ドラマシナリオ8「水曜日のシンデレラ」②
■前回までのあらすじ■
作品テーマ(キーアイテム)は「時計」。吉澤健吾は課の業績達成に奮闘する営業部の課長代理。経理部の武藤は、吉澤の先輩で元営業部。会社帰りに武藤に誘われ、一杯付き合うことになった吉澤。同期の経理部、島田さおりも誘うが『用事がある』と断られる。吉澤と武藤が部署を立ち去った後、さおりは、あるNPOの口座に振り込みした後、慌ててどこかに向かうのだった。
■シナリオ本編■
◯居酒屋・ごきげん鶏・外観(夜)
『ごきんげん鶏』と筆文字で書かれた大きな赤い提灯が下がっている居酒屋。
◯同・店内(夜)
サラリーマンでごった返す店内。カウンターで赤ら顔の吉澤と武藤が、ビールジョッキ片手に焼き鳥を頬張っている。
武藤「いやぁ嬉しい! お前が課長代理なんてさ。新人の頃はどうなるかと思ってたんだぜ」
吉澤「何度も言いますけど、武藤先輩が営業やってた時に鍛えていただいたおかげですよ。ありがとうございます」
ガハハと笑ってビールを一気にあおる武藤。カウンター越しの店員にビールジョッキを振る。呆れ顔でジョッキを一口飲む吉澤。
武藤「ま、今はさ、外回りがないのがつまんねぇけど、お前の同期の島田さんが仕切ってくれて、ラクなもんだよ」
吉澤「あ、島ちゃんですか。俺なんかよりよっぽど優秀ですよ」
武藤「美人だしさ、特に時計、あれな。似合ってるよな」
吉澤「一度見たら忘れないですよね。あのアンティークな腕時計」
カウンター越しにビールジョッキを受け取る武藤。ドスンと座る。
武藤「それにしても、あんなの、どこで売ってんだろうな」
吉澤「『ボランティアで、お世話になった人からもらった』って言ってましたよ。なんでも職人さん手作りの一点物とか」
ニヤニヤ笑ってビールをあおる武藤。焼き鳥を頬張る。訝しげな吉澤。腕を組んでアゴをしごく。
武藤「ほんとに世話になった人なのか? いつも水曜は定時にあわてて帰るんだぜ? 違うかもしれんなぁ」
吉澤「え? そうなんですか? そういえば、今日も用事があるって……」
焼き鳥の串を弄ぶ吉澤。ニヤニヤ笑って吉澤の肩を叩く武藤。
武藤「本人に聞いてみろよ、お前同期だろ。デートかもしれないぜ」
吉澤「それ、完全にセクハラですよ」
苦笑する吉澤。ガタンと席を立って、フラフラと歩き始める武藤。ぼんやりと武藤の後ろ姿を眺める吉澤。武藤、店内のトイレ案内の看板に従って店の奥に消える。
座り直して、腕時計をチラリと見る吉澤。文字盤がシンプルなダイバーウォッチ。時刻は23時30分。
吉澤「やっとマシンガントークが一段落か……こりゃ、まだかかるなぁ」
ため息をついて、カウンターに置かれたジョッキを眺め、水滴をなぞる。
吉澤「デートか……島ちゃんなら、彼氏の一人や二人いても、おかしくないよなぁ」
腕組みしてアゴをしごきながら店内を見回す吉澤。
席を立ち、伝票を持ってレジに向かうサラリーマンの一団。空いたテーブル席を店員がダスターで拭いている。
腕組みしてアゴに手を当てたまま、居住まいを正し、黙り込む吉澤。武藤が歩み寄り、ドカリと席に座り、吉澤の肩に手を回す。
武藤「ヨッシィ、もう一軒行こうぜ。最近いい店見つけたんだ」
吉澤「え、まだ飲むんですかぁ?」
武藤「良いから良いから。どうせお前だって歩いて帰るだけだろ」
困惑した顔でヨロヨロと席を立つ吉澤と、上機嫌で勢いよく席を立つ武藤。
◯山王町駅前銀座・大通り(深夜)
にぎやかな歓楽街を弾むように歩く武藤。ふらつきながら後を追う吉澤。
