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「台湾人がどのように食を楽しんでいるか?」リピーターにこそ知っていただきたい、台湾グルメの多様性【earnestos】

リピーターにこそ知っていただきたい、台湾グルメの選択肢の広さ

こんにちは、台湾在住ライターの近藤弥生子です。

台湾に来たら、限られた食事回数の中で、必ず食べたいものってありますよね。まずは小籠包でしょ、ルーロウファンに、ジーロウファンに、中華まんに、麺やスープ、お鍋も食べたいし、マンゴーかき氷やタピオカミルクティー、豆花だって欠かせない。それに夜市で食べ歩きもしたいし…。

きっと私が観光客の立場だったらそう考えると思います。

でも、リピーターになった時の台湾グルメの選択肢には、ぜひそれ以外のジャンルもリストに入れていただきたいと、どうしても思ってしまいます。

なぜなら、台湾はさまざまなエスニックグループの人々が一緒になって暮らす多様性社会であり、さらに台湾人はほんっっっっっとうに食とコストパフォーマンス(台湾華語で「CP値」という)にうるさいので、かなりレベルの高いさまざまなジャンルの料理が味わえるから。

さまざまな文化が混じり合い、越境クロスオーバーしていくことを、台湾人たちは心の底から楽しんでいます(※ミーハーな国民性ともいう)。
それは食の世界でも、デザインでも、映画や文学でもきっと同じこと。

実のところ、台湾で暮らしている私は、日本からのお客さんが来た時や、台湾人との食事会ではいわゆる台湾メニューをいただきますが、普段自分が行くレストランは、もうちょっと違うジャンルだったりします。
台湾のベトナム料理やタイ料理は抜群においしいです。

台湾人がどのように食を楽しんでいるか

最近、「台湾人がどのように食を楽しんでいるか?」「台湾人がどんなところに面白さを感じるか」が分かる、とてもユニークなレストランにお邪魔してきたので、このレストランを例にお話ししてみたいと思います。

台湾メディアとセレクトショップで大人気の「台湾日和」さんにお誘いいただき、初めてお邪魔したカジュアル・ファインダイニング「earnestos」。

オーナーシェフはシンガポール人で30歳のErnest Toh(卓均仰)さん。
過去にミシュランレストラン「MUME」や「nkụ」で料理長を務めたこともあるほどの実力者です。

右から台湾日和さん、カジュアル・ファインダイニング「earnestos」オーナーシェフのErnestさん。

台湾人の妻さんと台湾で暮らすErnestさんが、大安区にカジュアル・ファインダイニング「earnestos」をオープンしたのがちょうど一年前の2023年12月。

「台湾は食材が豊富で、新鮮だよね」と微笑むErnestさんは、さまざまなアレンジを加えた独創的な「南洋料理(台湾ではシンガポールやマレーシア料理などをまとめてこう呼ぶ)」を提供してくれます。

どこからどこまでが台湾、南洋、と分けられないおもしろさ

今回は期間限定の一周年記念コースをいただきました。
どのメニューも「シンガポールってそうなのか」と勉強になるものばかり。

前菜プレートに乗せられたのは、財運をイメージした贅沢な「Prosper Pie Tee 發財小金杯」、アヒルのレバーにペコリーノチーズを合わせたサテー「Satay 南洋串串」、台湾でも親しまれている塩っぱい草団子「Chao A Kueh 草仔粿」。

ちなみにこちら「earnestos」の草仔粿はちょっぴりピリ辛。台湾のグルメアワード「500盤」を受賞した、看板メニューの一つです。

左から、「草仔粿」、「發財小金杯」、「南洋串串」。

続いては「Rojak 羅惹沙拉」。

ロジャックはジャワ島が起源のフルーツと野菜のサラダで、シンガポールでもよく食されているそう。スライスした季節のフルーツと野菜を混ぜ、スパイシーで甘辛いドレッシングをかけるロジャックを、あっさりバージョンにしたという一品。
本来ならドレッシングに砕いたピーナッツを入れるところ、「台湾のカラスミはおいしいからね」と、カラスミでアレンジされています。

