人間になった宇宙人(7)
店は22時に閉店するのだが、後片付けや、明日の仕込みを
していると23時頃 母は仕事を終える。
それから、お風呂に入いるので、いつも寝るのは0時を過ぎる。
雅子は、母親を待っていた。
「雅子。まだ起きているの?勉強も良いけど、寝不足は体に毒よ。
早く寝ないとダメでしょう。明日起きられないよ。」
と、心配してくれる。小言の様に聴こえるが、雅子を想っての事だ。雅子には嬉しく感じた。
「お母さんって、若い頃モテタって言っていたね?本当に
モテタの?」
「何よ、急に。若い頃だけじゃ無いよ。今もモテるよ」
と、自慢気に言う母。
「・・・。(^^) 今もモテルの?・・・・」
と、雅子は言葉に詰まる。
そういえば、母はいつも身綺麗にしている。
化粧の怠りも無い。顔立ちも綺麗で実際の年齢よりも数段若く見える。一人の女性として見ると、非常に魅力的で私を妹と言っても信じる人がいるかも知れない。
「お母さんの若い頃に、好きな人いたのかな?」
「好きな人?そんな人居ないよ。男の方から来たのよ。
それもイケメンばっかり。選び放題だったわ。なんでそんな事聞くの? もしかして、今日来た、佐竹君の事でしょう!
雅子の好きな人でしょう?」
と、言われた時、雅子は体じゅうに熱いものが吹き出す様な想いがした。
「雅子、恋してるのね❤️。」
と、母親律子は、優しく言ってきた。
女性の先輩として、母親としての喜びの言葉である。
「私の若い頃ね、本当は好きな人がいたの。高校生の時だった。
その人の事が好きで、眠れない時もあったの」
と、舌の根も乾かぬ内に先程言った言葉を否定する母親律子である。
………どっちなの?モテタと言っていたのに。好きな人など居ないって今 言ったばかりなのに………
と、雅子は心で叫んではいるが、母親の恋愛話も聴きたい。
律子は昔を懐かしむ様に話出した
「その人はね。私よりも一つ歳でね。私が高校2年の時に初めて会ったのよ。すごく男らしくて、野球部のキャプテンでピッチャーをやっていたのよ。私、野球ってあまり知らないけど、応援しに行ったの。友達と一緒にね。」
と、母は何を想ったのか、独り言の様に話を続けた
「私は、その先輩を好きだったのだけれど、その先輩には多くの女性ファンが居たのよ。お母さんもその内の一人だったのよ。
でもね。その先輩のお母さんの観る眼差しが違うのよ。
お母さん、その瞳の奥に熱いものを感じたの。
彼は、私だけを観ていると!」
「お母さん、凄い。で、どうなったの。」
と、興味が湧く雅子である。
………一つ上の先輩を好きになるところは、私と同じだ!
その後を聴きたい。………
「それでね。雅子。この後は悲恋の物語よ。聴きたい?」
と、何故か出し惜しみしているのか?
もったいぶるかの様に言ってきた。
「聴きたいよ。その後どうなったのよ。教えてよお母さん!」
「もう、遅いから明日話すね。もうお母さん眠いよ。
雅子も、もう寝なさい」
と、冷たく言われた雅子であった。
「その後、どうなったの?教えてよ!」
と、ねだる雅子に、律子は微笑みを浮かべながら、
「聴きたい?」
雅子は、「うん」と、首をこくりと動かした。
「その、先輩の名前は豊田さんって言うの。
顔はね、俳優の福山雅治に似てるかな?精悍な顔で、男義があって、本当のリーダーなのよ。女性だけでは無くて、男子にも多くの友達というか、ファンがいるのよ。
要するに、『男が男に惚れる 』って云う事ね。
でも、ゲイじゃ無いのよ。誤解しないでね。
お母さんもその人の事を好きだったの。
でもね。お母さんの友達の京子もその人が好きだったのよ。」
「三角関係?って事」
「そうじゃ無くて、二人とも片想いだったのよ。」
「さっき、お母さん。『その人、お母さんを熱い眼差しで観てる』
って、言ったよ。」
「そうなのよ、お母さんの勘違いなの。京子もその人が熱い眼差しで観ている様に錯覚していたの。
可笑しいでしょう😂
だから、二人とも片想い。振られって訳。」
「何それ!要するに悲恋でも何でも無くて、一方的に好きだっただけ!それって、悲恋とは言わないと思うけど。」
と、不満を露わにする雅子である。
「一方的に好きになる事が悲恋ですよ。雅子もならない様にね。
佐竹君に一方的な片想いしない様にね」
と、茶化す様に言った。
雅子はその言葉にムッと来たが、それには応えずに母に聞いた。
「その後、福山雅治に似てる彼はどうなっての?」
「知らないけど、大学に行って野球してたみたいだけど、プロには行かなかったみたいだし、その後は会った事も無いわ。」
「本当にお母さんってモテタの?」
と、疑いの眼差しを向けた。
「それから後、モテタのよ。ラブレターのいっぱい貰ったよ。
残して置いたのだけど、結婚した時に捨てたのよ。」
と、至った明るい律子である。
「証拠は無いんですね。・・・(^^)」
と、軽い疑いの気持ちを持ちながら、雅子はベッドに向かった。
「おやすみ。良い夢見るんだよ。佐竹君の」
と、激励か!それとも冷やかしか? その様な言葉を投げかける
母親律子である。
律子は嬉しかった。娘が人を好きになる事が出来ている事が。
律子は反省していた。
それは、安易な気持ちで結婚した事だった。
豊田に片想いして以降、律子は恋愛に恐怖心を覚えてしまったのだ。
青年期の律子にとって、失恋のショックは大きく勝負に負けた様な想いがしたのだった。
律子は、自分を好きになってくれる人だけに
興味を示す様になっていった。
もとより、恋愛は勝負事では無いのだが、プライド高い律子には、
初めての失恋のショックが尾を引いていたのだ。
そして、さほど好きでも無い孝太郎に言い寄られ、女王気分で結婚した。
もし、あの時豊田さんに、プロポーズされていたら、違う人生になっていたかも知れない。
と、言うよりも、自分が本気で愛する人と結婚していたら?
