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ドラマシナリオ7「ミラーダンス」③(終)

■前回までのあらすじ■

作品テーマ(キーアイテム)は「」。ワーキングマザーの坂井文枝。息子の史人と通っているダンススクールの親子大会を今年は不参加のつもりだった。昨年の大会で手痛い失敗をしてしまったので、今年も史人に辛い思いをさたくないからだ。
しかし、勤務先の台湾支社に異動が決まり、最後の大会になると知った文枝は参加することに決めた。史人も文枝のために練習に励む。そして、大会の日が近づいてくるのだった……

■シナリオ本編■

◯坂井家・キッチン(朝)

スーツにエプロン姿の文枝。前には弁当箱が黄色と黒の2つの弁当箱があり、おかずと白米が詰まっている。皿にはブロッコリーが湯気を立てて乗っている。隣にはタブレットが立てかけられており、画面には並んで踊っている文枝と美佳子の動画。画面に見入ったまま、ブロッコリーをつまんだ手が、弁当箱の上で止まっている。ネクタイを締めながら歩み寄る坂井。

坂井「おーい、弁当出来た?」

ハッとして坂井に振り向いて、弁当箱にブロッコリーを詰める文枝。

◯ガゼルダンススクール・小スタジオ(夜)

鏡のあるスタジオ。アップテンポの音楽が流れている。スタジオに貼られているポスターの上に『大会まであと一ヶ月!!』と手書き文字のコピー用紙が貼られている。
Tシャツ短パン姿の文枝と美佳子が汗を弾かせ踊っている。余裕の美佳子と眉間にシワを寄せて真剣な表情の文枝。音楽が終わる。
決めポーズをする文枝と美佳子。荒い息の文枝。

美佳子「……ハイ、おしまいです」

大きく息をして中腰になる文枝。スタジオの隅にあるラジカセが載った棚に歩み寄る美佳子。文枝を振り返る。

美佳子「全体パートは、ね」

黙ったまま顔を上げてうなずく文枝。心配そうに文枝を見つめる美佳子。

美佳子「これから個別パート練習になりますが……少し、休みますか?」

スタジオの壁掛け時計を見上げて首を振る文枝。時刻は21時半。

文枝「いや、お願いします。大会まであんまり時間もないし」

息を整えながらゆっくりと屈伸をし始める文枝。

文枝「『子は親の鏡』ですし、その逆もあると思うんです」

美佳子、文枝に向き直る。膝に手をついてぐるぐると回す文枝。

文枝「私がここで頑張んなきゃ、きっと史人だって怠けちゃう。もうあの子に去年みたいな思いをさせたくないんです」

両手で両頬をパンパンと叩いて、強く短く息を吐く文枝。プッと吹き出す美佳子。首を傾げる文枝。

文枝「ミカ先生?」

美佳子「すみません、ほんと『鏡』ですよね。似てるなぁ、親子って」

しげしげと鏡に写った姿を見つめる美佳子。鏡越しに文枝を見て、振り返る。

美佳子「ガッツのある態度もそうだし、ほっぺたを叩いて気合を入れるのもそっくりです。……あと、頑張りすぎちゃうのもね」

ニヤっと笑いながら深呼吸する文枝。鏡に向き直って姿を見つめながら体を動かし始める美佳子。

文枝「ミカ先生? なんか私、まずい動きしてました?」

美佳子「お母さん、今更で申し訳ないんですが、振り付け変えませんか」

文枝「はあ……え、えぇぇぇぇっ!!!」

ニッコリ笑って胸の前で手を合わせる美佳子。驚いて固まる文枝に近付く。

美佳子「あのですね、私『鏡』ってことで思いついちゃいました。ちょっと個別パートを踊ってもらえますか。はい、ワン、ツー」

不思議そうな顔で踊りだす文枝。隣で踊りだす美佳子。

美佳子「今は、こうして並んで踊るんですよね、史人くんと」

踊りながら頷く文枝。踊りながら文枝の前に移動する美佳子。文枝の前で鏡写しに踊る。目を丸くする文枝。片手を上げて動きを止める美佳子。遅れて動きを止める文枝。

美佳子「これを今の私みたいに左右を逆にしましょう」

文枝「振り付け的な『子は親の鏡』ですか」

美佳子「はい。もっとパントマイムみたいな動きを追加して、史人くんと鏡写しみたいな振り付けにしましょうよ」

文枝「史人は何か言ってます?」

美佳子「『ママが決めることだがら、僕は何も言えません』って言ってましたよ」

文枝「そうですか……じゃあ、やってみましょうか」

美佳子「そうこなくちゃ。史人くん、そう言う割には静かにヤル気になってましたよ」

苦笑して、鏡に写った自分の姿を見つめる文枝。

文枝「やだぁ、それじゃ、そもそも拒否出来ないじゃないですか……でも」

美佳子「でも?」

ぎこちなく踊りだす文枝。

文枝「史人が言ってました……『ミカ先生はこの人なら出来ると思わないと振り付けを変えない』って……先生、お願いします」

美佳子、うなずいて踊りだす。文枝、遅れながらも踊りだす。

終わり

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