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【詩】あんぷらぐど・ゆにばーす

あんぷらぐど・ゆにばーす。繋がらないからこそひびく音がある。千一夜。十月はしずかなざわめき、風向きひとつできょうという日も、意味づけも変わってしまう。湿度を含んだ夜風はふしぎ。真夜中の密度がいちねんでいちばん濃く感じる。濃密度の夜を吸いこんで、帰り道、ぼくはめをつぶる。イヤホンをはずして両耳をひらく。宇宙のなかで、いま葉と葉が擦れている。恋人たちが小さな声で会話している。雨宿りのために虫たちは石の下で肩を寄せ合う。

あんぷらぐどな世界は美しい。夜をいつもより近く長く感じる。ぼくは裸になる。重心をたしかめる。ざらざらとした手ざわりを信じる。日々生まれ変わることは、同時に、古いじぶんの息の根を止めることに等しい。街灯がなくても道を照らす月明かりがある。電源コードを抜かれても空洞のボディを叩いて心臓はリズムを刻んでいる。同じストロークの流星はひとつとして無く、命を燃やして弧を描く。2つも3つも人生を生きられないからこそ夜が明けるのが恋しい。過ぎていくじかんが惜しい。二度とこない季節過ぎ去ったこともう戻らないものに耳を澄ませる。ぼくは美しい音色に囚われ、日常をないがしろにして、この一夜を生きている。ぼくから伸びるコードがどこにも繋がっていないことに安堵する。ぼくは安心して、ひとりになる。




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