「番茶と晩茶」定義を考察する(4/5) 晩茶の性質
晩茶の性質
晩茶は自産自消の茶
前回の考察で晩茶を「自産自消の茶」と定義した。晩茶は茶を自ら作り、自ら飲むという営みで、人と茶は長らくそうした関係にあった。
晩茶の構成要素
晩茶を構成するものは「人」「茶」「土地」である。晩茶は人の生命活動とともにあり、人から人へ伝えられてきた。その土地固有のテロワールがあり、歴史や産物との関連が深い。畦畔茶やヤマ茶などの身近な茶が利用され、四季を通じて作られている。
人と土地は「食文化」を形成し、人と茶による小規模な「製茶」は多様な味わいを生む。摘み取られる茶にはテロワールを反映した「固有風味」が備わっており、これらが三位一体となって「晩茶」がつくられる。
晩茶固有の風味
多くの晩茶は、田畑の畔や山に自生するヤマ茶を原料として使う。在来種の茶は株ごとに異なる香りと味わいを有しており、それらが混じり合って個性豊かな味わいを生み出す。化学的な農薬や肥料は使用せず、野草と共に自然な環境で育つため成長は緩やかで、摘採は年に一度のみ行われる。その土地固有の味「地味」が、晩茶の風味となる。
食文化との結びつき
お茶王国といわれる静岡には晩茶が残されていない。それは晩茶と食の結びつきがなかったからだといわれている。
手元に晩茶があるなら、ぜひ茶粥を作ってみてほしい。番茶やほうじ茶でつくる茶粥とは比較にならない美味しさがある。乳酸発酵の晩茶は塩味との相性が良い。
晩茶は人から人へ伝わる
晩茶は人から人へ、地域から地域へ製法が伝わってきた。人、地域、それぞれの嗜好に合わせて製法も少しずつ変化している。
現代の晩茶も変化の途上にある
四国の乳酸発酵茶も最近は酸味の少ないものが好まれるという。発酵期間を短くすることにより酸味の強さを変えることができる。
宍喰寒茶 石本アケミさんのこだわり
昨年、徳島県海陽町宍喰地区に寒茶生産者の石本アケミさんを訪ねた。石本さんは地域で作られる寒茶の素晴らしさを知って、寒茶生産に加わるようになった。寒茶を飲んでいれば風邪ひとつひかずに健康でいられるのだそうだ。宍喰寒茶の製法は以下通りだ。
1月中旬頃から2月上旬にかけて、寒茶を摘む。足助寒茶は枝ごと刈り取るが、ここでは葉を一枚一枚摘んでいる。葉を摘む時にプチッ、プチッと音がするのだという。この摘み方は阿波晩茶と同じだが、寒茶は葉が十分に生長しているので、より力が要る。摘んだ葉は蒸して殺青し、機械で揉捻する。これを木桶に詰め、重しをして一夜漬けしてから天日干しをする。この一夜漬けで味が全体に馴染むという。天日干しは初めにビニールハウス内で行われるが、最終的な乾燥工程は必ず露天だ。
宍喰地区から海部川を下って海に近い地域まで、以前は40軒の家々で寒茶を作っていたそうだ。現在の宍喰寒茶は家によって少しずつ異なる製法を石本さんが統一したものだ。宍喰寒茶の製法には石本さんのこだわりが詰まっている。
かつて徳島県の木沢村でも寒茶が作られていた。阿波晩茶同様、茶葉は煮て殺青され、揉捻後に数日間桶に漬け込んだという。冬なので乳酸菌の活動がなく、乳酸発酵はしない。宍喰と地理的に近く、殺青方法は違うが製法の一部が変化する形で伝搬した可能性もある。
晩茶は作り続けられる限り、常に変化する。そして変化することで生き残ってきた。連綿と続く人と茶の営みである。
次回は晩茶の継承について考察する。