6-1 ファクトを整理する① 課題ヒアリングと分析 前編 #ソフトウェアと経営
ソフトウェアと経営マガジン第75回です。組織改革に取り組むにはまず正しい現状認識から、ということで今回と次回は課題のヒアリングと整理についての考え方を書いていこうと思います。前編では、まずヒアリングを重ねようということで、どのようにして課題をかき集めるか、それによって生み出すべきアウトプットとはなにか書いていこうと思います。
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前回の記事はこちら。
課題ヒアリングと分析
改革の第一歩は自分自身の組織を正しく知ることだ。自身の組織を知る上では①課題②KPI構造③人を私は重視している。その上でまず知るべきは自身の組織の課題構造である。課題は点ではなく線、構造的なものであるという前提に立って、まずはこれらを収集・整理してみよう。
課題ヒアリングで求めるアウトプット
課題収集のフェーズで求められるアウトプットは、組織内に存在する課題リスト、および課題と課題の間にある依存関係、そして課題のスコアリングだ。
課題リストについては読んで字の如しではあるが、社内に存在する自分がヒアリングした限りの課題の網羅的リストだ。どのような課題であり、その課題には誰が関係しているのか、その課題を各当事者はどのように捉えているのか、といった情報が整理されているとよい。
それらの課題のリストには、課題同士の依存関係が潜んでいる。課題Aを解決するには先に課題Bを解決する必要がある、と言った関係性を整理した二次元的な図を用意することで課題の全容が見えてくる。
その上で課題のスコアリングも用意する。このスコアリングも一つのスコアで整理できることは少ないと思っており、少なくとも二次元的な表現で課題のスコアを表現している。例えば課題のインパクトや緊急性、解決に向けての不確実性、自分の解像度の高さなどでスコアを整理し、どの課題が最も重要か把握できるフォーマットで課題のスコアを可視化する。
私はこれらのアウトプットを全て物理的ないしデジタルなホワイトボードと付箋紙で整理している。貼ったり剥がしたりを繰り返しながら整理し、また新たな情報を得るに従いさらにアップデートを繰り返している。
これらのアウトプットを用意することで、どの課題から優先して着手するべきか、解決によって得られるアウトカムはなにかといった戦略構築につなげる事ができる。正しい課題が見えれば50%ほどは解決したと言っても言い過ぎではない。正しいゴール設定の第一歩として課題ヒアリングを丁寧に行おう。
課題を集める
課題を整理するにはもちろん第一段階として集める必要がある。課題の収集には兎にも角にもヒアリングである。課題には粒度があり、経営者が把握しているもの、現場が把握しているものなど様々である。その全容は、組織が大きくなればなるほど当然ながら把握が難しく、課題を抽出することに集中して取り組まねばその内容を構造化して理解することは難しいだろう。だからこそ、徹底したヒアリングに寄って社内の全容を知ろうということが大切である。
私が過去、DMM社の改革に着手した際、入社前から入社後数週間はひたすら聞く側に徹していた。数千人規模の組織におけるその課題は、それだけ丁寧なヒアリング期間を設けなければ全容が見えてこない。考えてみてほしい。一回のヒアリング時間を1時間とした時、どんなに頑張っても実施回数は一日10件前後というところだろう。情報整理の時間やコストも踏まえればもっと少ない。その中で数十、数百というチームに対するヒアリングを行えば当然それなりの日数を要する。一方でそれらの情報を整理しようとすると、記憶が鮮明なうちに行う必要もある。だからこそ、集中して期間を設け一気にヒアリングしていくことが大切だ。可能なら期限を切ってしまったほうが良い。私の場合は就任した月末には戦略を発表したいと伝え、それまでにヒアリングから課題の整理までを終えた。
ヒアリングにおいて、その精度を上げていくためにはまず社内の組織図を眺めていこう。やはり課題というのは組織の構造に紐づくことがほとんどである。だからこそ、どの順序でどのチームにヒアリングしていくかが重要だ。特定の期間内でヒアリングを終えるためには、出来る限り漏れが無く、ダブり無くインタビューを組む必要がある。
まずは性質の違うであろう組織単位をピックアップし、ヒアリングを実施しながらどこをさらに掘っていくか解像度を上げていくとよいだろう。そこから、特に深堀りたい方向性を意識しながら関連する組織を捕まえてヒアリングして、更に深堀りをして……という繰り返しをしていく。
この時、組織の上下や上司と部下という関係を見ながらバランスを取るとよい。マネージャのみに話を聞いていても、マネジメントという立場からのバイアスがある。一方でメンバーに聞いてばかりでは全体間がつかみにくいかもしれない。だからこそ、双方バランスよく聞いて回ることで、同じ課題を様々な方面から聞いていこう。
意識するべきバランスとしては、マネージャ・メンバーと言った職位だけでなく、例えば営業や事業部門のようなフロント部門とそれらを支える人事や経理と言ったバックオフィス部門など関わる部門というバランスもある。視点の多様性を確保するという目線をもってヒアリング対象を決めていこう。
ヒアリング時に気をつけたいのがヒアリングする側の態度だ。基本的に改善したい立場として見方のつもりでそこにいるわけであるが、どうしても改革となるとヒアリングされる側が身構えてしまうケースも多いだろう。だからこそ、基本的には事業相談に乗っていく彼ら彼女らに対する「課題を解決したい」という姿勢・想いが重要である。
私の場合も、ヒアリング時であろうと可能ならその場で自分の持つ知識ですぐ解が出るものであれば、即時解決策も提示しながら事業相談に乗る、その過程で課題を集めていくという考え方を取っていた。基本的には「何かお手伝いできることはありませんか?」「今取り組んでいる課題はなんですか?」ということを起点にしながらのヒアリングである。そうすることで、悩みを共有し立ち向かう事ができる。
また、コーチングの応用で、ヒアリングをしながら相手の思考を整理することに取り組んでみよう。するとその過程でも課題が解決に向かう事がある。
ヒアリングをする過程の態度次第では、ヒアリング自体が信頼獲得につながることもある。改革が必要となっている組織の多くでは、そもそも自身のチームの課題を誰にも聞いてもらえない、理解してもらえないというケースも多いものである。まずは正しく理解しようと務めるだけでも、聞いてもらえるということ自体が最初の信頼につながる。もちろんアクションへ移し解決しなければ長続きしない信頼ではあるが。
(続く)
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