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ドラマシナリオ6「みやびのジャンプ」②

■前回までのあらすじ■

作品テーマ(キーアイテム)は「写真」。ダンスが好きな高校2年・石橋みやびの兄・石橋晴人は、ごく普通の営業マンだがセミプロの写真家。
時々、みやびもモデルとして作品に参加しており、新しく駅に貼り出された学究館という塾の広告に、みやびが写った写真が使われていた。そんな中、石橋は友人である学究館の塾長、高田から呼び出されたのだった……

■シナリオ本編■

◯三好町・学究館前駐車場

白が基調とした建物で屋根や壁にチョコレート色でアクセントが入っている。入り口は「学習塾 学究館」と書かれた看板が掲げられている。
建物の前に雑然と並んでいる自転車を、高田真司(27)が一台ずつ丁寧に並べ直している。シルバーのライトバンが建物の前に停車。車体の横に『カーペットなら英和美創』と丸文字で書いてある。パワーウインドウが開き、石橋が身を乗り出す。

石橋「真司、待たせたな。……へぇ、やり手の二代目塾長が自転車並べか。精が出るな」

高田「よせよ。ウチみたいな小さな塾は、講師も経営者も関係ないよ」

ライトバンから降りて高田に歩み寄る石橋。ガシャガシャと手慣れた様子で手際よく並べ直す高田。

高田「こうしたことは手の空いた人間がこまめにやらないとな。ご近所もあることだしさ」

手持ちのカバンを脇に手挟んで高田といっしょに自転車を並べ直す石橋。

石橋「昼間なのに、こんなに来るのか。学生は学校だろ」

高田「親父がシニア向けのコースを開講したんだよ。『会社をリタイアしてから勉強し直したいって人がいるはずだ』って言って。俺も半信半疑だったけど、やってみたら……このとおり」

石橋「さすがのビジネスセンスだな。不登校クラスを始めたのも親父さんが最初だもんな」

高田「第一期の生徒がみやびちゃん達だっけ……4年くらい前か」

自転車が一通りキチンと並べられる。頷いた高田、石橋を促して建物に入る。

◯清颯高校・本校舎屋上

同じ色のジャージを着たみやび、梅本さくら(17)、数人の女子生徒。
スマホを見ながらステップを踏んでいるみやび。みやび以外は座り込んで、ドリンクを飲んでいる。呆れ顔でみやびを眺めるさくら

さくら「あー疲れた……しっかし、あんた頑張るねぇ」

みやび「ステップが何となく、うまく音楽と合わなくて……こうかなぁ」

スマホからアップテンポの曲が流れ出す。ジャージの袖をまくり、ステップを刻み始めるみやび。

高田の声「いい写真、ありがとうな。さっそく入塾の問い合わせが来ているよ。晴人に頼んで良かったよ」

石橋の声「そりゃ真司の頼みなんだから、断るわけにはいかないさ」

次第にキレのある動きになり、集中した表情でステップを刻み、なめらかに上半身を波打たせるように踊るみやび。

石橋の声「真司や親父さんのおかげで、みやびも好きなダンスと勉強を両立できてるし。この間の中間テストも上位に食い込んだって言ってたよ」

高田の声「俺たちは大したことしてない。みやびちゃんの真面目で努力家っていう素質だよ」

激しく艶めかしい動きになるみやび。陶酔した表情で踊り続ける。

石橋の声「そうか……。それにしても、アイツが昔、不登校だったなんて、今は誰も思わんだろうな」

みやび、音楽の終わりと同時にポーズを決めて笑顔になる。さくらの横にヨタヨタと歩みより、ペタリと座り込み、腕で汗を拭って、さくらに笑いかける。荒い息。

みやび「(息切れしながら)何か掴めてきた。このまま行けば来月の体育祭には仕上がりそう」

呆れ顔で飲み物を飲むさくら。ハッとして肘でみやびをつつく。

さくら「あ、そういや、駅の広告!   モデルデビューじゃん。赤いブレザー、かわいいよね」

照れ笑いするみやび。タオルを顔にうずめる。

みやび「うちのお兄ちゃん、昔から写真撮るの好きでさ、時々モデルやってあげてんだ。あのブレザー、制服ショップにいっしょに買いに行ったの」

ギョッとしてみやびを見るさくら。何事もなかったかのように前を向いて座り直す。顔を上げてタオルを弄ぶみやび。嬉しそうに笑いながら空を見上げて深く呼吸する。

◯学究館・個別相談室・外

『個別相談室』と書かれたドア。

◯同・個別相談室・中

長机に向かい合って座る石橋と高田。長机には『見積書』『英和美創 製品カタログ』『新規教室 レイアウト案』といった書類が並ぶ。高田が書類を並べて見比べ、背もたれに寄りかかりながら腕組みして背後に貼ってあるポスターをしげしげと眺める。柔らかい日差しの中を弾むように歩くみやびの写真が配置されている。石橋もしげしげとポスターを眺める。

高田「みやびちゃんに初めて会った時は、正直、ウチのポスターになるなんて思わなかったよ」

石橋「真司、ありがとうな。あの時、俺はみやびのそばにいてやれなかったから……不登校って母さんから聞いて、心配したけど」

苦笑して首を振る高田。

高田「そりゃ、晴人は転勤で、違う場所で仕事してたんだから仕方ないだろ。あの時は、俺も親父からここに呼び戻されてばかりで、ヒマこいてたし」

石橋「まあ、勉強だけじゃなくて、アイツの面倒いろいろ見てくれたのは真司、お前であることには変わらないよ。……で、どうよ、見積は」

おどける高田。呆れる石橋。

◯清颯高校・校門(夕)

校門に『清颯高等学校』と書かれた青銅製の板がはめ込まれた門。
スポーツバッグを抱えて、ネイビーのブレザーを着た制服姿のみやびが楽しげにさくらと歩く。

さくら「ねぇ……さっきの制服ショップって、みやびみたいな娘が行っても平気なの?」

みやび「別になんとも言われなかったよ、お兄ちゃんと一緒だし」

さくら「じゃあ、行ってみよっかな……あ、今度の日曜ってどう?」

みやび「日曜かぁ……恵子先生のレッスンのお手伝いがあったなぁ」

さくら「えー? いっしょに行ってよ……独りはちょっと怖い」

みやび「普通に服を売っているお店だけど……それ以外の時間なら」

口を尖らせて何かを言いかけるさくら。スマホの着信音。ブレザーのポケットからスマホを取り出すみやび。顔が曇る。怪訝な表情のさくら。
スマホの画面には『晴人兄ちゃん』とタイトルされたメッセージ画面。『急ですまない。今度の日曜、真司の塾のポスター写真の撮影、頼む。みやびをご指名』の文章の下に土下座をするカエルのスタンプ。
大きくため息をついて、スマホを眺めるみやび。

続く

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