人間になった宇宙人(9)
佐竹は、雅子の瞳に訴え掛ける様に静かに、
「雅子さん、貴女と初めて会ったのは、貴女が14歳の頃でしたね。その当時の貴女は、いじめられて、学校にも行けず、
いつも、死にたいと考える女の子でしたのね。」
……何言っているの、佐竹君!初めて会ったのは、始業式の時でしょう……と、心では絶叫する雅子であるが驚きで言葉にならない。
「貴女は、汚い僕を抱き上げてくれました。そして家に連れて行ってくれた。そして僕をお風呂で洗ってくれました。」
佐竹は懐かしむか様に語り出した。その瞳に潤んだものを見せて。
「僕が初めて食べた物は、牛乳でした。あの時は驚きました。
猫が牛の乳を飲むのか?と、でも貴女も牛乳を飲んでいた。人間も牛の乳を飲んでいる!と、本当に驚きました。」
「ちょっと、ちょっと待ってよ。佐竹君、何を言っているのよ!」
と、興奮して雅子の声は大きい。
だが、ゴアは一つのことに集中すると、声(音)は聞こえない。
今、ゴアの一番の集中していることは、雅子に真実を伝える事だ。
「貴女は、僕に『聖』と名前を付けてくれましたね。
私の名前はゴアと云うのだけど、『聖』も気に入った名前でした。」
……何を言っているのよ!貴方は佐竹君でしょ!聖って私が飼っていた猫の名前よ!……
と、言いたい事が言えない雅子である。
まるで魔法に掛けられた様に、身動きも取れない。
「貴女は、私を飼う事を反対されながらも、私を大事にしてくれましたね。本当に感謝していますよ。雅子さんの家族関係は・・・
本当に複雑で、悲しい関係でした。
僕は、貴女の事がいつも気になっていましたよ。
でも、猫の私には何も伝える事が出来ない。
励ましの言葉も掛ける事が出来ない。いつも心に秘めていました。」
その時、雅子は魔法が解けたのか、口が動いた。
「・・佐竹君、ちょっと待ってよ。何故 聖ちゃんの事知っているのよ?聖ちゃんって私の飼っていた猫よ!」
その言葉を無視するかのように、ゴアは自分の想いを述べていった。
「その当時の貴女は辛い日々を過ごしていましたね。
今の様に明るく無く、いつも暗い顔をしていました。
僕が一番心配していたのは、貴女が自ら命を断つ事でした。
貴方から目が離せ無かった。でも今の貴女は明るく元気です。
私はそれを見る事が出来て本当に、満足です」
と、ゴアは本心を雅子に告げた。
雅子の瞳に語り掛ける様に、雅子に解ってもらえると、期待していた。
だが、雅子には理解出来なかった。当然である。
猫が人間になる訳が無い。
雅子は佐竹に揶揄われていると想った。
何処で、聖ちゃんの事を聞いたのだろうか?
作り話にしては、正確すぎる。誰がこの様な事を教えたんだろうか?
………あの当時の私の生活や、私の様子などは誰かに聞くことは可能かも知れない。でも、聖ちゃんのことは聖ちゃんしか知らない。
聖を拾った時、最初にした事はシャワーで洗ってあげる事だった
そう言えば、牛乳も与えた。この事を知っているのは、私と聖だけ。
私は、佐竹君にその事は言ってはいない!
まさか聖ちゃんが佐竹君に伝えたとは思えない。
だとしたら・・・……………
……佐竹君が言っている通り、聖ちゃんが佐竹君?
聖ちゃんの生まれ変わり!そんな馬鹿な事がある訳が無い。……
頭の中に渦が巻き混乱している雅子であった。
だが、佐竹は雅子を更に混乱させる。
「雅子さん。僕は宇宙人です。名前をゴアと言います」
と、ゴアは真顔で雅子に伝えた。
……宇宙人❓❗️・・何の事 、宇宙人って?・・これは夢なの?……
雅子の顔は青ざめていたであろう、またひきつっていたのかも知れない。
(宇宙人に初めて会った時どの様な感情、態度になるのだろうか?)
人目から見れば、雅子は冷静に見えるが心の中は騒然としている。
「私はM52星からやって来ました。今回で地球に来るのは二度目です。一度目は猫に変身して来ました。今回は人間として、
雅子さんに会いに来ました。愛を知る為に。」
……愛を知る為?佐竹君は「私を愛している」って言っているの?
・・・・・嬉しい☺️❣️…………
何故か、その言葉だけが雅子にクローズアップされた。
「・・・・佐竹君。私、貴方の言っている事が、解らないわ。
嘘にしたら、聖ちゃんの事知り過ぎてるし・・・・
何故、佐竹君はその様な事を話すの?・・・」
雅子は、信じられない気持ちを隠す事無く、佐竹に言った。
「私の言葉は、雅子さんにとって理解する事は難しいと想います。
私達の星から観たら、地球は文明が遅れています。
私達は、さまざまな星に旅行をするのですが、地球もその一つです。最近は地球の観光が人気を得ています」
……地球の観光? 何を言っているの!
からかっているの、佐竹君!……
怒りにも似た感情が、雅子を覆っていく。
だが、ゴアは冷静に語る
「私が、M52星人で一番最初に地球に訪れたのです。
それは、大学の卒論を提出する目的で
地球人を観察する事をテーマに、地球の家族をレポートしようと想い立ちました。
でも、人間では他人の家庭には入り込め無い、だから
私は猫に変身して、人間に拾ってもらう様にしたのです。
雅子さんは、私を拾ってくれた。」
……佐竹君の言っていることは、本当の事かも知れない⁉️……
と、怒りの感情が薄くなっていく。
「私は人の心の中を読む事が出来ます。これは私だけでは無く
M52星の人間なら全ての人が出来ます。
私は、雅子さんの家族の心の中を読み取りました。」
……心の中を読み取る?!・・・………
雅子は言葉にすら出来ない。
「雅子さんの家族の心を読み取る事で、悲しい現実が見えてきました。父親の傲慢さ。夫婦でありながら心も通わず、家族は自分勝手に行動している。雅子さんは学校でイジメにあい学校すらも行けない。母親はそれを知ろうともしなかった。雅子さんはいつも泣いていた。心の中で泣いていた。そんな雅子さんを猫になってしまった僕には何もしてあげる事は出来なかった。」
……あの時の聖ちゃんが佐竹君?
そんな馬鹿な事は無いわ。……
ゴアは更に言葉を続けた
「私がM52星に帰った後でも、貴女の事は気掛かりでした。
あれから、どの様になったのか?まさか自殺などしてないだろうと
想ってはいましたが、心配でした。
そして今回は、人間に変身して貴女に会いに来たのです。
貴女が以前好きだった男の子の姿を真似て変身しました。」
……何だって?田原君を真似た!……
態度は冷静さを装ってはいるが、心の混乱は続いている。
「だけど安心しました。今の貴女を見て、元気な貴女を見る事が出来て。」
嬉しさを満面に掲げながら、更に佐竹は言った。
「これで、安心して愛を探す事が出来ると思いました。
洋子さんが言ってましたね。『好きな人の事をいつも想う』
って、これが僕には理解出来ないのです。時々想う事は出来るのですが?」
……何を言っているの?佐竹君 今、私の事を想っていると言っていたじゃない!それが愛でしょう❤️……
https://note.com/yagami12345/n/n56e447c079c0