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 霊が撮れる例のカメラ(1)


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私は35歳のサラリーマン。
いつも9:00から17:00まで会社に勤務する。
私は誰からも頼りにされない男。
役にも立たない男。
俗に言う「5時から男」

そんな私でも夢がある。
プロのカメラマンになるのだ!
目指すは一流の売れっ子カメラマン。
夢は大きく持つべきだ。

だけど最近は、スランプ。
人を感動させる写真が撮れない
「これが私の実力か!」
と、諦めの気持ちが湧いてきている。

会社からの帰り道、
見かけないカメラ屋が街の片隅にオープンしている。
「面白そうだな。」と、独り言しか言えない孤独な、僕。
店に入ってみると、何だか薄暗い。


従業員は一人も居ない。
「いらっしゃい」の声も無い。

商品を見て見ると、古ぼけたカメラが並んでいる。
……骨董品か?
何だ?この店は。こんなカメラしか無いのか……
と、思いつつも数台のカメラを触ってみた。
「お客さん。何か気に入ったカメラ、あったかい?」
と、ぶっきらぼうな声が掛かる。
見ると、顎髭が白髪で髪の毛の色は茶髪。
どう見ても不自然な組み合わせ。
歳は60歳以上に見える。
この店の店主であろうか?

「何か古い機種ばかりですね。この店は
カメラの骨董品屋さんですか?」
と、遠慮無しに質問した

「お客さん、そのカメラ骨董品に見えるかい?」
と、上から目線で言ってくる。
僕の言葉が気に触ったみたいだ。

「新しくは、見えないです」
と、遠慮がちにつぶやく様に言った。

「そうかい、お客さん。面白い物見せてやろうか?」

「面白い物ですか?ど、どんな物ですか。」
と、言葉が泳いでいる。
別に期待しているのでは無いのだが、
何か卑猥な事を期待している僕だった。

男は、ガラスのケース箱から一台の古そうなカメラを出してきた。

最近のレジタルカメラではなくフイルム式のカメラである。
「お客さん、このカメラは優れ物だよ。」
と、嬉しいそうに私の顔を覗き込む

……騙されてはいけないぞ!……
と、僕は自分に言い聞かせて
「どう優れているのですか?」
と、怪訝そうに聞く。

フフフと😆笑いを堪えるかの様に店主は言う。
「これはな!」

「うん、これは」と相槌を返した

「これは、霊を撮れるカメラだ!
世界にこれしか無い!」
と、自信をもっているのか、真剣な眼差しである。

そのカメラには「霊を写せるカメラ」と銘打たれたステッカーが貼ってある。

……嘘くせい。こんな眉唾物信じられるか!……
と、怒りに似た感情が湧いてくる。

「嘘だと思っているだろう?
私は嘘などつかない、正直者だ」
と、目は真剣そのものだ。
その真剣な眼差しに私は負けてしまう。

「これってお幾らですか?高かったら買う事は出来ませんが。」
と、買う意思を示してしまった。

「これは、売りもんじゃねえよ。」
と、訳の分からない事を言い出す。

「売りもんじゃなかったら何なのですか?」

「これは、心の綺麗な正直者しか写す事の出来ないカメラなのだっ、ぞ」
と、何故か語尾に愛嬌を入れる言い方をした。
店主の顔に似合っていない言い方だ。

「じゃ、嘘つきはこのカメラでは写真が撮れないのですね。」

「わかっているじゃねぇ〜か。そうだよ。
正直者の心の綺麗な人しか写せねよ。」
と、言葉が荒っぽい。
「だったら、僕は無理です。正直者でも無いし、心も綺麗では無い」



https://note.com/yagami12345/n/n03053c4ecc0a

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