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ドラマシナリオ5「お父さんといっしょ」②

■前回までのあらすじ■

作品のテーマ(キーアイテム)は「帽子」。小学校の時に父を亡くした神田瑞恵。瑞恵は毎年、父の命日に、父の衣服を着て思い出の場所を巡る「お父さん巡り」している。いつも独りで巡っていた瑞恵だが、9回目の今年は幼馴染の真橋彰と一緒に巡ることとなった……

■シナリオ本編■

◯山王町駅・ホーム(朝)

ホームのベンチに座る瑞恵と彰。足を伸ばしてチョコンと座る瑞恵と背筋をピシリと伸ばして座る彰。瑞恵、彰を見て笑う。不思議そうに瑞恵を見る彰。

瑞恵「アキくん、別にそんな緊張しなくていいんだよ」

彰「なんか、ミィちゃんのおじさんに見られているような気がしてさ」

瑞恵「んなわけないじゃん……」

呆れた様子で立ち上がる瑞恵。腰の帽子をゆっくり撫でる。

瑞恵「(小さな声で)どう思う?  お父さん……アキくんあんなだよ」

ホームに滑り込む電車。ようやく立ち上がる彰。

◯電車内(朝)

人がまばらな車内。ゆっくりと動き出す電車。瑞恵と彰が連れ立って空いている座席に歩み寄る。座る直前にカラビナから帽子を取り外し、彰に笑いかけながらかぶる瑞恵。彰、はにかみながら腕を組んで座る。
瑞恵と彰の前に座る対面の座席に、保育園児らしき女の子を真ん中に父親と母親の家族連れが座っている。
帽子を目深にかぶり、うつむく瑞恵。顔を覗き込む彰。

瑞恵「アキくん、バイト、何時からだっけ」

彰「え? 夕方5時だったかな。今日はちょっと早いんだ」

瑞恵「そっか。じゃあ、早めに回らないといけないね……」

ゴソゴソとリュックから地図を取り出す瑞恵。地図を覗き込む彰。しげしげと眺める。

彰「『お父さん巡りマップ』か。随分いろいろ行くんだね」

瑞恵「ごめんね、付き合わせちゃって」

彰「いいんだ。ちゃんと就職して働いてるミィちゃんに比べたら、大学生の俺なんて……」

地図を広げて一点を指す瑞恵。『武田海浜公園』と書かれた場所の赤丸を指でなぞる。

瑞恵「最初はね、私も小さかったから、お母さんと武田海浜公園にいくだけだったんだけど……いつの間にか、増えちゃった」

うつむきながら笑う瑞恵。腕組みしながら黙ってうなづく彰。

◯墓地

墓石が立ち並び、ところどころでお線香の煙が立ち上っている墓地。
『神田家之墓』と彫られた墓石の前。帽子を脱いでいる瑞恵、屈んでお線香を置き、手を合わせる。瑞恵の後ろに立つ彰も同じタイミングで合掌。
立ち上がり彰に振り返る瑞恵。腰の帽子が静かに揺れる。

◯レストラン・アルタイル・外

白を基調とした小綺麗な外壁のレストラン。古ぼけた木の看板に『アルタイル』と書かれている。地図を見ながら木の看板を指差しながら早足になる瑞恵。店を眺めながら歩く彰。

◯同・店内

清潔で落ち着いたトーンの店内。二人がけのテーブルに座る瑞恵と彰。
それぞれの前に、透き通るような白い陶器の皿にもられたナポリタン。
ガツガツと食べる彰。ゆっくりと味わいながら食べる瑞恵。

◯マンション オウルハイム・外

並んで歩く瑞恵と彰。地図を指差して真新しい小さなマンションを指差す。
瑞恵、写真を取り出し、彰に見せる。写真とマンションを見比べる彰。
写真には古びたアパートと巨木を背に並んで写っている瑞恵(10)と聡(34)。瑞恵、マンションの前に生えている巨木を指差す。

瑞恵「ここ、みんなで住んでたの。アパートは少し前に建て替えちゃったけど、この木は大家のおばちゃんがどうしても残すっていって、残っているんだよ。ほら」

彰「あれか……ホントだ。そうだ、あの木、よくミィちゃんと登ってたな」

瑞恵「そうそう。覚えててくれたんだ」

彰「あの時、ジタバタしてた俺を見かねて、おじさんが登らせてくれたっけな……軽々と抱っこされた時、驚いたよ」

腕組みして巨木を眺める彰。スマホを見て慌てる瑞恵。

瑞恵「あ、アキくん、時間が……ちょっと急がないと。武田海浜公園に行こう」

早足で立ち去る瑞恵、つられて小走りになる彰。

◯武田海浜公園・入り口

岩に『武田海浜公園』と彫られた岩。
岩の横を弾むように通り過ぎる瑞恵。カラビナに括られた帽子が歩調に合わせて弾む。瑞恵の後ろで腕を組んでスタスタと歩く彰。

◯同・芝生広場

なだらかな丘を中心に広場いっぱいに芝生が広がっている。家族連れやカップルがそれぞれレジャーシートを広げ、秋晴れの休日を満喫している。
胸を広げるように空気を吸い込み、周囲を見渡す瑞恵。柔らかい笑顔で瑞恵を見つめながら歩く彰。

瑞恵「お父さん、今年も来たよー」

歩きながら帽子をかぶり、ブルゾンの腕と胸の部分をさする。
彰、周囲を見渡す。空いているベンチ。瑞恵を促し腰掛ける。座った瑞恵、リュックから駅の売店の袋に入ったミルクコーヒーを2本取り出す。彰、自分を指差す。瑞恵、笑いながら首を振って帽子を脱ぎ、1本ベンチにそっと置いて、その上に帽子をかぶせる。納得したように頷く彰。

瑞恵「さっきみたいに、お墓に行くのも大事なんだけど……」

彰を見て、柔和な顔で帽子にほほえみかける瑞恵。

瑞恵「毎年、この頃にここに来て、これを飲まないとさ……」

手に持ったペットボトルを開栓して一口飲む瑞恵。

瑞恵「お父さんが本当に離れちゃいそうな気がしてね……」

空を見上げながら大きく伸びをする瑞恵。膝に手をおいて、空を見上げる彰。
うろこ雲が広がる青空。

瑞恵「今日はいいお天気にしてくれてありがとう、お父さん。仕事はまだ慣れないけど、頑張っているよ。お給料日はお母さんと焼肉食べるんだよ、時々」

空を見上げ続ける瑞恵。頬に涙が伝う。ペットボトルの帽子は動かないまま。

瑞恵「本当は、お父さんとみんなで食べたかった。仕事とかの話、聞いてほしかった……どうして、どうして、お母さんと私を置いて逝っちゃったのよ……『こんな病気、すぐ治る』って言ってたじゃない……」

瑞恵、涙を拭かずに空を見続ける。彰も見上げたままで黙っている。

瑞恵「会いたいよ、お父さん。もう一回だけでもいい、ここで大好きだったコーヒー、一緒に飲みたかったよ……」

空を見上げ続ける瑞恵の足元にボールが弾んで来て、膝にぶつかる。驚いて足元を見る瑞恵。

続く

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