読み方は生き方[読書日記]

本の読み方 スロー・リーディングの実践 平野啓一郎 (PHP文芸文庫/Kindle版)

その世界に浸れる体験こそが、読書を読書たらしめる。
「速読」で流し見てわかった気になるのではなく、本のなかに入っていけるのが読書の醍醐味で、だからこそぼくは本を読んでいるのだ。
本を読むことは、「情報」が雨のように降り注ぎ、波のように押し寄せ、渦巻いているこの社会において、いったん水から出てじわじわと太陽にあたためてもらうような体験なのだ。

現代のようにAIが進化し、情報処理においては人間の力を超えてきているときこそ、上述したようにじわじわと効いてくる、「浸れる」読書が必要だと思う。
うわべだけのしゃびしゃびしたところばかり啜っていないで、沈んでいる濃度の高いエキスを取り込んでいくべきだ。
そうやって得たものは、「これ」と具体的に指し示すことができないこともあるかもしれない。それでも、「気」とか「スタンド」のように、まわりに漂ってぼくを強化したり守ったりしてくれるものになっているはずだ。

そのような読書をいかに進めていくべきか、本書は様々な具体的方法を教えてくれる。
筆者の指南のもとに具体的な読み方の実践もできる(それをとおして、「書き方」の勉強にもなる)。
そうやって、例題を通して、「読み方」について学び考え実践していこうという気持ちにさせられる。

先ほどから述べているように「速読」に違和感を感じていた身なので、本書で語られていたことはどれも納得がいくものばかりだった。

詳細は本書を再読してまた学んでいきたいのだが、個人的に印象深かったのは、

・ただ読むのではなく考えてそれを表現することを習慣化する。その結果、読書体験はより深くより濃いものとなるだろうし、熟考する習慣もつく。

・誤読を楽しみつつ作者の意図も汲み取っていこうとする。疑問を持ちなが読む。それが結果的に、「主体的に考える力」を伸ばすことにもつながる。

・作者と対話するという姿勢をとおして、日常生活で他者と意見が異なっていたときでもまず相手の話を聴く、という姿勢にもつながる。

・さらに言えば、読み終えてからも考えていく姿勢は、安易に答えを出さない習慣を身につけることでもある。

など、スロー・リーディングによって人の生き方にも影響を与えるという点だった。

そして何よりも、スロー・リーディングによって、ひとつの物語を人生で何度も味わうことができる。
これこそ、加速度的に物事が新しくなり、それに疲弊しているであろう今の世の中に必要な生き方なのではないだろうか。
人はしばしば、大きな社会的な情報はさらっと流すが、自分に関わりのある情報や出来事に対しては異常に固執して、放言する。
だったら、そんなぼくたちのそばに置くべき物語は、インスタント的にわかりやすく浅く人間の幸福や失敗たちを暴露したようなものではなく、生きていくための糧になるようなじっくりと調理されている物語のはずだ。

なぜなら、そのような物語たちが、人生のさまざまなタイミングでぼくを救ってくれたから。
苦悩の穴に落ち続けているときにふわっと支えてくれることもあれば、寄り添ってくれることもある。「こうやって生きることもでにるんだよ」って、物語がぼくを励ましてくれることもある。

そんな物語にそばにいて欲しいから、ぼくは読書がやめられないんだということに、本書を読んで改めて気づかされた。

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