「伸びる若手」はどこを見て仕事しているのか
人材育成担当者の方は、新人研修を終えて現場に送り出した若手や、その若手を預かる現場から、「伸び悩んでいる」という相談を受けることがあるかもしれません。「ぜんぜん仕事ができるようになりません」「上司とうまくいきません」「若手がぜんぜん成長してくれないんだけど」などなど。
研修のつくりかたについての記事のなかで、こんなことを書いたのですが、ここにヒントがあるのかなと思っています。
上司には上司どうしのネットワークがあります。
そして、上司は往々にして部下の育成に悩んでいるものです。
ですから、上司どうしのネットワーク(全体会議や異なる部署の上司が参加する会議)のなかに、部下の育成に効くネタ(良い研修)を投げ込んであげると、それは自然に広がっていくものです。
『良い研修につながる良い雰囲気をつくる』より
「伸びる若手」と「伸びない若手」の違い
伸びる若手と伸びない若手の分水嶺のひとつに、その若手が「上司も悩んでいる」ということを感じ取っているかどうか、というものがあると思っています。ちなみに、ここでの「悩み」というのは、部下育成に限ったものではなく、上司が抱えている悩み一般(業績など)を指しています。
伸びる若手は、「自分の仕事」を、「上司の悩みを解決するもの」というふうに、問題解決的に捉えます。
仕事は本来、上司のためのものではなく、顧客や社会のためのものです。しかし、まだまだ顧客や社会から遠い若手にとっては、身近にいる上司が、仮想顧客や仮想社会となります。
したがって、「自分の仕事」を「上司の悩みを解決するもの」と捉える若手は、仕事が独りよがりや目的不明瞭に陥らずに、結果として周囲の評価が高まります。
「ビジネスというのは、突き詰めると、相手の期待を、常に超え続けていくことにほかならない。
顧客や消費者の期待を超え続けていくこと。
上司の期待を超え続けていくこと」
このうち、若い人、特に一年目にとっては、最後の「上司の期待を超え続けていくこと」が重要になってくるかもしれません。
言われたことを言われたように100%できて当然(それすらできない人が現実にはほとんどなのですが)。
そこを少しでも超えていくように日々努力することで、ビジネスパーソンとしての成長は驚くほど早まります。
『コンサル一年目が学ぶこと』より
一方、伸びない若手は、「上司も悩んでいる」などとはつゆとも思わず、「上司は完璧(であるべき)」と無意識の勘違いをしていることが多いです。
結果として、上司からの指示を鵜呑みにして不明点があってもそのまま進めてしまったり、誰に向けての仕事なのかが不明瞭になってしまったり(本人は顧客や社会に視線を向けているつもりかもしれないが、その解像度がまだまだ低い)、「完璧であるべき上司にも関わらず、指示やフィードバックがわかりにくい」と、他責な姿勢に陥ってしまったりします。
「伸びない若手」に投げかける問い
「仕事がうまくいかない」「上司とうまくやっていけない」という相談を受けたとき、私はよく「上司の悩みはなんだと思う?」「上司はどんな景色を見ていると思う?」と聞き返します。
そうすると、(若手に限らず)ほとんどの人は「え?」と固まってしまいます。
おそらく内心は、「いやいや、悩んでいるのはこっちなのに、なんで上司のことを考えなくちゃいけないのよ」と思ってるのかもしれません。でも、その「なんで上司(相手)のことを考えなくちゃいけないのよ」という思考回路それ自体が、仕事や人間関係を阻害しているのではないでしょうか。
しかし、会社という船に乗った以上、「上司のやりたいこと」をチームで一緒になってやる、責任と主体性をもって、「上司の目指すゴール」を支援する、というのは、基本ではないか。
上司もさらにその上から、ゴールを課されている。
「就職」ではなく、「就社」を選んだ以上、自分と社会はダイレクトにつながっていない。「会社という船」を経由して、はじめて自分と社会はつながっていく。まずは、船を目的地にいかせることだ。その支援のあり方に、自分の個性も創造性も求められている。
『半年で職場の星になる! 働くためのコミュニケーション力』より
こういうことを言うと、「え、上司の言いなりになれってことですか」という顔をする人がいます。実際に口に出す人もいます。その気持ち、わからなくなはない。若手だった私も、似たようなものだった。
まあまあ、ちょっと落ち着いて、と言葉を継いでから、こんな話を続けます。
これは、「上司という人間を支援する」ということではない。ましてや、上司という人間にこびる・へつらうということでは決してないのだ。上司という人間に奉仕してしまうと、結局は、上司のコピーロボット以上にはなれない。上司の気に入るようにやるとか、言われたことを言われたようにやることしかできない。
