった。
yama.