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トビウオを売ってアーチェリー部の運営資金を稼ぐ、台湾・東澳の公立小学校へ
「炭火焼きの絶品あごだし」工場を設立された伊藤努さんが紹介してくださった、伊藤さんと同じ東澳で暮らされている、タイヤル族(泰雅族)のユリコさん。
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左から、フォトグラファー五味稚子さん、桃園・大溪アンバサダーの近藤香子さん、ユリコさん、私、ルポライター田中美帆さん。伊藤努さん撮影。
ユリコさんは、現地を訪れた私たちにタイヤル料理をご馳走してくださったり、「|宜蘭《ぎらん》クレオール」という、タイヤル語に日本語が混ざって形成された新しい言語を話す親戚の皆さんを会わせてくださったりしました。
そうして賑やかな食事が終わり、「宜蘭クレオール」を話すおばあさんたちが帰られた後、ユリコさんは東澳の村をざっと案内してくださいました。
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トビウオの村、東澳
前回のnoteにもチラッと書きましたが、山地で暮らすタイヤル族たちは、もともと20〜30年前から東澳で暮らす漢民族と交易をしていて、自分たちが狩猟で得た肉と、漢民族たちからここで獲れたトビウオを交換していたのだそう。
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そのため、タイヤル族の中でもこの村が「トビヨ(tobiyo、トビウオのこと)の村」と呼ばれていたということでした。
ユリコさんはそんな東澳の公立小学校、「東澳國民小學」の校長先生に電話をかけ、「あ、もしもし校長? 日本の皆さんが東澳に来てくれているから、小学校の中を案内してあげていいですか? うんうん、大丈夫ね、ありがとう校長!」とあっという間に話を付けると、校内を案内してくれました。
オルタナティブ教育を実践する東澳小学校
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中央が伊藤努さん。
東澳小学校(正式名称:東澳國民小學)の生徒数は公式サイトによると、2024年8月時点で46名。各学年10名に満たない1クラス編成で、教職員数は18名。
とてもこじんまりとした学校のようですが、ユリコさんが案内してくださる校舎を見ていると、ものすごく魅力的です。
学生の8割ほどがタイヤル族を占めるというこの東澳小学校、2016年に実験教育(オルタナティブ教育)を実践する学校の申請を経て、現在ではタイヤル族の伝統である狩猟や、伝統工藝の織物、伝統的な音楽である木琴の授業などもあるそうです。
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出典:東澳國小實驗教育微電影
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出典:『東澳國小射箭隊,烤飛魚義賣籌經費!獨立特派員 第654集 (遇箭飛魚)公共電視-獨立特派員 PTS INNEWS(2020/07/08)』
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確かに、「不老部落」の建物に似ていました。
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トビウオで軍資金を稼ぎ、国際大会に出場するアーチェリーチーム
また、ユリコさんが誇らしげに教えてくださったのが、この学校のアーチェリーチームが強豪であること。
以下は上記動画『東澳國小射箭隊,烤飛魚義賣籌經費!獨立特派員 第654集 (遇箭飛魚)公共電視-獨立特派員 PTS INNEWS(2020/07/08)』からの情報ですが、
東澳小学校では、タイヤル族が狩猟で生計を立ててきた民族であること、台湾はオリンピックでもアーチェリーの強豪であること、子どもたちの発育にも良いなどといった理由から、校長によって2013年にアーチェリーチームが設立されたのだそう。
しかも、東澳小学校のアーチェリーチーム優秀な成績を納め、2016年と2018年に米国、2019年にマレーシアと、国際試合に出場する資格を得て、金メダルや銀メダルを獲得。2020年もフィリピンの国際試合に出場するはずだったのが、コロナ禍で叶わなかったとのことです。
こうした遠征費用や設備費用などを稼ぐため、東澳小学校ではこの地の特産であるトビウオを加工し、「義賣(台湾華語でチャリティ販売のこと)」しているのだそうです。
トビウオの収穫期(4月末から6月末ごろまで)を迎えると、この東澳小学校の子どもたちは毎朝、校長に連れられて自転車で近くの漁港まで行き、港で朝ごはんを食べ、漁港に上がったばかりのトビウオを買い、カゴに入れて小学校に持ち帰ります。
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こうして校長と子どもたちが持ち帰ったトビウオは、近所で暮らすボランティアの女性たちが洗い、処理して干物的なものを作るのを手伝ってくれるのだそうです。(やはり、ここでも台湾はおばちゃんで回ってる!)
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出典:財團法人台北市關懷台灣文教基金會【熱血老師 – 宜蘭東澳國小「鄔誠民」校長的故事】
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出典:『東澳國小射箭隊,烤飛魚義賣籌經費!獨立特派員 第654集 (遇箭飛魚)公共電視-獨立特派員 PTS INNEWS(2020/07/08)』
一つの炉(ドラム缶)にお腹に少し塩を塗ったトビウオが600匹ほど引っ掛けられ、ドラム缶からの間接熱で時間をかけてじっくり火を通し、干物的なものにするそうです。2020年からは「トビウオ唐辛子」といった新しい商品も開発したそうです。
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出典:『東澳國小射箭隊,烤飛魚義賣籌經費!獨立特派員 第654集 (遇箭飛魚)公共電視-獨立特派員 PTS INNEWS(2020/07/08)』
鄔誠民校長はインタビューの中で、
「何年か前に蔡英文総統(当時)が、地方経済という概念を話されていたことがあるが、地方経済の基礎はきっと地方教育、地方の文化にあると思う」と話されていました。
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こうして小学校で文化的な教育をするのは、この地の文化を誇りに思う人材を育成するためだと語られていました。
この地を出た時に、自分の故郷やその文化に誇りを持てる人こそが、未来の地域を作っていけるのだと。
他のインタビュー動画で、子どもたちは、「校長先生が一番大変」「トビウオ(の干物的なもの)を作りながら、学校で寝ている時もある」と語っていました。
こんな魅力的な教育が行われている地域なら、少子化であっても競争力のある地域を創り出していけるのだろうと感じました。
というわけで、これにて東澳三部作のnoteはいったんおしまいです。お読みくださり、ありがとうございました!
東澳三部作
① 日本人料理人が作った台湾産の絶品あごだし工場を訪ねて、港町「東澳(トンアオ)」へ
② 台湾原住民の言葉なのに聞き取れる?! 日本語と混ざって形成された新言語「宜蘭クレオール」
③ トビウオを売ってアーチェリー部の運営資金を稼ぐ、台湾・東澳の公立小学校へ(本記事)
ここから先は
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