こんな人生にはならなかったかも知れない。
「人を好きになる事は、何も恥ずかしい事でも無いし、
素晴らしい事なのだ。と、今頃気づいても遅すぎる!」
と、自分自身に叱咤している律子であった。
佐竹に恋愛感情を懐きながら、全く進展しない雅子である。
……告白したいけど、振られるのは怖いし、このまま友達でも良いかな……
と、何故か弱気な心が芽生えてしまう。
今日も佐竹の隣に座っては居るが、これっと言った会話もせず、
挨拶を交わすだけ、
「これではいけない!頑張れ雅子」と、自分に叱咤激励する雅子であった。
そんな雅子に事件が起こった。
ある日突然に告白を受けたのだ!
もちろん相手は、佐竹では無い。
その人の名前は大山和人。
雅子とは一度も会話した事も無く、一年の時も違うクラスであった為か、同じクラスになっても印象は弱かった。
だが、雅子にとっては告白されたのは初めての経験。
嬉しい様な、困る様な複雑な気持ち。
だからと言って好きでは無い。
「丁重にお断りをすべきだ!」
と、云う結論に達した。
お付き合いするのを断った後、雅子は複雑な想いであった。
雅子自身は、何も悪い事はしていない。
でも、相手の気持ちを考えると、何故か憂鬱になってしまう。
だからと言って、その人に同情し付き合う事も出来ない。
その事を母に告げた。
「偉いわ、雅子。断るのも勇気が要る事なの。
自分の感情に嘘を付いて良い加減気持ちだと、お母さんの様に
失敗するわ。雅子は好きな人と結婚するのよ」
と、励ましてくれた。
「結婚何てまだ早いよ」
と、照れる雅子に母は言った。
「そうじゃ無いのよ。貴女の愛する人と結婚して欲しいの。
本当に一生愛せる人と結婚するのよ。
お母さんみたいになってはダメよ。」
と、母の言葉は重く大きく、雅子の小さな胸に響いて行った。
佐竹は焦っていた。地球に滞在出来る日数が決められているのだ。
もう一か月を切ってしまい、僅かしか残されて居ない。
この一か月以内で愛を知ることが出来るのであろうか?
……愛ってそんなに簡単に芽生えるものなのか?
気になる人と、愛とは違うのかな?
もしかしたら、雅子さんの事を愛していたのかな?
前回来た時は、気になって仕方無かった。
でも、雅子さんに嫌われているみたいだし、
一度聞いてみよう。人の心の中は読めないし聞くしか無い……
と、焦った佐竹の答えは、疑問を雅子にぶつける事だった。
そして、その日は突然訪れた。
それはゴアがM52星に帰る日は間近であり、焦ったゴアが行動を起こしたのだ。
この日、佐竹は
「一度お会いし、お話したい事があります。ご都合の良い日をお知らせ下さい。早いほうが良いです。お願いします」
と、書いた手紙を、雅子の下駄箱の中に入れた。
直接雅子に渡すのは、佐竹には躊躇いがあった
何故なら、雅子に嫌われているかも知れないと云う思いがあったからだ。
ラインでも無く、メールでも無い古風な伝達方法であるが、
雅子は、その手紙を読んだ時、全身に電気が走る感覚に襲われた。
好きな人から会って欲しい と、言われた事など一度も無い雅子である。
……佐竹君は一体何を話すつもりだろうか?……
雅子の想像は大きく広がっていった。
ときめく気持ちを抑えるかの様に雅子は、佐竹に手紙を書いた。
一文字一文字に想いを込めて。
(突然のお誘いありがとうございます。私も一度佐竹君とお話がしたいと想っていました。今日の放課後お会い出来たら嬉しいです。
二人きりでお会いしたいので、⭕️⭕️の場所で待ってます)
と、授業中はいつも隣に座って居る相手に対して、
雅子は不思議な気持ちを懐いたが、佐竹に手紙を渡した。
雅子の顔には、自然と微笑みが浮かんでいる。
……雅子さんは、僕にこの様な笑顔で接してくれるのは何故?
僕の事嫌いって言っていたのに!何なの?
そう言えば、この微笑みは、以前僕が猫の時に見せてくれた笑顔だ。僕を優しく包み込むあの笑顔。
雅子さんは、僕があの猫だと云う事に気付いたのだ!
どうしよう!僕の正体がバレてしまった。
僕の正体を知られたからには、もう地球には居られない。
今日会った時に、雅子さんの記憶を消さなくては・・・………
そして、想いが違う二人に運命の時が訪れた。
会うと決めた場所は⭕️⭕️。
https://note.com/yagami12345/n/n4d343f7cf66f