朝井リョウ「何者」
この著者の本では「桐島、部活やめるってよ」が話題になったので発売当時に読んだが、内容は忘れている。
今般の「何者」も、2012年に単行本書き下ろしで出た本であり、今ごろになって電書で買う客はあまりいないかもしれない。
この本を読み始め、なんか就活生を小馬鹿にする内容かな、と思いきや、ちゃんとした文芸作品というか、わずかな時間でも読者の気持ちを引きつける力のある作品だと思った。つまりただ皮肉・諷刺をするのではなく、ちゃんと勧善懲悪みたいな、スッキリしたオチとなっている。
ネタバレしないように言うなら、「みんなを否定する者を否定する」という論法で書かれている。
まあ否定を否定することはすなわち肯定、と見做されることはあるだろう。少年漫画だって、戸愚呂兄弟みたいな、すごく強い悪役を倒すことによって主人公たちを肯定する展開が多いのだから……。
肯定、順接、といったものばかりでは展開が単調になり刺戟も少ないだろう。
創作に関連付けて考えると、少年漫画にはライバルや敵が普通出てくるものだろう。主人公やその仲間が、友情によって集まり、努力して戦って、ライバルや敵に勝つことが目的となる。ライバルや敵は、もちろん自分のほうに正義があるとか強いとか考えている。でも主人公は最終的に勝ち上がっていかないとダメだから(主人公に感情移入してくれる読者のためにも)、ライバルや敵を否定していく必要がある。生き残りを賭けた死闘ならば、敵を倒して万歳、となるだろうが、スポーツがテーマの作品なら勝負で勝ったとしても同じスポーツをする者同士は仲間とも呼んでいいだろう。いずれにしても王道の少年漫画には戦いやスポーツが不可欠である。
主人公を「立たせる」ため、手っ取り早いのが、主人公を否定する者をやっつけることだ。否定の否定が肯定になる。主人公が善良で美しいとか、それだけでは盛り上がりに欠ける。
私はかくの如き少年漫画に携わったことはほぼ全然ないのだが、主人公をまず気に入ることになるので、それを否定する者たち(たいてい悪い顔をしている)を出すのが大変だなぁ、と思ってしまう。腕力や策略によって主人公を陥れる、そういう存在を考えるのが苦手である。
掲題の小説とは関係ない話になってしまったが、小説を読んで結果として上記のような考えが出来したのはまあ良かったといえる。そして、少年漫画って面倒なものだなとも思うのである。