第4回ニシオギ俳句部 2020.2.15_レポート
BREWBOOKS(@_brewbooks)さんでのイベント、第4回ニシオギ俳句部 2020.2.15に参加した。
前回に引き続き2回目の参加。
前回参加してみて、俳句は奥深いけれど、入り口としてはとても気軽に取り組めることを実感。
改めて、この機会に言葉を見つめ直すってやはり良いなぁと思った。
今回のテーマは「歌詞を引用する」。
引用するのは単語でもワンフレーズでもOKとのこと。
ただし、俳句なので季語は含ませる。歌詞の中に季語を含ませるのもアリだ。
今回は事前に句を作った上での参加スタイル。
私も何日か前からずっと俳句のことを考えていた。
まずは基本ということで、春の歳時記を購入。パラパラとめくってイメージを膨らませてみる。
※吟味…
次に歌の中からどのフレーズを引用するかを考える。
私はここで結構迷った。使いたいフレーズはあるけど、五七五にハマらなかったり、明らかに夏を想起させる単語だったり。
J-POPやヒップホップ、血迷って洋楽から引用しようかとも思った笑。
最終的には、自分が今まで好んで聴いてきた曲から選定することに。
歳時記を片手に、4句作成した。
普通、俳句は、情景を見て言葉を当てはめて作成していくと思う。
しかし今回は言葉を先に決めて、情景に落とし込む。
一般的な俳句の作り方とは逆の考え方なのではないか、これも今回の句会ならではの考え方かとも思った。
そして、当日。BREWBOOKSさんの2階のお座敷へ。
今回も部長や私を含めて6名の参加。
はじめに前回と同様、部長とMさんの作成したレジュメを読んで感想を言い合う。前日がバレンタインデーだったこともあり、テーマは「恋愛」。
直接に愛を詠んだ句もあれば、恋愛に関する言葉を用いずに恋愛を表しているように読める句も。
どれだけ言葉で想像させるか、俳句の妙であると思う。
私が好きだった句はこちら。
鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし / 三橋鷹女
ブランコ(鞦韆 しゅうせん)が前後に揺れる情景と、どちらの相手を選ぶか逡巡している様が表れているように感じる。
そこに「愛は奪ふべし」だ。そこまで言い切れるだけの覚悟が、この人物にはあるのだろう。
ただならぬ激烈な覚悟を感じたので、この句を選んだ。
このようにそれぞれ好きなポイントや気になる句を発表。
皆さんのコメントに、各々が感想や補足を入れたりする。それぞれの句の読みが深まると同時に、基礎的な知識も深まる。
それにしても、毎回皆さんの読みには感心しっぱなし。こんな読み方があるのか、こうとも読めるのか、とお話を聞くだけで勉強になりとても楽しい。
いよいよ本題。
事前に作った俳句を紙に書き一斉に見せ合う。
紙に書く瞬間は毎回緊張してしまう笑。
今回は机もよけてしまい、皆で車座になって観賞することに。
出揃った!
パッと見ただけでも個性豊かで面白い。
そして、今回は「歌詞を引用すること」がテーマであることを忘れてはいけない。「どのフレーズ、単語が歌詞の引用か」がとても気になるポイント。
皆口々に推理しながら、気に入った句を探していく。
ここで気付くが、俳句にしてしまうと意外と違和感なく読めてしまう。
ほとんどの句が、え?どこが歌詞?と思ってしまうほど、俳句の言葉として馴染んでいるのだ。
もっとわかりやすく歌詞の言葉に引きずられると思ったが、俳句として成立しているように思う。
日本語の汎用性や、風景の共有性などといった単語が浮かんできた。
そんなことを考えつつ、好きな句、気になる句について、ひとり2句ずつ発表していく。
感想を発表した後、句を作った本人が解説、そしてどの部分がどの曲の引用かを披露する。
さらに、解説中に引用元の曲をスピーカーで曲を流す。
これがかなり楽しい!
わかりやすく伝えるために、私が作成した句を発表してみる。
1.手鏡に静かなタンゴと朧月
2.いちご水うららかにのびる春光や
3.寒がりのパンクス春の闇歩く
4.春まけてふりこ細工の心かな
いかがでしょうか。
俳句として違和感なく読めてしまうと思えませんか?
