24/1/20 📚『へんな西洋絵画』
本書の概要
著者:山田 五郎
発行: 2018年
変な絵のはじまり
あえて変に書くようになったのは19世紀後半。写真技術の登場で、リアルに書くことの価値が下がり、印象主義や象徴主義などの絵画表現が模索されるようになった。その結果、20世紀はじめ、セザンヌやルソーなどの一風変わったている画家が逆に評価されるように。その後、ピカソやマティスがわざと変な絵を描くようになる。
「へん」だと感じるのは、価値観や宗教観の違いがあるからかもしれない。「へん」な絵を見ることは、異文化勉強につながる。
西洋絵画史と変な絵の流れ
・古代ギリシャ⋯ガチリアルな絵
・古代ローマ⋯さらにガチリアル。すでに遠近法や陰影法を用いる。
・ロマネスク⋯ヨーロッパに大移動してきたゲルマン民族が、古代ローマを真似しようとしたが、真似しきれず、のっぺりした変な感じに。ピュアさが魅力。
・ゴシック⋯ゴート族(ゲルマン民族)。青白い肌や髑髏ドクロ。
・ルネサンス⋯古代ギリシャと古代ローマのガチリアルさを復興。子供は可愛く描かない。
・北方ルネサンス⋯ルネサンスがドイツやオランダに波及。ゲルマン民族のゴシック風味とアンバランス。
・マニエリスム⋯ルネサンスの巨匠の手法を真似したが、極めようとして不思議な味に。
・バロック⋯宗教改革に抗うカトリックや、新興の絶対君主がスポンサー。権威を表そうとしすぎて変。
・ロココ⋯18世紀の宮廷文化を反映し、オシャレでチャラい。
・新古典主義⋯ルネサンスの巨匠ラファエロをお手本に、ガチリアル(保守派)
・ロマン主義⋯反古典主義で、19世紀の全共闘運動とも。現実を感情重視で荒々しく。
・素朴派⋯20世紀、絵を習ったことのない人の天然な絵が評価される。
・写実主義⋯現実をありのままに。分かりやすい演出をしない。
・印象主義・ポスト印象主義⋯遠近法と陰影法という、西洋絵画の伝統を捨て、絵の具のブロック状で表現。ポスト印象主義はさらに極めて、わざと変な絵を描くように。
・象徴主義⋯画風は古典的だが、象徴的なアイテムで目に見えない思想や感情を表現。
・表現主義⋯象徴主義の進化系。画風がもっと自由に。
・ナビ派⋯20世紀、あえて変な絵を描くように。日本美術の影響
可愛くない子供はなぜか
西洋の古典絵画のスポンサーの多くはキリスト教会であったため、描かれる子供はイエスであることが多い。よって、他の平凡な子供たちよりも威厳を出そうとした結果、可愛くない顔になりがちだった。
ロマネスクとは
ギリシャ・ローマで生まれた遠近法と陰影法は、西ローマ帝国の滅亡で途切れていたが、10世紀末、ヨーロッパを支配したゲルマン民族が復興を試みる。しかし、そっくりとはいかず、、題材は神話ではなくキリスト教。顔は無表情で、平面的。遠近法は無視して偉い人を大きく描く。キリスト教には偶像否定の考えがあるため、古典的でリアルな絵よりも都合がよかった。
西洋と動物
昔は、見たこともない動物を描くことがあった。海なし国が多いヨーロッパの人々は、特に海の生き物を書くのが苦手だった。16世紀には、世界の珍しい動植物を集めることがヨーロッパの王族貴族で大流行。そこで、ドイツのデューラーはこの流れを先取りした。デューラーはサイを一度も見たことがなかったが、インド国王の手紙とスケッチをもとに、想像だけでめちゃくちゃリアルに描いた。
小人
小さい人間が描かれていることが多くある。妖精や天使だけではない。これは、絵の注文者を小人として忍ばせるテクニック。
マニエリスム
16世紀のマニエリスムは、西洋のルネサンスの巨匠の手法を突き詰めようとした。しかし、真似した結果細かくなりすぎてしまい、「へん」な絵にもみえる。フランドル(ネーデルラント)も、ルネサンス以前から超精密。例えば「バベルの塔」は、超細かいけど実物60×75センチ。
マニエリスムを再評価したのは、20世紀のシュルレアリストたちだった。
セザンヌの魅力とは
セザンヌの魅力はわかりにくいが、「絵が下手で、不器用であること」。後のピカソに影響を与える。ルソーと違うところは、自分の下手さを自覚していたからこそ、自然を円錐や四角といった単純な形に分解して書く技を身に着けた。この逆転の発想、模倣ではなく再構築というところが、「近代絵画の父」といわれるゆえん。
西洋と自画像
画家が職人ではなく芸術家の自覚をもちはじめたルネサンス以降は、ユーモラスな自画像が生まれた。
所感
「変」、「細かすぎて同じ人間と思えない」、「この絵は本当にうまいのか」など、素人ながらに考えてしまう目線を入れながら、おもしろおかしく、かつ美術史の知識も混ぜながら解説している。また、さまざまな画風の作品があるため、好きな絵も見つけやすい。私はギュスターヴ・クルーべ「絶望する男(自画像)」、ピーテル・ブリューゲル(父)「バベルの塔」、ヤン・ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻の肖像」、アルブレヒト・アルトドルファー「アレクサンドロスの戦い」が印象に残った。フランドル絵画は、ここまで精密に書けるのか、と感動する。いつか生で見てみたい。