また、「このロジャックは甘さ、塩気などさまざまな味わいが混ざっているのが特徴だから、今回はココナッツミルクと梅酢を使ってみた」のだそう。

「Rojak 羅惹沙拉」に使われていたのは、オニオンスライスにブドウなど。
オープンキッチンなので、目の前でカラスミをおろしているところが見られます。

次は「Lao Yu Sheng 台灣黃雞魚刺身」。
シンガポールではおせち料理に用いられるという「ユーシェン(魚生)」。本来はサーモンを用いることが多いそうですが、こちらではイサキが使われていました。

イサキを用いた「Lao Yu Sheng 台灣黃雞魚刺身」。わさびが添えられています。

私も台湾日和さんも大絶賛だったのが、「Chill Crab Lobster Roll 辣椒龍蝦潛水堡」。
「シンガポールといえば」の料理がチリクラブ。黒胡椒またはチリソースだそうですが、それをアレンジしているそう。米国産のロブスターに、少し発酵させた玉ねぎ、レモングラスのさわやかさがアクセントになったチリクラブを、バターたっぷりの特注ロールパンで挟んでいただきます。

「Chill Crab Lobster Roll 辣椒龍蝦潛水堡」は、これだけテイクアウトで販売してほしい。
「近所のご夫婦が切り盛りしているパン屋さんを応援したくて」と、パンは特注しているそう。

「Atas Fish Pie 中英合併魚派」
シンガポールはかつて英国の植民地だったため伝わったというフィッシュパイをアレンジしたお魚料理。カレー味で香ばしくソテーしたサワラに、パリパリの皮が乗せられています。合わせてあるのは豆苗。

「Atas Fish Pie 中英合併魚派」。Atasとはマレーシア語で高級という意味だそう。

お肉料理はアメリカ産の和牛。
お味噌と豆乳のソース、またはお塩でいただきます。
ピータン茄子、牛の骨髄で味付けしたトーストという、パンチのある一品が添えられています。

お肉の火の入れ方がちょうどよくて感激でした。

ガチョウオイルが香ばしい土鍋ごはん「主廚最愛甜豆土鍋飯(料理長最愛、えんどう豆の土鍋ごはん)」。
香ばしく炒めたえんどう豆、キノコ、百合根などを、炊き上がったばかりの土鍋ごはんに混ぜ合わせて提供してくれます。

お米は高雄139号という、こだわりの品種が用いられています。
香ばしく炒めた具材を土鍋へ。

ご飯と合わせて提供されるスープは、花蓮名物の「破皮辣椒ポーピーラージャオ」という青唐辛子や、チリクラブで使ったロブスターの殻や、魚料理で出た骨などで炊いたスープに、豆皮ドウピー(台湾版の湯葉のような食材)で包んだ巾着が浮かんでいます。寒い冬の夜、じんわり胃袋から温まります。

ピリッと唐辛子が効いたスープ。

もうこの時点ですでにお腹いっぱいなのですが、ここから怒涛のデザート祭りが始まりました。

こちらのお店、デザート担当のジェシーさんが素晴らしい味覚の持ち主なので、どれも食べずにはいられないから恐ろしいのです。

デザート担当のジェシーさん。料理している姿が目の前で見られます。

デザート一品目「Herbed Persimmon Tart」。
柿が大好きだというジェシーさんこだわりの焼き菓子は、内側にとろっとろの柿餡が入っています。それにマスカルポーネを付けていただくという、超大人味。