下に解説と引用元の曲を記載するので、推理しながらスクロールしてみてください。
1.手鏡に静かなタンゴと朧月
[解説]
この句は、まず曲を聴きタンゴと朧月が風景として浮かんだ。その風景が水面に映っている様を思ったが、より幻想的にしたく手鏡に映した次第。「と」が字余りというご指摘も。
[引用元]
春にして君を想う/小沢健二
「静かなタンゴ」を歌詞から引用。
2.いちご水うららかにのびる春光や
[解説]
いちご水、少しピンクがかった水に、春のうららかな日差しが透けている光景。穏やかな春の午後を描写してみた。
[引用元]
いちご水/BLANKEY JET CITY
タイトルにもあるように「いちご水」を引用。(リンク先がありませんでした…。)
3.寒がりのパンクス春の闇歩く
[解説]
パンクロッカーは薄着に革ジャンという固定概念のもと、少し暖かくなった春の夜ならば、パンクロッカーもパンクロッカー然として悠々と歩くことができる。そんな情景を詠んでみた。
[引用元]
ジプシー・サンディー/THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
「寒がりのパンクス」を引用。
4.春まけてふりこ細工の心かな
[解説]
春まけて、は「春を待ちわびて」という意味。春を待ちわびる、ハラハラした気持ちと恋に惑わされるハラハラした気持ちを振り子に準えた句。
[引用元]
初恋/村下孝蔵
「ふりこ細工の心」が歌詞。
このように私は自分のアイデンティティを全面的に押し出して作成した。
ちょっと自分を出しすぎたかもしれない笑。
私以外の皆さんはこんな曲を引用していた。
・スネオヘアー「ピント」
・あいみょん「愛を伝えたいだとか」
・宇多田ヒカル「俺の彼女」
・ZAZEN BOYS「ZEGEN VS UNDERCOVER」
・井上陽水「傘がない」
・テレサ・テン「つぐない」
・くるり「ワールズエンド・スーパーノヴァ」
・小沢健二「今夜はブギー・バック」
・寺尾聡「ルビーの指輪」
・フジファブリック「銀河」
・椎名林檎と宇多田ヒカル「浪漫と算盤」
・tofubeats「水星」
など。
幅広い!
知っている曲、知らない曲があり、どのような気持ちで曲を選んだかが気になる。人口に膾炙している曲から引用するのは、エゴが見えにくいというコメントもあった。
最も多く感想に出たのは、
フレーズを引用しているにせよ、俳句の形式にしてしまえば大きな違和感がないとのこと。歌詞が俳句に埋没しているという意見も出た。
確かに注釈がなければ、普通の俳句として鑑賞できてしまう。
これほどまでに音楽から俳句への繋がりが自然にできてしまうと、何の引っ掛かりもなく読めてしまうのだ。
これは今回の句会での大きな発見。
ひとりが選んで発表、説明している時でも、みんな元ネタが気になっていたのは、きっとこの違和感の無さからだろう。
また、もうひとつの傾向として、
上の句、中の句、すなわち五七五の前半の「五七」部分を歌詞として引用する傾向があった。
どうしても印象に残るフレーズは七文字ほどを要してしまう。
五文字だと引用と言えるのか…という思いがあり、わかりやすい五七を使用してしまうのではないか。
この辺りも日本語の妙ではないか。
歌詞に使用するのと俳句に使用するのでは、全く印象が異なる言葉を使用する。
なんて日本語って面白いんだ!
