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エッセイ

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エッセイという日々の気持ち。
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2022年1月の記事一覧

【エッセイ】20%だけ残っている記憶

 忘れたわけではありません。きっと元からそんなもの無かったんだと思います。きっとそうです。  誰しも覚えていない記憶があります。昨日の晩御飯も思い出せないことがあるのですから。  あの時きみが言った言葉だとか、別れ際にした彼の表情だとか、旅先で出会った団子屋の彼女だとか。  幼いころの記憶なんて、もう欠片も思い出せません。  それはまるで夢のように、徐々に徐々に薄れていくものなのですから。記憶なんてそういうもの。  だから、私がそれを忘れてしまったとしても、何の問題もな

【エッセイ】あっ、つぶしちゃった。

「続いてのニュースです。先日専門家によって公表された世界滅亡について、新たな情報が入ってきました」────。  世界滅亡のニュースって、 「世界が滅亡します」  なのか、 「世界が滅亡しました」  なのか、どちらが報道されるのかなあ、なんてことを考えています。  世界が滅亡したのにどうして滅亡のニュースが流れるのかな、と考えたときに、もしかしたら別の世界線が滅亡しましたっていうニュースなら納得できるなあ、なんて思いました。  いわゆる並行世界。存在するのかしないのか分か

【エッセイ】好きな歌があります

 誰しもがきっと心のうちに抱いている想いを、その歌は唄っていました。  悲しくはありません、ただ、少しだけ、ほんの少しだけ。  今日もどこかで心臓が脈を打ち始め、どこかのだれかの心臓が止まっています。いつか私にもそんな日が来るのかと思うよりも先に、隣に座るだれかが止まってしまうことが怖くて、涙を流す日が多くあります。  だれかのお葬式に行ったことがあります。  棺で眠るその人は真っ白で、ただのそれになっているだけでした。人が花を詰め、肌に触れて涙を流しているのを見ている中

【エッセイ】もう月が綺麗ですよ

 1月の月は「地球から最も遠い月」と言われていますが、  それに向かって「綺麗だね」と言えば、私の思いは最大限届かずに済むのでしょうか。  満月の夜は月を眺めているのですが、今夜はどんよりと、しかしほんのり明るい雲が空を覆っているため、それを見ることはできません。雪が降る前の空気は肌を刺すようで、長く居れば温まった体も芯から冷えてしまいます。じわじわと温もりを奪われる感覚は、ただ単に寒さで凍えているよりも、心地よいと感じてしまいます。  冬の夜空は高いことを記憶しています