映画「からかい上手の高木さん」感想

 実写版映画『からかい上手の高木さん』を観た。今泉力哉監督が、実写版をテレビシリーズ、映画共に手掛けるということで、楽しみにしていた。しかし、テレビシリーズは観たのだけれど映画館に観に行く勇気は(いろいろと理由もあって)出ず、半年以上経ってからようやく観た。テレビシリーズは映像も美しかったし、高木さん役の月島琉衣と西片役の黒川想矢もとても上手で、原作やアニメの雰囲気を壊すことなく、その点ではよかったのだが、どうしてもテレビ版の最終回から映画への繋がりがいまひとつピンと来なかったことも、映画館まで足を運ばなかった理由の一つだ。

脚本にも関わる今泉監督は大きな変化を入れてきた。中学3年生で高木さんは父親の海外赴任のため、転校してしまうのである。これにはびっくりしたし、ずっと西片と高木さんは一緒だったという流れを思いきり断ち切る高木さんの転校、というドラマのラストには、今回映画を観るまではどうにも釈然としない気持ちを抱いてしまっていた。しかし、映画を観て結構納得したので、感想を書いてみたいと思ったのである。

 『からかい上手の高木さん』は純愛の話、だと思う。原作の最初は必ずしもそのような構想ではなかったのかもしれないが、2人が結婚したということはかなり早い段階で描かれているし、その流れを受け2人が結婚した将来を描いた『からかい上手の元高木さん』、そしてアニメでの展開を経て、原作も純愛の話として結末を迎えた。中学生の時に付き合い始めた2人が、10年近く付き合い結婚し、子どもも誕生し仲良く暮らしていく。

 しかし、今泉監督は全く同じようにはしなかった。結婚直前の話は、原作でもアニメでもほとんど描かれていないので、どのように描いてもよく、自由度も高いとは思うが、それなりに人気のあった原作とアニメを変えてしまうよりは、大筋は一緒にして結婚前の2人に起こる日々の出来事を葛藤も含めて繊細に描くことだって今泉監督には当然できたはずだが、そうはしなかった。でもかえって10年間会わずにいた時間を、観ている私たちに感じさせることで、その10年間でずっと育て続けてきた高木さんの思いと、高木さんへの思いを自覚できないままだが結局は誰のことも好きにならずに来た西片が結ばれる、最後の長回しの告白シーンが感動的なものになったのだと思う。ちなみに、私は今泉監督の『街の上で』の20分近い長回しのシーンを観て圧倒され、今泉監督の大ファンになったので、今回も最後の最後に出てきたあのシーンにはどきどきした。初めて2人が自分の気持ちに正直に語り合う緊張感が伝わってきた。号泣しないで目を潤ませるだけだった永野芽郁も、とても高木さんだった。

 主題歌について気が付いたことがある。テレビシリーズも映画も主題歌は同じであった。Aimerの「遥か」である。同じとは珍しいな、と思った。

 ドラマのエンディングで流れた時に、最初はいい雰囲気の曲だな、と思ったのだが、よくよく歌詞を聴いてみると、違和感が残った。1番の最後「君まで届くなんてさ ありえないような」と、最後「君から届くなんてさ ありえないような」というところが、さびしく聴こえたのである。これはさびしい歌なのか?転校していく高木さんに西片の気持ちが届かない、という歌なのか?と思ったのだが、何か腑に落ちないし、映画でも主題歌として使われるとなると、ますますちょっと分からなかった。

 でも映画を観て、しかも2度観て、ようやく分かった気がした。この曲は、10年ぶりに西片と島で再会して海に行ったところから、花火大会で二人で花火を観ているところまでの(夜空に舞い上がる 幾千の花びら)、高木さんの気持ちを歌ったものなのだと思ったのである。花火を2人で見ている時までの高木さんは、10年間あたためてきた自分の西片への思いを再確認はしたものの、西片の様子を見て困らせてしまうから告白はしない、と決めていたのだと思う。しかし、実習最後の日に「ありえない」と思っていたことが起こる。西片から思いが「届く」のである。そう考えるとラストのシーンは、本当にかけがえのない瞬間を描いたシーンなのだと感じた。

 というわけで、実写版の映画を観ることができてとてもよかったです。それにしても、映画の中で西片は誰とも付き合わなかった、というようなことを本人に言わせていましたが、高木さんはどうだったのでしょうね。はっきりと付き合ったことがないと言うシーンはなかったですよね。そうすると想像が膨らみます。高木さんがわざわざ教育実習という形で島に戻ってきたのには、絵を描くことについてもう一度考える、という理由のほかにも、やはり西片への気持ちや西片の気持ちを確認する、という意味もあったのではないでしょうか。そこにはもしかすると東京で何らかの出会いがあり、自分もその相手との関係をどうするかはっきりとさせなければならなくなった、ということだったりして・・・。なんて、最後は妄想を膨らませて終わることにします。

読んでくださりありがとうございました。

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