学部時代の習作、『地平の呼び声』から。 献身の樹木 熱を失った秋の空中に 重く垂れこめる 燃え尽きた雲の下 唯一彩りを添える 散りかけの葉々は 冷たい雨に 幹や枝を震わせながら 落下の時まで燃焼をやめない
学部時代の習作、『地平の呼び声』から。 貝の熟眠 顕現した太古の化石 それは黒化した二枚貝だ 何百万年前 開かれた未来を前にした貝は 死して、尚 継続する時間をその黒に秘めた そして、今 我らと彼らの時間が重なる さあ、転化しよう 我らの時間を 目指すところは 死を超えた貝の時間 もはや生の流れが 絶えたところ 死して、尚 存在する確証を 求め残せよ
学部時代の習作、自作詩集『地平の呼び声』から。 微笑 控えめな微笑みに 私は何を見よう 毎夜 闇との戦いに身を投じる 苦悩か 迫り来る時の流れに対する 諦めか はたまた 原始の存在に宿るとされる 優しさか 君は耐えている 微笑 それは 自分の重さを現在から解放し 時空の中へ拡散させる 唯一の魔法
学部生の頃の習作、自作詩集『地平の呼び声』から。 木 雨上がりの空間に あらゆる物を浮き立たせる 太陽光線のうちで 静かに微笑する木々よ 枝や葉を支え得るのは 大地から生成する強さの故か 斯く在ることを 軽々と耐えていくお前たち 穏やかな顔で独り立つ木々よ その生存の極意を 授け給え まさか 雨によってすべて洗い流し 原始の姿で光のうちによみがえる そんなこともあるまいに
朝、いつもより早く目が覚めた。手探りで枕の下のスマホをつかみ、Googleの検索欄に「行動への情熱」と打ち込む。約14,800,000件ヒット。いつも通り、すべて海外旅行案内か自己啓発のサイトだ。違う、俺が求めているのはそんなものじゃない。ネット上に、おれを行動へ駆り立てるきっかけは存在しないのだろうか。探し始めてからもう長い。探索のフィールドとしてネット空間は無限の可能性を秘めていると思い込んでいたが、無限の可能性も、結局は有限の必然性に依拠せざるを得ないのだろう。抽象的
黒歴史として封印したはずの自作詩集『地平の呼び声』から 目を閉じてごらん そこは闇がぽっかり 無限に拡がる夜の世界 目を開くと君は 部屋の中に一人きり 窓に映る空は 赤く染まった郷愁さ 窓辺に寄ってみなよ そろそろ時間だぜ 陽が完全に沈んで 外に夜が訪れるとき 微かな親しみが 身の内にぽっと生まれる そのときだよ 君が窓を開けるのは 世界空間をはらんだ風が 君の内部に流れ込み 押し出された中身は 宇宙の果てまで膨張してゆく 夜を共通項に 内部と外部の転換が起こったのさ
黒歴史として封印したはずの自作詩集『地平の呼び声』から。 幼い頃いつも感じていたあの頭上の羽ばたき あの頃の世界を統べるに相応しい とんびの羽ばたきは 手の届かぬ空中に融け去ったのだろうか それとも 今も優雅に私の内を滑空しているのだろうか そうだ 私の手から肉を奪い取るのと引き換えに 彼はその存在を幼い人間に託したのだ そうして内面世界を飛び回るとんびは いつも私を見つめている 失われた没我的潜入を思い出させるかのように そう 故郷はいつだって潜入する先の世界にある