佐藤恵秋「三楽の犬」
佐藤恵秋「三楽の犬」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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大河ドラマ「八重の桜」以上に、女鉄砲撃ちが活躍する「雑賀の女鉄砲撃ち」連作に続く、佐藤恵秋の歴史小説である。今回の主役は犬たち。その舞台は天下を争う織田信長・豊臣秀吉・徳川家康たちの争う京都ではなく、北関東である。そこは北条氏康、武田信玄、上杉謙信が雌雄を決した東の戦国史である。
今の群馬県に当たる上野国の岩付(今の岩槻)を根城とする太田資正。太田道灌の子孫の名門であり、関東管領の上杉憲政に従っていた。しかし上杉家は北条氏康と武田信玄に敗れて凋落。岩付太田家は北条家に飲み込まれないよう苦慮する。一族の太田犬之助は、脚のケガを機に、資正から二頭の犬を授かる。一楽と二楽と名付けられた犬たちは、今で言う柴犬だが、伝書鳩ならぬ伝書犬の役割を担っていた。なかなか犬之助の言うことを聞かない二匹だったが、犬之助に命を助けられてから心が通い合うようになる。北条対策の一方、隣国の信濃には武田晴信が侵攻。武田・北条・今川の甲相駿同盟に、逃げた上杉憲政を奉じた長尾景虎が立ちはだかる。犬之助は犬と共に、資正の諜者となって太田軍の戦略戦術の貴重な情報源となる。
戦国時代の名脇役である武田vs.上杉、上杉vs.北条の戦史を軸として、諜者や忍者たちが陰の主役である。それぞれの軍に忍びの者がおり、卓抜した技や見識を競い合う。そこは武将たちとは違った魅力である。主人公の犬之助は、優秀さにおいては一歩及ばないが、犬たちとのパートナーシップと濁りない目で独自の位置を築く。そして犬たちの忠義と優秀さが、この作品の最大の魅力である。読者は読み進むうちに、必ずや一楽と二楽を愛おしく思うだろう。そして物語の終焉に近づいた頃に、この作品がなぜこのタイトルなのかを知ることができるだろう。
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