日本のニュースが報じない、台湾で昨夜起こった3万人規模の民主デモの話
5/21(火)、台湾台北で3万人を超える民衆らが立法院(国会)周辺に集結し、今国会で強行採決されそうになっている国会改革などの法案に対する抗議の意を示しました。私も昨夜はその3万人の一人になりました。(トップ画像の出典:Lynn Hsieh)
日本ではほとんど報じられない、報じられても不思議な伝え方
不思議だなと思うのは、台湾ではトップニュースになっているこの件が、ほとんど日本で報じられないことです。
報じられていても、ちょっと不思議な切り取り方で、「そこ?」というような内容。
↓ 「裏側に意図あるのでは」と市民らによる抗議集会が開かれ、「1万人以上が」集ったと報じられていました
台湾現地のニュースでは、これが「抗議のデモ」であり、3万人以上が集結したと報じられている
↓ 台湾の国家通信社・中央通信社の報道には現場の写真がたくさん掲載されています。昨夜はこの規模で抗議デモが行われました。
↓ 台湾のテレビ局・ニュースらは「3万人以上」と報じています。
何度でも伝えたい、オードリー・タンさんの言葉
とってもPEACEな抗議行為でした
昨夜、私は台湾人の友人から「おいでよ! 今夜のはそんな危ないデモじゃないから大丈夫」と電話がかかってきて、急いで身支度を整え、現場に向かいました(電話がかかってきた時には夕食後のお皿洗いをしていた)。
友人たちと落ち合ってから立法院(国会)の方へ向かうと、警察から「どんどん人の数が増えていて、安全面のリスクがあるから、今は出入りを制限している。あっちから迂回して入ってね」と言われました。
「台湾の警察はPEACEだね」と友人たち。
現場では多くの友人・知人に会いました。
中には仕事帰りにお母さんと落ちあい、二人で来ている友人も。
「10年前にもここに来たのよ」とお母さんはニコニコ顔。
↓ 犬の散歩がてら来ているような人も(下の写真右上)。
「10年前にも強行採決はダメだと教えたのに、まったくしょうがないな」と、私の友人。
「10年前を思い出すね」「今夜はまるで10年前のあの日のようだ」と皆が口を揃えて言っていたのは、まさに2014年3月18日から始まった、「ひまわり学生運動」のことです。
↓ 急遽決まった抗議デモでしたが、現場には多くの著名人も駆け付けていました。この動画で宣伝カーの上に乗っている女性はインフルエンサーの鄭采勻さん。そのほかにも半導体大手UMC名誉会長の曹興誠(ロバート・ツァオ)さん、台湾総統府でパフォーマンスをして話題になったドラァグクイーンのニンフィア・ウインドさんらも加わりました。
台湾人たちはなぜ怒っているのか?
2024年1月に総統選挙と同時に行われた国会議員選挙の結果、現在の国会は民進党(蔡英文前総統や賴清德現総統が所属する政党)が国民党の議席を下回っており、“ねじれ”状態となっています。
今回、国民党は少数ではあるものの議席を増やした第3党の民衆党と連帯し、「国会改革法案」という法案を強行採決しようと試みました。
↓日本語の情報が少ないですが、台湾の国家通信社・中央通信社がさわりだけ報道してくれています。
民主主義が守られないことに抗議している
ここで私の友人たちが問題視しているのが、そもそもその「国会改革法案」の内容は公開されていないものも多く、不透明であり、さらには“国会議員の権利を増幅させ、市民たちの政治参加を阻む恐れがある”という点のようです。
17日には、十分な議論が行われていないとそれを阻止しようとした民進党との間で激しい衝突が起こり、けが人が出るほどの混乱に陥っていました。
そして21日、審議が継続される国会をぐるっと包囲する形で民衆らが集まり、抗議が行われました。
スローガンは
「沒有討論 不是民主」話し合いがないのは民主主義ではない
「自己的國家自己救」自分の国は自分で救え
「ここが要だ、台湾を守れ」
参加した友人は、「ここが要で、国会が乗っ取られると台湾は香港になってしまう」と話していました。
確かに、恐ろしいことに、10年前のひまわり学生運動で、(当時学生だった林飛帆さん、陳為廷さんとともに)リーダー的な存在の一人だった黄國昌さんが(当時は台湾の最高学術研究機関「中央研究院」に在籍)、10年後の今、民衆党所属の国会議員として、真逆の立場を取っていることです。
あろうことか、黄國昌さんは今回の国会で、花蓮県の元知事で国民党所属の現国会議員、傅崐萁さんを支持する立場を取りました。
「中央山脈を貫通させる」ぶっとび法案に市民が激怒
