塾生解説記事 Part1: アメリカ大統領選挙
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ということで、この企画が誕生しました!
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ということで、記念すべきPart1のライターは薮中塾最年少ながらいつも先生と熱く議論を交わすホープ(と石川が勝手に思っております)の小野くんです!
ぜひご一読よろしくお願いします!
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こんにちは!!薮中塾6期生の小野耕平です!
皆さんは、今回のアメリカ大統領選挙の特徴はどのようなもので、争点は具体的にどこにあるのか、について具体的にご存知でしょうか?
郵便投票が実施されたり、トランプ氏がコロナウイルスに感染するなど、コロナ禍で行われている異例の選挙ですが、今回は、いよいよ来月に迫ったそのアメリカ大統領選挙についてお話ししたいと思います。
具体的には、
トランプ氏とバイデン氏の両者の公約を比較しながら、今回のアメリカ大統領選挙において特にカギを握る「新型コロナウイルス対策」、「経済政策」「社会保障政策」について述べていきます。
まだまだひよっこの未成年がアメリカ政治を語っているということを念頭において、温かい目で見てくれたら幸いです!(笑)
両候補の公約の比較
※4年前の大統領選でもそうだったのですが、トランプ氏は自分の公約の詳細については演説で話したり、掲げている公約を演説の際に覆すなど、公約の文面だけではわからないことも多いです。
そのため、日本を含めた海外のメディアもトランプ氏の公約ではなく、演説の内容を大きく報道するのですが、今回の投稿ではあくまで公約をベースに考えていきたいと思います。
まず初めに、今回のアメリカ大統領選挙の両候補の公約を比較してみましょう。
こちらはトランプ氏の主な公約です。
参照:https://gentosha-go.com/articles/-/28715
こちらがバイデン氏の主な公約です
参照:https://gentosha-go.com/articles/-/28715
両候補で明らかに異なる政策は「環境政策」です。
バイデン氏は、気候変動を人類存亡の危機だとしており、トランプ氏が大統領に在任したときに離脱したパリ協定にもう一度復帰し、アメリカも温室効果ガス削減に大きく貢献するべきだという考えを示しています。
具体的には、温室効果ガスを2025年までに2005年比で最大28%削減すると約束しており、最終的には、2050年までにアメリカの温室効果ガス排出をゼロにすることを目指すと表明しています。
また、グリーンエネルギーにも関心を示しており、上の表にある通り太陽光パネルの設置に予算をかけ、再生可能エネルギーの促進に力を入れるつもりのようです。
一方、トランプ氏はそもそも環境問題に対して具体的な政策をまだ示しておらず、在任中と同様に気候変動などの問題に関してはほとんど関心を抱いていないようです。
加えて、「移民政策」にも明らかな違いがあります。
バイデン氏は就任から100日以内に、メキシコとの国境で幼い子供を両親と引き離すトランプ政権の方針を撤廃すると公約しています。
同様に、難民申請の件数制限を撤廃し、イスラム教徒が多数を占める一部の国からの渡航禁止を撤廃する方針を示しています。
さらに、乳幼児としてアメリカに連れられ不法入国してそのまま成長した、いわゆる「ドリーマー」たちについて、オバマ政権が定住を認めた姿勢に立ち返り、「ドリーマー」を保護し、連邦予算からの学費援助も認めるとしています。
他方、トランプ氏は、アメリカとメキシコの間の壁建設を続けると公約しています。
前回選挙で公約の目玉だった壁は、約1200キロのうち716キロ分について予算を確保していると明言しており、公約をしっかり実行する姿勢を支持者に見せています。
(もうアメリカ以外の国のほとんどの人が求めていないこの公約をまだやるんですね、、)
ここまでは、両候補の公約を全体的に見て明確な違いのある政策を紹介しましたが、ここからは今回のアメリカ大統領選挙において特にカギを握る「新型コロナウイルス対策」、「経済政策」、「社会保障政策」についてお話ししたいと思います。
新型コロナウイルス対策
なんといっても今回の大統領選挙の目玉の争点は「新型コロナウイルス対策」です。
現在、アメリカは世界有数の新型コロナウイルス感染者数と死者数を抱えており、トランプ氏の新型コロナウイルス対策は世界でも注目されています。
その注目のトランプ氏の新型コロナウイルス対策は上の公約の表の通りです。
2020年末までにワクチンを開発し、2021年には国民の生活を通常に戻すと約束しています。
ワクチン開発に関しては、両候補ともに取り組みを発表していますが、トランプ氏についてはワクチン開発が進んでいる中国に対する懸念もあり、このように具体的な期限を発表しているようにも見えます。
