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トランプ前大統領に仮定法を見た

ニュース映像でトランプ前大統領が

あの時、もし頭を少し動かしていなかったら、暗殺者の弾丸は完璧に標的を捉えていただろう
(If I hadn’t moved my head, the assassin’s bullet would have hit its mark perfectly.)

トランプ前大統領の発言より(和訳は筆者によるもの)

と言うのを聞いて、「あ、これは高校時代の英語の授業で習った仮定法過去完了ではないか!」と思ったのは多分僕だけではないでしょう。

なんか、嬉しくなりませんでした?

高校の授業で習った際には、とにかく日本人にとっては甚だ面妖な構造に驚いて、

あれは論理的思考のトレーニングみたいなもので、実際の英会話では滅多に使われてないんじゃないか?

とまで思ったほどでした。

でも、いろいろな形で英語と接する機会が増えてみると、実際仮定法というのは会話においてもかなり使われるのだということを知りました。

ただ、日常会話においては、大抵は条件節(If …)が完全に省略されていたり、あるいは、それが現在や過去の事実に反する仮定であることが直前の文で示されていて、それを受けて、帰結節だけの文章(いきなり I would … や I might have … などで始まる)になっていたりすることが少なくないのも確かです。

日本語でもそうですよね。「もしも俺がお前だったら、俺はそんなことはしないだろう」なんて冗漫な言い方はしないで、「俺だったらそんなことはしないな」って言いますもんね。

つまり、日常会話においては授業で習ったような完全な形の仮定法にはそんなにしょっちゅうお目にかかれないということなんです。

しかし、見てください、このトランプ前大統領の発言

If I hadn’t moved my head, the assassin’s bullet would have hit its mark perfectly.
(ちなみに、これは僕がニュース映像の音声を聞いて即座に書き留めたのではなく、後から検索して確認したものです)。

は、If+主語+過去完了, 主語+助動詞の過去形+ 現在完了!──つまり、条件節も帰結節も完璧に揃っていて、かつ、話し言葉だからといって文法的に乱れることも一切なく、まさに教科書通りの典型的な仮定法過去完了[= 過去の事実に反する仮定]の用例ではないですか!

あんなろくでもないことばっかり口走ってるジジィ(いや、失礼w)の口からこんなきれいな用例を聞けるとは! なんだかほんとに嬉しくなってしまいました。

仮定法は現代英会話の中にしっかり生きているんです。

そう言えば思い出しました。高校の英語の教科書にもうひとつ、頭の体操みたいなややこしい英作文の問題が載ってましたよね。憶えてます? それは、

馬が魚でないのと同様にクジラは魚ではない。
(A whale is no more fish than a horse is.)

これもなんか、いろんな練習問題をやっているうちに、めちゃくちゃにこんがらがってきて、「馬がクジラでないのと同様に」などと言ってしまって大笑いしたものです。

しかし、こちらの用例は記事でも小説でも、映画やドラマの中でも見聞きした記憶がありません(ひょっとしたら1回だけどこかで目にしたかな)。

これこそ、単に論理的思考のためのトレーニングなんじゃなかったのかな?

と、遥かに高校時代を思い出して、なんだか少しにやけてしまいました。

はい、直接役に立つことも、役には立たないけれど頭の訓練にはなることも、学校ではいろいろ教わるもんです。

ま、しかし、それはそれとして、もしあの銃撃事件がなかったらトランプ信者の異常な盛り上がりもなかっただろうし、バイデン大統領もまだ選挙戦から撤退していなかったかもしれません。

世の中は仮定法に満ち溢れています。

◇ ◇

註) ちなみに、冒頭でシェアした X への投稿の文中にある bull run は「株価の急上昇」を意味するようです。実際、あの襲撃事件の後、主に「トランプ関連株」と称される株の価格が急騰したらしいです。


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山本英治 AKA ほなね爺
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