それ以上が期待されている。
あくまで、支援するのは、上司ではなく、「上司の目指すゴール」だ。それがときに、何百万、何千万の顧客を対象にした壮大なゴールであろうとも、その大きなゴー ルに自分として責任を持っていい。
『半年で職場の星になる! 働くためのコミュニケーション力』より
どうでしょう、前出の『コンサル一年目が学ぶこと』と同じことを言っているのがわかるでしょうか。
「周囲の人」としての人材育成担当者
「組織で働く」「チームワーク」など、言い方はいろいろありますが、若手が「他者と協働するとはいかなることか」を体感していくプロセスとして、「『遠くの顧客』や『自分の理想』の前に、まずは『目の前の一人の上司』の悩みを解決する」ということに、自分の中でしっくりくるかどうか、ということが重要だと思っています。
このメッセージはしかし、よく考えてみると、上司自身からは伝えにくいものです。だって、「(他のことはいいから)私の悩みを解決しなさい」という言い方になってしまいますから。
なので、このメッセージは、人材育成担当者をはじめとする、「周囲の人」が手を変え品を変え伝えていく必要があります。人材育成担当者の方には、研修や個別の面談のときにぜひ意識して伝え続けてほしいなと思います。
「相手のことを考える」に、上司も部下もない
育てる側(上司)に必要な視点として、「相手の靴を履く」「太鼓の音」というのを紹介したことがあります。
端的に言えば、「育てる側(上司)は、育てられる側(部下)が見ている景色を丁寧に想像しましょう」ということです。育てる−育てられるという関係を超えて捉えれば、この戒めは「自分と相手」という極めて一般的な人間関係全般についても当てはまります。
悩める若手には「上司の悩みはなんだと思う?」「上司はどんな景色を見ていると思う?」という問いを投げてみてほしいと思います。その若手が、どこを見て仕事をしているか、を如実にあぶり出してくれます。
もしその若手が、この問いでもって新しい視点を得たようであれば、具体的な方法として、こんなやり方を紹介してみるとよいと思います。
私自身、入社1年目を過ぎたころ、初めて上司のことを考えるようになった 方法はとても簡単で、朝3分時間をとって、上司のことを考える。
考えるといっても、「思いやる」とか、「尊敬する」というような精神的なことではない。
そんなことをすれば、その上司とはソリがあわなかったのだし、腹が立つだけ だ。
ただ、具体的な事実を認識していくだけだ。
たとえば、
「今朝、課長は、チームの40人のだれよりも早く出社していた」
「メンバーより2時間早く出社した課長は、編集会議で配る資料をつくった」
「会議30分前に、課長は、課長補佐と、これをメンバーにどう持っていくかを検討していた」
「会議後、課長は、課長補佐と、部屋にのこってこれを上にどう持っていくかを1時間話し合った」
「昼食に席を立ちかけた上司は、戻って私の書類に目を通し、ハンコを押してくれた」
「上司は、私の提案を課に一斉メールで流してくれた」
というふうに、淡々と、具体的な事実を3分とって、頭のなかで認識するだけ。
すると、しだいに、上司の過去、現在、未来の文脈が見えてきた。
「朝、だれよりも早く来て準備したのに、メンバーに一蹴されたらめげるよなあ」とか、「上の会議に、今日の決定が通らなかったら、これまでの課の話し合いがゼロになってしまうよなあ、上にどう通すべきなんだろう」とか、知らず知らずに、上司の 目になって、状況を見るようになっていった。
すると、自分が発言するときも、不思議なことに、上司から見た自分、つまり、ひとつ上の目線から自分の言動が見られるようになっていった。
そうしているうちに、さらにその上、全社の中で、うちの課が置かれた状況、達成しなければならない目標とか、問題点などが、リアリティーを持って見えてきた。
よく、社員でも、「経営者としての視点を持て」とか「広い視野を持て」といわれ るが、やろうとしても、現実にはなかなか難しいことだ。
しかし、まずは、目の前にいる一人の上司の目になってものごとを見る。
これだけで自分と上が、ガチリとつながっていった。
『半年で職場の星になる! 働くためのコミュニケーション力』より
===
若手やその若手を預かる現場から、「伸び悩んでいる」という相談を受けたときに、今回は若手の側にアプローチする方法を紹介しました。
「まずは目の前の一人を助けなさい」というメッセージを、説教臭くならずに伝えられるといいですね。
次回は、上司の側にアプローチする方法について書いてみようと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?