後者の約束に関しては、後述する経済政策に大きく関わるのですが、どの程度の生活を通常生活と定義し、どのような確信があって通常生活に戻ることができると約束しているのかは不明ですね。
余談ですが、皆さんはなぜトランプ氏がマスク着用の重要性を軽視していると思いますか。もちろん国民に対して「新型コロナウイルスなんて大したことない」と見せたいことも確かなのですが、それ以外にもアメリカ全土でひそかに話題となっているマスク反対派に向けたパフォーマンスでもあります。
引用:https://www.businessinsider.jp/post-217942
先月、アメリカカルフォルニア州の大型小売店でマスク反対派が抗議デモを起こしたことは日本でも報じられましたが、アメリカでは「マスクをつけるかつけないかは個人の自由であり、つけることを強要しないでほしい」という人が一定数存在し、そのような人の中にはトランプ氏の支持者も多くいます。
そのため、先述の2021年には国民の生活を通常に戻すという公約は、マスク反対派に向けて、「もう来年くらいにはマスクをつけなくていい生活に戻れるぞ」というメッセージでもあるかもしれません。
(ただ、トランプ氏が新型コロナウイルスを軽視する発言を繰り返しているからそういう風潮が今まで以上に活発化しているともいえるかもしれません、、)
しかし、トランプ氏の新型コロナウイルスに対する初期の対応が遅れたことにより、アメリカが想定以上の感染者数・死者数を記録しているのは明確であり、これに対する非難は避けられないものとなっています。
対して、バイデン氏の新型コロナウイルス対策はトランプ氏とは異なっています。
上の表の通り、バイデン氏は就任したらその日にコロナ国家戦略を実行するとしています。
具体的には、全米の各州にそれぞれ少なくとも10カ所程度の検査施設を設置し、国民全員に無料検査を提供し、全国的な接触者追跡を実現するため10万人を雇用するという計画を立てています。
また、連邦政府機関に人員や能力の提供を要請し、連邦政府の専門家を通じて従来より確固たるガイダンスを国民に提供する方針を示しています。
そして、トランプ氏とは対照的に各州の知事全員に、住民へのマスク着用の義務化を要請するとしています。
アメリカ政府の権限の拡大を警戒する有権者は、これを過剰な対応だと受け止めるでしょうが、バイデン氏と民主党は同じく、「政府の役割とはそうしたものだ」と考えているようです。
日本の報道では、バイデン氏のマスクの義務化政策ばかりが大きく報道されていますが、バイデン氏は国家戦略についても具体的に明示しているようです。
経済政策
次は、両候補の経済政策についてみていきましょう。
まず初めに、トランプ氏の経済政策を見ていきたいと思います。
トランプ氏が自身の実績として最もアピールするのは「俺が大統領になってから、アメリカの経済は勢いを取り戻した!」ということです。
特に強く主張しているのが、失業率の低下です。
アメリカの失業率は、トランプ氏の大統領就任当初の2016年11月の失業率である4.7%が低下の限界だと思われていましたが、2019年9月までに3.5%に低下しました。
また、トランプ氏の失業率低下は新型コロナウイルスでも一定継続されました。
例えば、今年の4月アメリカの失業率は14.7%で戦後最悪となっていましたが、8月に8.4%に低下させ、3月と4月で失われた2200万人の雇用の半分近くが戻ったともとれます。
そして、トランプ氏は経済に関する公約の実行も強調してます。
4年前の大統領選では、勤労世帯への大規模減税、法人税の引き下げ、通商協定の見直し、アメリカの製造業の復活などを公約として掲げていました。
この公約の一部は、しっかりと実現しています。
この4年間で、企業に対する様々な連邦法の規制撤廃を行い、法人税や所得税を引き下げ、国内で作られる製品を優遇する大統領令に署名してきました。
トランプ氏が大統領に就任した2017年1月以降、アメリカの製造業は48万人以上の雇用を増やしました。
(ただし、この製造業の雇用増加による経済の影響については、経済アナリストの間でも賛否両論あります。)
トランプ氏はこれらの実績を強調して、選挙戦を有利に進めようとしています。
それでは、トランプ氏の今回の公約を見ていきましょう。
トランプ氏の経済政策は上の表のとおりです。
ここでは、ひと際目立った「10か月以内に1000万人の雇用を創出する」という政策について見ていきます。
この政策の実行には、新型コロナウイルス対策と対中関係が関係しています。
先述の通り、新型コロナウイルスの感染拡大により失われた雇用は徐々に戻りつつあり、これを維持・促進していけば雇用のさらなる創出は可能だと考えているようです。
また、トランプ氏は対中政策として中国から100万人分の雇用を取り戻すとしており、それだけでなく中国から雇用を取り戻した企業に税控除をすることにより、中国から多くの雇用を取り戻すことが可能だと考えているようです。
このように、トランプ氏の経済政策は対中関係等の貿易政策や、新型コロナウイルス対策と深く関係しているため、これらの政策も同時に考慮する必要があります。