ここで他の方の句を紹介。
ドゥルスタンタンスパンパンこゑの春に似て
この句は「ドゥルスタンタンスパンパン」という擬音を使いたいために詠んだ句。ちなみに曲はくるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」。
歌詞を大いに活用した例だ。
この句会は、このような試みも可能ほど自由な会である。
あとは、意外なことに、引用するフレーズに「季語」が入っていなかった。
それこそ冬の歌、春の歌を引用すれば、「雪」「桜」など、基本的な季語はカバーできるはずだが、不思議と「フレーズ+季語」という句がほとんどだった。季語が入るフレーズは普遍的すぎて選ばないのだろうか。
皆楽しく俳句を読み、引用元を推理する。
曲が流れると、これか〜!とそこで分かったり、分かった時の興奮だったり、非常に会話が弾み盛り上がった。
そして、次の企画は、「その場で曲を聴き、その場で俳句を作る」こと。
Spotifyで「日本のトップ50」からシャッフル再生し、はじめに出てきた曲のフレーズから俳句を作ることに。
ドキドキのシャッフルの結果、Mrs. GREEN APPLEの「青と夏」に決定。
季語は冬か春しばり。曲は青春真っ只中の真夏を彷彿とさせる曲。
これは結構難しいのではないか…。
皆さん、歌詞を調べながら俳句を考える。BGMはもちろん「青と夏」をエンドレスループ。
15分ほどかけて完成させる。
今回はひとりずつ句を書いた紙を回し、選句することに。時折笑い声が漏れ、なんだか楽しい雰囲気。
紙が回り終わったら、点が入った句を読み上げ、感想をもらう。
例えば、私の句。
立ちつくす友達の嘘東風が吹く
信用してた友人の嘘…立ちつくす以外にどうしようもないじゃないか!という切実な心情。歌詞は「友達の嘘」。ちょうど七文字、中の句にぴったり収まった。
中でもインパクトが大きかったOさんの句。
私には関係ないと芝を焼く
非常にユーモラス、かつ登場人物の暴力性を感じる句だ。
関係ないから、と言って芝を焼くのだ。アメリカの映画のひと場面のような情景が思い浮かぶ。
この句については、私は女性か男性か、関係ないから芝を焼くとはどういうことだろう?等と皆が思い思いの情景をお話ししていたのが印象的だった。
Oさんによれば、村上春樹からの着想もあったようだ。
(この句を読み解くヒントになるかも…!?)
実際に共通の曲を聴いて句を作ると、
皆が選ぶフレーズが似通ってくる傾向があった。
今回の『青と夏』では、「関係ない」というフレーズが人気だった。
中の句に「関係ない」と詠み込むと、上の句と下の句でまったくつながりのないことを詠むことができる。
俳句として完成させたときに、とても面白い表現となるのだ。
また、歌詞をどのように切り取るかについても議論が。
椎名林檎や宇多田ヒカルのように独自の歌詞からは、長いフレーズ単位で切り取りたくなる。
息継ぎをすることなく言い切れるフレーズが長いのだ。
しかし、『青と夏』では非常に明快で分かりやすい言葉を使用しているため、パーツとして切り取る傾向があった。
「転がされる」「関係ない」、長くても「友達の嘘」「映画じゃない」「平和じゃない」など。
聴いてきた音楽がまったく違っても、
共通の曲を聴いて生まれる俳句に共通性があるのは、非常に興味深い。
さらに、日本語を使って表現することの曖昧さや楽しさを実感した企画だった。
あ、最後に『青と夏』を聴いて作った句の中で、皆さんから多くコメントを頂いた句を載せておく。
この味は映画じゃないよ田楽さ
引用した歌詞は「映画じゃない」。
このように、普段は考えもつかないような句が生まれることもあるのだ。
今回の句会はこれにてお開き。
とても実験的な試みだと思ったが、私自身も楽しく、皆さんも楽しんで参加されていた。
次回の句会の構想も話しながら解散。
まだまだ様々な企画の可能性があると感じた日だった。
【感想】
考え始めは難しいと感じたが、作り始めるといつもの自分とは異なった作風になることに新鮮さを感じた。
皆さんが作った俳句から歌詞の引用元を「推理」したり、その場で俳句を作ったりと、普通の句会にはないゲーム性があったのが特徴だと思う。
このようなことができるのもこの句会だからこそ。
まだまだ本当の初心者だが、次回も楽しみたい。
次回についても、BREWBOOKSさんのHPやTwitterでご案内があると思うので、このレポートを読んで興味がある!と思ったら、お気軽に参加してみてください。実際に参加すると、より面白さを肌で感じられて刺激になると思います。
よろしくお願いします。