死ぬ準備してますか
してません。たまに歩いてるときとか、ふっと死ぬのが恐くなるときがあって、そうすると死んだらどうなるんだろう、そもそもなんでいま生きてるんだろうと感じてフリーズしてしまうことがある。その場で固まり。ああいうのなぜ起こるのでしょうね。
†キューブラー・ロス『死ぬ瞬間』鈴木晶訳
著者は有名な医師で、この本は死生学や看護学の分野ではビッグタイトルの古典となっている。
著者が唱えた学説のなかでも一番有名なのが「死の五段階説」で、人間は死の自覚から死ぬ間際までに、否認、怒り、取り引き、抑うつ、受容の五段階を踏んでいくというもの。『死ぬ瞬間』はこの五段階について、それがどういうものなのかそれぞれ患者へのインタビューを交えて解説している。
この患者へのインタビューがあるのがポイントで、死に瀕した患者さんの生の声が収録された貴重な記述となっている。患者さんの経歴や職業も本当にばらばらで、それを著者が聞きながら生きる価値というものが現れてくるような本になっている。患者さんの語りを聞いていると、本当に人の人生は違うルートを歩むものなのだなと実感する。
死生学は、人の死生観や死の間際の感情を掘り起こすことで、いままだ生きていることの意味や価値をどう考えるのか、どう見直すかをひとつの意義としている。『死ぬ瞬間』は、これを読むと死への準備ができますとかそういう本ではないけれど、少なくとも死に向かって生きる上で、冷静に自分の生きる価値を見つめ直していけるきっかけを与えられるような本になっている。さらにそこから、他人もまた死んでゆく存在であり、彼らの人生とどう向き合えばよいのか、一人一人の人生をどう肯定できるか、ということを考えることができる。死生学はその肯定をどう考えるか、がやはりひとつの大きなポイントになっているのだとおもう。
死ぬのはいまだ恐いけど、そのうちどうでもよくなるかもしれないし、ならないかもしれない。でもその前に、人と生きることの意味を考えたいとおもう。なんにせよ死ぬ時にもう一度読み返したい本である。そのとき何をおもうか。