次に、バイデン氏の経済政策について確認していきたいと思います。
一つ一つの経済政策に関しては上の表を確認してほしいのですが、ここではそれらの公約に関連したいくつかの政策について注目していきたいと思います。
一つ目は、最低賃金の引き上げ政策です。
バイデン氏は、連邦最低賃金を時給15ドル(約1600円)に引き上げるべきという姿勢を示してます。
これは特に若者に人気で、今回の選挙戦で民主党にとって目玉政策になりつつあります。
この政策は、別の政策である連邦政府ローンについて学生ローン1万ドルを免除するという政策とセットであり、この二つの政策は現在も多くの支持を集めているサンダース氏の支持者の声を尊重したともいえます。
引用:https://www.businessinsider.jp/post-192588
サンダース氏は選挙戦からは離脱したものの、バイデン氏支持を掲げており、バイデン氏はそのサンダース氏の支持者の声も否応なく尊重しなければならなくなりました。
また、今回の選挙戦で分かったことは多くの若者が学生ローンなどによる貧困に苦しんでおり、いざとなったらこれらの若者の声はSNS等を通じて全米に大きな影響を及ぼすということです。
二つ目は、トランプ氏の得意分野である「バイ・アメリカン(アメリカ製品購入)」を促進させる政策です。
バイデン氏は、アメリカ製品の購入促進に連邦予算4000億ドルを拠出すると約束しており、新規交通事業に「バイ・アメリカン(アメリカ製品購入)」法を徹底させると約束しています。
バイデン氏はかつて北米自由貿易協定(NAFTA)支持を攻撃されていました。
なぜなら、一部批判としてNAFTAは、雇用の海外流出につながるという意見があったからです。
このような批判に対して、「自分はあくまでもアメリカの経済も第一に考えていますよ!」というアピールをしたい考えもあって、一部の政策にトランプ氏と共通するようなアメリカ第一主義を掲げているのかもしれません。
社会保障政策
最後に、両候補者の社会保障政策について見ていきましょう。
例のごとくまずはトランプ氏の公約から。
トランプ氏の社会保障政策を一言でいうと、「オバマケア」の全廃です。
その他の社会保障政策もこの「オバマケアの全廃」と関連したものとなっています。
トランプ氏は前回の選挙でも、オバマ政権が成立させた「オバマケア」の撤廃を公約していました。
トランプ氏の任期中に完全撤廃には至っていないものの、これまでにもオバマケアを部分的に解体してきました。
例えば、トランプ氏は医療保険に加入しない個人には課税するという、個人の保険加入義務を廃止したため、実質的に「オバマケア」の機能を著しく低下させました。
今回の選挙戦では、その「オバマケア」の全廃を目論んでいます。
そして、「オバマケア」を全廃する代わりに、社会保障制度と公的医療保険制度の保護を約束し、医療保険料と処方薬の価格引き下げも約束しています。
それだけでなく、トランプ氏には2017年にオピオイド(鎮痛剤)依存症に関する危機を国家的な公衆衛生の緊急事態と宣言し、予防と治療、回復のための各州の取り組みに連邦政府予算18億ドルを提供した功績があります。
トランプ氏は、このようなオピオイド処方の制限にも取り組んだ功績も強調しています。
(反対勢力はこれについて、医療保険を数百万人に提供したオバマケアを廃止するトランプ氏の政策の方が、むしろオピオイド危機対策に悪影響を及ぼしていると批判しているようですが、、)
次に、バイデン氏の社会保障政策を見ていきましょう。
バイデン氏の社会保障政策を一言でいうと、「オバマケア」の拡大です。
引用:https://www3.nhk.or.jp/news/special/presidential-election_2020/basic/issue-and-point/issue-and-point_07.html
バイデン氏は、自分が副大統領を務めたオバマ前大統領が成立させた「オバマケア」による公的医療保険の仕組みを拡大し、国民の約97%に医療保険を保証する方針を示しています。
言い換えると、全米の無保険者の割合を減らすということですね。
確かに、オバマ政権下の2015年の無保険者の割合は、2010年の16%(約4400万人)に比べて、約9%(約2900万人)と大きく低下しましたが、バイデン氏はより無保険者の割合を少なくしたいようです。
したがって、サンダース氏などが主張する国民皆保険の導入には至らないものの、全国民に公的医療保険に加入する機会を提供する姿勢です。
ここで、そもそも論なのですが、皆さんはなぜアメリカでここまで「オバマケア」に対して意見が割れていると思いますか。
(日本に住んでたら長期的に考えても「オバマケア」は推進するべきなようにも感じるのですが、、)
「オバマケア」反対派の主張は大きく分けて三つです。
一つ目は、国民全体の保険料が上がる可能性があるということです。
