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『あの花を探して』 小さなエッセイ


「桜の木に沿って、ずっとその道を奥までいけば、白いたんぽぽはたくさん咲いていますよ」
先生が私にそう話したのは、つい数日前のことであった。

そして今、私はその道に立っている。
気持ちのよい四月の昼下がり、空の水色と頬にそよぐ風が心地よかった。

目の前には桜の木が立ち並んでいる。
花盛りの時期は過ぎ去り、いつの間にか生命の泉のような葉桜に変わっていた。

ゆっくりゆっくり歩を進めていくと、確かにその道はたんぽぽで溢れていた。
先生が「山吹色」と呼ぶ黄色いたんぽぽたちは、緑の中で生き生きと太陽のように輝いていた。

でも、白いたんぽぽは見つからない。
どんなに目を凝らしても、あたりは黄色と緑の二色でいっぱいなのだ。
遠くに見える花の輪郭は、ただただ霞む一方で、目の悪い自分が悲しく思われた。



帰ろうか、と思ったその時だった。
足元になんとも可愛らしい白い姿があったのだ。

花言葉は「私を探して」。


細い茎を精一杯伸ばし、「こんにちは」とでも言いたそうな小さな花。
なんていじらしいのだろう。
思わず腰を下ろし、その茎をそっと撫でた。
久しぶりの柔らかい茎の感触に、ふっと気持ちが和らぐのを感じた。

「待っていてくれてありがとう」
その言葉にこくんと頷くかのように、白い花は風に揺られて私の背中を見送った……

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