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夏の終わりの平日に食べる、私たちだけのジェラート
「夏の暑いうちにあのジェラートが食べたい。それも自分だけのために。」
私にはお気に入りのジェラート屋さんがある。
行くたびに「これは何だろう?」と説明書きを読みたくなるような味が20種類ほどそろっているのだ。
スタンダードなミルク味から、味噌やアルコールを使った珍しい種類まで「今日はどの味にしようかな〜」と、選んでいる時間からワクワクと胸が躍る。
家族で行くときは私、夫、長女(4歳)の3人が食べることになる。
しかし、娘がシングルサイズを一人で食べるには量が多いので、必然的に量と価格のちょうどいいダブル700円を選び、シェアして食べるのが我が家の定番スタイルだ。
そうなると、2つの味を何にするのか問題が発生する。
まず優先されるのは娘の意向だ。
チョコミントのような刺激のあるものやアルコール類は除外される。
ストロベリー、ミルク、抹茶。
この世に生まれてたった4年の彼女の中でアイスクリームやジェラートの味はこの3つが最も口に合うものと脳内にインプットされている。
よって、1つ目の味はその日の娘の気分と品揃えにより決定する。
もう1つの味はどちらともなく夫と私で譲り合う。
最も近い記憶では、私が夫にその権利を譲っていた。
自分の意向は反映されないが、こだわりの素材で作られたジェラートは、大抵どれを選んでも「あぁーーーおいしかったね!」とみんなの舌をよろこばせ、食べ終わる頃には「どんな味を選びたかったか」なんてすっかり忘れてしまっているのだ。
だけど、今日の私は違う。
だって、大好きな夏が終わってしまうから。
セミの声はもう聞こえない。聞こえてくるのは秋の虫の音だし、タオルケットを掛けずに寝ようものなら朝には喉が痛くなるほど朝晩はすっかり涼しくなった。
夏の暑いうちにあのジェラートが食べたい。それも心から食べたいと思った味を。
何かに取り憑かれたように10時45分、車に乗り込んだ。
ジェラート屋さんまで片道20分。
これを背徳感と呼ぶんだろうか…。
仕事中の夫、保育園に行っている長女に何も告げず、自分だけのために平日の午前というゴールデンタイムを使いジェラートを求め車を走らせている。
「この20分間は私だけのもの。」
そしてもう、心にはこれしかなかった。
ジェラート、何味にしよう。
ダブルにする?それともシングル?一人でダブルとか贅沢かな?食べられる?うーん、シングル?
同じ事をぐるぐる考えながらあっという間に20分が経過した。
あまりに衝動的に決めたので、水曜日にジェラート屋さんが営業しているのか確認もせず家を出てきてしまった。
「今日やってるかな。」
と、気づいた頃には店の前に到着していた。
よく晴れた昼前の時間帯だったが、店の外の白っぽい電気が付いているのが見えた。
「あ、やってる。」
1台も停まっていない駐車場に車を停めながら感じるのはやっぱり背徳感とわずかな恥じらいだ。
こんな平日に一人でジェラート食べる人いるのかな…。
店員さんに「この人、よっぽどジェラート食べたくて一人で平日に来ちゃったんだろうなぁ」って思われそうだな…。
さっきまでの勢いがわずかにしぼんだ。
だけど、どーーーうしてもジェラートが食べたくて、平日、家族に内緒で私がここへ来たのは紛れもない事実なのだ。
「今日こそ、『子どもが食べられる味』じゃなく、自分が本当に食べたい味を選ぶんだ!」
気を取り直し、鉄と木材でできたレトロで大きくて重い引き戸を静かに開ける。
中には60代とみられる女性客が一人いた。
駐車場に私以外の車は停まっていなかったので、思わぬ先客の姿に安堵し、一人で来ている女性の姿を見たら、さっきまでの羞恥心はどこかへ消え去っていった。
ジェラートのケースを行ったり来たりしながら選ぶ先客にぶつからないよう、私もケースを行ったり来たりする。
ハチミツが入ったのが食べたいなー。
ほうじ茶味もいいな。
アルコールのは…車の運転あるから無理か!まぁいいや。今日はそういう気分じゃないし。
そんな一人脳内ディスカッションをしているうちに、先客の女性が注文と会計をする。
__「ダブルですね。」
何の味を注文したかは聞いていなかったが、注文したサイズがダブルであることを店員さんが復唱した声だけが耳に入ってきた。
この一人で来店されている女性は、ダブルを注文したのだ。
そして、さっきまでの「シングルにする?ダブルにする?」という迷いは突風に吹かれるかのごとく消え去った。
700円の、ダブルのジェラートにする__!
そして、私は自分だけのためにジェラートを2種類選んだのだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1725516416-ULw7B0cmpnMsl6QYDOvIJf9j.jpg?width=1200)
「いつもは3人で食べるものを一人で食べるのか…。」
ちょっとした罪悪感を感じた。
いや、正確には一人じゃないのだけれど。
![](https://assets.st-note.com/img/1725516816-5x21PsVny0HAwUg7m3zdCaRc.jpg?width=1200)
乳児にハチミツは禁物なので、ココナッツ味の最初のひとくちを次女になめる程度あげた。
これで共犯関係だ。
時刻はまもなく正午、31℃まで上がった気温はどんどんジェラートを溶かしていく。
鼻に抜けるハチミツ味、最高。岩塩の粒が甘さに良く合う!!
次回からココナッツ味は注文しないな。
一人食リポを頭の中でしながら遠くの山を眺める。
あっという間に食べきり、喉に残ったハチミツを水で流し込んだ。
__「やっぱりみんなで食べたほうがおいしいや。」
美味しいものはみんなで食べたほうが美味しい。
「こっちの味は正解だったね〜。」なんて言いながら正解の味を一気に食べる、そんなやりとりも含めて私はこの店が好きなのだ。
そんな気づきを頭の中で言語化しながら、帰りの車を走らせるのであった。
__1人の時間は母を癒す。
だけど、美味しいものはみんなで食べるともっと美味しいのだ。
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やきいも
心が動いた瞬間をエッセイに。
2児の母で育休中のワーママ。プリキュアにハマるセーラームーン世代です。
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