「オバマケア」以前のアメリカでは、持病を持っている人は支払う保険料と比べて医療費が多くかかる可能性が高いため、保険の加入を断られていました(もしくは、多額の保険料がかかる)。
つまり、支払う保険料と比べて医療費が多くかかる可能性が高い持病を持っている人は、「保険の仲間に入れないほうがみんなのためになるよね」ということです。
しかし、「オバマケア」はこれを規制したため、これまでは加入できなかった持病を持っている人なども加入できるようになりました。
そのため、「オバマケア」によってこれまで入れなかった人が保険に入ってくると、全体の保険料が上がってしまうのではという懸念があります。
二つ目は、「オバマケア」は個人の選択の自由を侵害しているというものです。
これは先述のマスクの反対運動にも共通しますが、アメリカでは広く個人の選択の自由が尊重されているため、「オバマケア」の「医療保険に入らないと罰金的に課税する」という考え方に、「国に強制されている」という反発の気持ちが生まれてしまいます。
実際、2018年に共和党の州知事らが、国民に保険加入を義務付ける「オバマケア」の廃止を裁判所に求め、南部テキサス州の連邦地裁がその後、義務付けを違憲とする判決を言い渡したという事件もあったほどです。
三つ目は、シンプルに多大な予算がかかるというものです。
例えば、超党派団体「責任ある連邦予算委員会」は、バイデン氏の先述の医療保険計画(「オバマケア」の拡充案)には10年間で計2兆2500万ドルかかると試算しており、これが事実なら多大な財政負担になる可能性があります。
ここまでトランプ氏とバイデン氏の公約を比べてみていかがでしたか?
両者の違いがより具体的に見えてきたのではないでしょうか。
実際、日頃あまり両候補者の公約を比較する機会はないと思うので、皆さんの学びに貢献できたら幸いです。
この記事を機に皆さんには、これから両候補者のどちらかが大統領になったとき、公約も参考にしつつ、日本の対米政策をどう舵取りしていくべきかを考えていただければと思います。
小野耕平
参考資料
幻冬舎GOLD ONLINE 「2020年米大統領選挙~トランプ氏とバイデン氏の公約を比較する」
https://gentosha-go.com/articles/-/28715
BBC NEWS JAPAN 「【米大統領選2020】 再選目指すトランプ大統領、主要課題に対する姿勢は」
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53872092
BBC NEWS JAPAN 「【米大統領選2020】 挑戦者バイデン前副大統領、主要課題に対する姿勢は」
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53837858
YAHOO JAPAN ニュース 「マスク反対派が小売店で抗議デモ。店内を練り歩き「マスクを外せ!」と叫ぶ」
https://news.yahoo.co.jp/articles/547bba3fa0c818e089b49ab73d1ee3461adef8bf?page=1
THE WALL STREET JOURNAL. 「【社説】好調だったトランプ経済を思い出そう」
https://jp.wsj.com/articles/SB10261665479182534810004586592433833956082
JIJI.COM 「トランプ氏、雇用改善の実績強調へ 経済対策、綱渡り―米大統領選」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020090500378&g=int
HUFFPOST 「話題の「オバマケア」何が問題なのか?」
https://www.huffingtonpost.jp/mamoru-ichikawa/obama-care-the-problem_b_16462080.html
BBC NEWS JAPAN 「【米大統領選2020】 どういう仕組みかなるべく簡単に解説」
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53798070
BUSINESS INSIDER 「「アンチ・マスク」問題はなぜ起こるのか…大統領選挙でさらに深刻化する可能性」
https://www.businessinsider.jp/post-217942
BUSINESS INSIDER 「【米大統領選】2020年の民主党候補を目指す、バーニー・サンダースとは」
https://www.businessinsider.jp/post-192588
NHK 「社会保障 どうなる?「オバマケア」」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/presidential-election_2020/basic/issue-and-point/issue-and-point_07.html
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