人間になった宇宙人(5)
「いらっしゃい。本当に来てくれたんだ!」
と、嬉しそうに雅子は、佐竹の顔を見るなり言ってきた。
「はい、叔母さんの料理を食べに来ました。」
と、佐竹は元気よく言った。
「有難う。洋子も来てくれてありがとう。カウンターの空いている席にどうぞ。」
と、案内されたが、全ての席は空いている。
「お母さんの料理は美味しよ。特に玉子焼きは、絶品だよ。」
と、得意気に言う雅子。
お品書きがあるが、焼き鯖の文字が無く、焼き魚としか書いてない。
「あの〜焼き鯖ありますか?」
と、遠慮がちに聞く佐竹。
「佐竹君、お肉よりお魚の方が好きなの?
お母さ〜ん、今日鯖入っている?」
と、厨房にいる律子に言った。
「あるって!良かったね。お魚は仕入れによって無い時もあるの。
他はどうかな? 洋子は何にする。」
「私は、おでんの盛り合わせと、玉子焼きと、ご飯大盛り」
洋子は、身体はさほど大きく無いが大食漢だ。
「お腹ぺこぺこなのよ。お昼食べなかったから」
「僕も、玉子焼きと、ご飯と味噌汁」
……味噌汁は猫の時に、ご飯に掛けて食べた想い出深い物だ……
お客が私達だけだったから、直ぐに料理が運ばれて来た。
久しぶりに見る焼き鯖。夢にまで観た焼き鯖だ!
……猫の時に食べるのと、人間になって食べるのとでは味が違うのか?興味深々だ……
「頂きます。」と、佐竹は焼き鯖を箸を使わずに直接手で食べた。
ビックリしたのは洋子だった。
「ちょっと待ってよ!佐竹君。箸を使わないとダメでしょ!」
「箸?・・でも、猫の時は直接食べたよ。」
と、思わず本音が出てしまった。
「猫の時?って何よ!」
と、ビックリしたのか、大きな声で聞いてくる。
……しまった!変な事を言ってしまった。
ここは誤魔化す以外に無い……
「実は、僕は外国で育ったのです。だから食べ物を手で食べる習慣があるのです」
と、思いつくまま話をした。
「ふ〜ん、そうなの!何処の国?」
「それは、言えません。 箸ってこれですか?」
と、割り箸の刺してある筒を指で指して見せる。
「そうよ、知っているじゃ無い。」
と、洋子は箸を取って佐竹に渡した。
佐竹は、割り箸を割らずに食べようとする。
「何やってのよ!これをこの様に割るの!」
と、言いつつ洋子は笑いだした。
その時である、雅子がお盆に自分の食事を持って、佐竹の隣に座った。
「雅子、聞いてよ。佐竹君って外国から来たんだって。
食べ物を手で直接食べていたんだって。
箸の使い方も知らないのよ」
と、言って笑っている。
だが、雅子は笑えなかった。
……食事を手で食べる所って何処だろう?物凄く田舎かな?
未開の地かも知れない……
と、思いを巡らす雅子である。
「美味しいですか?焼き鯖、お好きですか?」
と、雅子は洋子の言葉に乗らずに、佐竹に聞いてみた。
「美味しです。この焼き鯖、お土産に頂きたいのですが、良いですか?」
「誰が食べるの?」と、洋子が興味深そうに聞きた。
「ゴンです。犬のゴンです。」
「犬が焼き魚、食べるかな? 雅子どう想う?」
「猫は魚好きだけど、犬はどうだろう?、
でも食べない事は無いけど、あんまり好きではなさそうだし、
犬の餌にしたらもったい無いよ。
残り物でいいよ。後でお母さんに聞いてみるよ」
佐竹を真ん中にして、洋子と雅子が並んでいる。
雅子は佐竹の右手側の方だ。
箸の使い方が上手く出来ないのか、佐竹は食べにくそうである。
「魚の骨に気を付けてね。喉に刺さるといけないからね。」
と、雅子は注意を促す。
「雅子、佐竹君の事、気になるの?」
と、洋子が真顔で冷やかして聞いてくる。
「さっき、雅子のお母さんも言っていたよ。家でいつも佐竹君の話しをしてるって。もしかして、ほの字」
と、屈託もない。
……ほの字って、いつの時代の人よ!……と、想いながらも
雅子は内心嬉しかった。この言葉を聞いて佐竹君、どんな反応をするだろう?