『学究館』と書かれた立て看板が入り口にあるビルを曲がり、手招きする武藤。ヨタヨタと武藤を追う吉澤。
武藤「ここの塾を曲がって……あそこだ」
ベージュ色の雑居ビルを指を指す武藤。入り口にネオンがチカチカと点滅し、スーツ姿の女性の写真が印刷されている立看板。目を凝らして看板を眺める吉澤。
吉澤「え、『2F シンデレラ★オフィス』……って、キャバクラ行くんスか?」
武藤「そうそう。これがちょっと変わった店でな」
階段をリズミカルに登る武藤。立看板と武藤が入っていったビルの入り口を交互に見る吉澤。
◯シンデレラ★オフィス・店内(深夜)
薄暗い店内。入り口のドアが開き、慣れた様子で店内に入る武藤。入り口から覗き込むように中を伺い、武藤の後から恐る恐る中に入る吉澤。武藤に駆け寄るスーツ姿のボーイ。
ボーイ「いらっしゃいませ、お疲れ様でございます。お二人様ですね」
武藤「ああ。みきこちゃん、指名できる?」
満面の笑みでうなずくボーイ。満足げな武藤。キョロキョロと店内を見回す吉澤。
吉澤の視線の先に各テーブルで接客しているタイトなスーツ姿の女性達。
武藤の肩を叩いてテーブルを指差す吉澤。
吉澤「……女の子がみんなOLさんみたいなんですが」
武藤「そう。オフィスキャバクラっていうらしいぞ。変わっているだろ」
吉澤を振り返り、ニヤける武藤。ボーイ、店の奥に呼びかける。
ボーイ「2名様、お疲れさまでーす。ご指名のみきこちゃん、まゆこちゃん、お願いします」
店の奥からライトグレーのスーツ姿のみきこ(27)、パステルブルーのスーツ姿のまゆこ(25)が笑顔で吉澤と武藤に近付く。みきこ、武藤の腕を自分の腕に組んで店の奥に歩き出す。キョトンとする吉澤。ニコニコと笑っているまゆこに手を引っ張られる。
出口に向かう中年の男性客にぶつかりそうになり、よろける吉澤。
吉澤「あ、すんません……あれ、結構酔ってるなぁ」
吉澤を引っ張りながらバランスを取らせるまゆこ。男性客、吉澤を見向きもせず、後ろの女性に話しかけている。
男性客「るみ子ちゃん、また来るよ、来週もいるんでしょ?」
男性客の後ろに続くダークブラウンのスーツ姿のるみ子。吉澤、すれ違う男性客とるみ子ぼんやりとして眺める。男性客に頷きながら髪をかきあげる笑顔のるみ子。腕にはインディゴブルーに彩色された、八角形の文字盤のアンティーク風腕時計。時刻は12時。
吉澤「あ、あの時計……」
目を丸くする吉澤。るみ子の顔に視線を移す。右目に泣きぼくろ。
吉澤「え、島ちゃん……」
吉澤に振り向くかおり。表情が凍りつき、さっと顔を伏せる。
さおり「え……い、いらっしゃいませ……」
まゆこ「やだぁ、まゆことお席来てくれないと嫌ですぅ、こっちこっち」
まゆこに引っ張られる吉澤。さおり、吉澤に背を向けてそそくさと離れる。
吉澤「あの娘は……」
まゆこ「るみ子さんでぇす。でも、もうご指名はムリですよーっだ」
吉澤に舌を出すまゆこ。怪訝な表情でまゆこに振り向く吉澤。
まゆこ「るみ子さんは、お昼間も仕事してるから、夜の12時に帰っちゃうシンデレラなんですよぉ。ざーんねーん」
吉澤、ドヤ顔のまゆこに引きずられるように席に連れて行かれる。振り返って視線を泳がせる吉澤。
足早に店の奥に消えていくさおり。
武藤とみきこが陣取るテーブル席に強引に座らされる吉澤。まゆこに持たさせたグラスに酒をつがれながら、店の奥を呆然と眺める。
続く
この記事が参加している募集
基本的に全文見れますが、投げ銭と同じ扱いにしてありますので、作品や記事が気に入って頂ければ、ぜひサポートお願いいたします。