国民党所属の傅崐萁さんが今回国会で議員立法に持ち込んだ国家予算2兆台湾元(およそ10兆円)の「花東三案」も今回の抗議デモの争点でした。
この「花東三案」は、傅崐萁さんが以前知事を務められており、現在は同氏の妻・徐榛蔚さんが知事を務める花蓮と、そこに隣接した台東エリアにまつわる法案です。
「花東三案」の中には、台湾を一周する台湾新幹線(高鐵)の建設法案のほか、「国道5号を東に延ばす」という計画も含まれており、そのために台湾の中央山脈を貫通させた道路を建設するというプランが「十分に議論や審議をされないままスピード強行採決に踏み切ろうとしていること」に批判が集まっています。
自然や生態系の保護、そしてただでさえ地震の多いこのエリアでの建設など、十分な対策が練られていないのに、単に経済発展だけを追求するべきではないと、市民たちは抗議しています。
富士山や日本アルプスに道路を通そうと言われているようなものなので、皆の訴えも最もだと感じるのは私だけでしょうか。
民主主義ではない採決方法
しかも、そのスピード強行採決のやり方にさらに不満が集まっています。
いつもの国会では賛成反対の表明はそれぞれの国会議員がボタンを押して行うものですが、今回の「花東三案」では「挙手」で採択が行われたことに、「これは台湾の民主的なやり方ではない」と市民たちは大反対しているのです。
そして、“ねじれ”状態となっている国会で議長を務める人物が、過去に総統選に立候補したこともある、元高雄市長で国民党所属の韓國瑜さん。
採択方法を挙手に変えたり、投票数のカウント方法をいきなり変えたりと、その手法に民進党議員たちから反対の声が上がっています。
ひまわりから10年、当時の子どもたちが担い手に
今回集会に参加していて驚いたのが、集まっている参加者の多くが若者だったこと、そして彼らの中から16歳の高校生が数名、壇上でスピーチをしていたことでした。
16歳の高校生のうちの一人は、ひまわり学生運動の時に台湾のバンド「Fire EX」がテーマソングとして作った楽曲『島嶼天光 Island's Sunrise』を歌いました。10年前、彼女は6歳。草の根のパワーを感じます。
↓ ひまわり学生運動の時の様子が分かるMVです。日本語字幕付き。
↓英語字幕付きバージョン
民主主義を追い求める社会、デモは批判されない
すごいなと思ったのは立法院(国会)の隣にある教会「台灣基督長老教會濟南教會」が休憩場所として使えるよう一般開放され、そこで食事や水、Wi-Fiが提供されていたことです。
この、デモに参加することを批判されない、責められない、社会の雰囲気も大切だなと思いました。
共同親権法案が通ってしまって落ち込んでいた私と、未来のために行動する台湾人
最近の私は、共同親権法案がものすごいスピードで強行採択されたことに、落ち込んでしまっていました。この先、ますます追い込まれる子どもたち、母親、父親たちのことを思うと、あまりの自分の無力さに、座り込みたくなってしまいます。
でも、同じように悪い法案をスピード強行採択されそうになっている台湾人たちは、私の目の前で、まったく止まることがありません。
「子どもたちの未来を少しでも良くしよう」
「自分の国は、自分で守れ」
オードリー・タンさんがおっしゃっていたように、
「今の社会は過去の歴史の結果」
「今起こっていることに落ち込まずに、未来を変えるために今少しでもできることをする」を信じて、私も引き続き前進していきたいと思います。
【5/23補足を追加】デモで見かけた光景
5/21の抗議デモについて、一点補足させてください。
国会の審議はなんと夜23:46まで続けられ、法案の強行スピード採択を(次の審議会に持ち越す形で)阻止することができました。
その直後、国会議事堂から出てきた民進党議員たちが橋の上から民衆に向けてお礼を述べ、励まされたよと、一緒に頑張ろうと手を振りました
↓ 中央通信社の記事でもそのように書かれていますので、間違いないと思います。
声を枯らした国会議員たちと、国会の隣で審議会が終わるまで集会を続けた民衆たちは、ともに声をあげていました。
台灣加油 台湾がんばれ
台灣加油 台湾がんばれ
台灣加油 台湾がんばれ
決して楽観視はできないから、明日24日、28日にはまた立法院の周りに民衆たちが集う予定とのことです。
どうか引き続き、台湾を見守っていただければ幸いです。
そして、日本のことも守っていきたいですね。
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