秋山香乃「無間繚乱」
秋山香乃「無間繚乱」(徳間書店)。電子書籍版はこちら↓
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平安貴族の歴史物語は、戦さのない、社交の駆け引きということで、これまで食指が動かなかった。そもそも登場人物を知っているようで、よく知らない(大河ドラマ「光る君へ」も)。しかし読み進むうちに、ヒロイン2人の想いの深さに圧倒された。藤原道隆の娘である皇后・定子と、藤原道長の娘である中宮・彰子。藤原道隆は藤原兼家の嫡男、藤原道長は五男。ここで繰り広げられる血みどろの争いは、藤原兼家亡き後の兄弟による覇権争いなのである。登場人物は藤原だらけ。この時代の権利は一条天皇=帝(みかど)と外戚関係を結ぶこと。つまり自分の娘を帝に嫁がせて、男子を産ませて東宮(皇太子)とすることにあった。
関白・藤原道隆の死後、時の権力者となった藤原道長の中関白家に対する横暴極まる専制。愛する定子とその子たちのために徹底抗戦する帝。しかし藤原道長だって、軍門に降れば葬り去られる。これは平安貴族たちの生きるか死ぬかのバトルロワイヤルなのだ。そして政争の間で懊悩する定子と彰子。ここでは定子が帝の寵姫で、彰子は藤原道長の送り込んだ最終兵器。韓国歴史ドラマなどで「三大悪女」などという歴史上の人物が登場する。しかしその動機を見れば、いずれも夫の愛を欲しいが故。定子は定子なりのやり方で、彰子は彰子なりの姿勢で帝に尽くそうとする。一夫多妻制の御代、覚悟を決めた女は強い。そしてサブストーリーとして、定子には清少納言が、彰子には紫式部が侍従する。平安政争の傍らに咲いた文学の華である。
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