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三文掌編

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みなさまより三つのお題(ことば)を頂いて書いている掌編小説です。
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2014年8月の記事一覧

三文掌編②「雨とチョコとウォーキング」

 歩いて帰ることに決めたのは熱波に背中を押されたからだった。

 いい加減、涼しくなってもいい頃合なのに季節はまだ夏にしがみついていて次に進もうとしない。それでも草木や虫たちはゆっくりと秋支度をはじめている。頬を撫でる風は生温かかったが側道の草陰からは鈴を転がすような虫の音が聞こえた。

 雨上がりだからもっと涼しくなるかと思ったが、むしろ湿気が増したようで歩きはじめるとすぐにじんわりと汗をかいた

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三文掌編①「猫と酒と本」

 基本的にはオナニーしてるか、それかセックスしてるかだね。  

 人は驚くとこんな顔をするものなのか。本当に口をあんぐりと開けるものなんだな、と助手席に座る年下の先輩の顔を横目で見て思わず口の端が上がってしまう。

  休みの日は何してるんすか、と聞かれてそう答えた。 

 今の会社に入って大体三年くらい経つ。前の職場の人間関係に嫌気が差して逃げるように辞めて、ここでもそう長く勤める気はなかった

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