だが、佐竹は、洋子の言葉を無視するかの様に、一生懸命に魚の骨を、むしり取っている。
……聞いて無いのかな?佐竹君……
残念な想いで雅子は佐竹に聞こえる様に耳元で言った。
「気になるって言うか?以前何処かで会った感じがするのよ!」
「何処で会ったって、外国に雅子 行った事無いでしょ?」
「そうだけど・・・何故かは、解らないけど、その様に想うのよ」
と、佐竹に聞こえる様に言ってはいるが、佐竹は魚に集中している。
実は、M52星人は、意識を集中すると他の言葉は聞こえないのだ。
佐竹(ゴア)には、当たり前の事であり、自然な事なのだ。
「まさか、前世からの知り合いなんて言わないでしょうね。」
と、洋子はおどけてみせる。
佐竹は骨を抜き終えた様だ。ご飯に味噌汁を掛けている。
まるで、「猫まんま」の様な食事の仕方である。
熱いのだろうか?少しずつ味合う様に食べる仕草が
何故か可愛く見える雅子である。
……佐竹君、猫舌かな?……
「最近、ご飯に味噌汁を掛ける人、いないよね?」
と、洋子が聞いてきた。
雅子は、返事に困ってしまった、どの様に食べてもその人の自由だ。
「ご飯に味噌汁を掛けないのですか?以前此処にいた時は、掛けてくれてましたよ。」
と、佐竹が驚いた様に言う。
だが、驚いたのは、二人の女性であった。
「以前て、何?佐竹君今日が此処初めてだよね!」
と、洋子の表情が驚きを隠せない。
「以前というのは、・・・。日本に来た頃と言う意味です。」
と、言った言葉が弱々しい。
「そうなの、ビックリしたわ。此処って言うから、佐竹君、私の家に居たのかと思ったわ。」
と、雅子が安堵するかの様に言った。
……僕は口を滑らせてしまう。気をつけ無いといけない……
と、佐竹は反省していた。初めての地球人なので、思った事は直ぐに言葉にしてしまうのだが、しかしこれはこれからも続くのであったのだが、
佐竹(ゴア)には、特殊な能力があるのだ。
人間の記憶を消したり、逆に違う記憶を創作し思い込ます事ができるのである。
佐竹(ゴア)が、高校に編入出来たのも、その係の人に創作した出来事を、脳内記憶させ全く存在しない人物を住民と認めさせた。
この様に創作した記憶を入れる事は、一人だけではなく、
大勢の人にも同時に入れる事が出来る。
また、大勢の人の記憶も消す事が出来るのだ。
だが、これを使う時は、M52星の偉い人の許可が必要となる。
無闇に使う事は出来ない。
特に一度に大勢の人の記憶に関しては、悪意がある事ならば、
絶対に許可されない。
M52星では、食事をする事も無い、エネルギーは、全て自分の身体で作り出す事が出来るからだ。
地球的に言えば、植物の光合成みたいな物である。
だが、地球上ではそれが出来ない。
(この事は、前著 猫になった宇宙人 にあります)
佐竹は地球に来てから、食事はいつもゴンと二人だった。
だが、今日は違っていた。
三人の語らいのある食事会である。
「お母さんの料理美味しでしょ!他にもあるから、良かったら
注文してね。」
と、雅子が、玉子焼きを口に入ったまま、話してきた。
「そうですね。その玉子焼き、美味しいそうです。」
と言う佐竹に、雅子は
「美味しいよ。少し食べてみる?」
と、差し出す。
その光景を眺めながら、洋子は微笑んでいる。
「お似合いの恋人同士に見えるわよ。」
と、茶化す様に言ったが、本心の言葉でもあった。
……雅子は、佐竹君のことが好きなんだ。好きじゃなかったら、
自分の食べさしを勧めることなどはしない。頑張って雅子。
応援するからね。……
と、心の中で声援を送っていた。
「恋人だなんて・・・、嫌だわ、洋子たら」
と、照れている雅子。
でも、その言葉を誤解している、佐竹がいた
……恋人だなんて嫌!
僕は、雅子さんに好かれていないのか……
心の中を読まない佐竹(ゴア)の錯覚であった。
本当に言葉だけでは、人の心の中は解らない。
ましてや、宇宙人が地球人の心の中を判別するのは困難であろう。
……だとすると、僕は雅子さんに好かれてはいないのか!……
「美味しいですね。この玉子焼き。」
と、言った言葉が、少し沈んでいる。
「美味しいかったら、注文する?それとも、これを食べる。」
と、雅子の瞳に輝きがある。
……何故雅子さんは、僕を好きで無いのに、嬉しそうなんだろう……
と、不思議に想う佐竹である。
……お二人さん、仲良くしてね。……
と、洋子は、嬉しい気持ちを隠せない。
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