柿への愛がこもった一品でした。添えてあるのは香りの良いマリーゴールドの葉。

続いては温かいスープデザート「Plough Tofu Inspires Us」。
見た目からは伝わりにくいかもしれませんが、個人的には驚きがあってとても好きでした。
木綿豆腐をベースに、酒粕やアテモヤ(とっても甘い台湾名産のフルーツ)などで優しい甘さに仕上げた温かいスープに、豆皮ドウピー、銀杏、桃膠タオジャオ(桃の木の樹液で、コラーゲンが豊富で、薬膳などにも用いられる高級食材)が入っています。

スプーンですくっているのが「桃膠タオジャオ」。

大変です。もうお腹がはち切れそうなのですが、まだまだ終わりません。

しかも、こちらの「The Kueh Salat 斑蘭糯米糕」は、台湾のグルメアワード「500盤」を受賞した、看板メニューでもあるのです。
マレーシアの伝統的なスイーツ「クエサラ」が、とっても上等なデザートに仕上げられています。これを食べずしては帰れません。

下の層は硬めに炊かれたもち米。ほどよい塩っ気を帯びています。口の中でふわふわ食感で甘い上のパンダンリーフ層と合わさり、絶妙なバランスが味わえます。

このクエサラだけでもテイクアウトで売ってほしい…と思うほどのおいしさでした。クオリティがめちゃくちゃ高いです。(料理動画

コースはここまでなのですが、この日は特別に、デザート担当ジェシーさんの得意なシフォンケーキまで出していただきました。
マレーシア名物「パンダンシフォンケーキ」です。焼きたてふわっふわで、パンダンリーフの香りがテーブルいっぱいに広がり、幸せな時間でした。

台湾にいるのに、マレーシアの味覚を楽しみました。

越境して進化する南洋料理

シンガポール人シェフのErnestさんが台湾で紹介する南洋料理は、それぞれの要素がもともと南洋になじみがない客たちに向けてアレンジされていました。
それぞれのお料理をサーブされる際に説明を受けると、もともとその伝統的な料理にはどんな背景があるのかなど、とても勉強になります。

Ernestさんが自分たちの文化を解釈し、分解して伝えてくれる料理、という感じがしました。そして、台湾や日本の食材をどのように組み合わせたのかなどのお話も興味深かったです。

もちろんシンガポールやマレーシアに旅行に行くのも楽しいですが、台湾でこうした経験ができることを、個人的にはとても面白く感じるのですが、皆さんはいかがでしょうか。

今回いただいたコースは一周年記念の特別メニューで一人3,600元(+サービス税10%)、旧正月前までは提供されるそうです。

6名以上で利用できる地下の個室。(写真提供:earnestos)

earnestos

台北市大安區瑞安街208巷5號
営業時間:18:00~22:00(L.O.20:00)日・月曜定休
要予約・12歳以上のみ入店可
個室あり(6名以上で利用可)、貸切プランあり
https://www.instagram.com/earnestos.tw/
メニュー・予約はこちら

余談:人材不足のレストラン業界で、なぜこんなにスタッフが定着しているのか?

完全に余談ですが、正直なところ、こちらのお店のスタッフの多さには驚きました。

調理専門学校を卒業したばかりというマレーシア人のスタッフさんもいらっしゃいました。皆さん家族のように仲が良いのが伝わってきます。

途中、シェフErnestさんの妻さんもひょっこりお店に顔を出されて、皆で談笑されていらっしゃいました。

Ernestさんはこのお店を、「友人の自宅に食事をしに来たような感覚になってほしい」という考えから、カジュアル・ファインダイニングという位置付けにされたそうです。

なんと、Ernestさんのご自宅と同じデザイナーさんがインテリアを担当されたのだとか。

リビングのようにリラックスできる雰囲気です。(写真提供:earnestos)

台湾で暮らしているとこうした近隣諸国の文化に触れることができて、とても勉強になります。(もちろん日本でも触れられると思うのですが)

とても良い体験をさせていただきました。誘ってくださった台湾日和さん、ご招待くださったearnestosの皆さま、ありがとうございました。

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