見出し画像

執中 ~ 中を執る ~

 中国儒教の四書五経のうちの一つ『中庸』に「執中(中を執る)」という言葉があります。
 それは中国神話に出てくる君主・堯(ぎょう)が後継者の舜(しゅん)に帝位禅譲する際に贈った言葉で、簡単に言うと「最適なことを為せ」という意味です。それ以外にも「バランスを取ること」という意味にも解釈できます。

 「執中」が出来たとき・為されたとき、どういったことが起こるのか。
 最近、身近なこととしてその一端を自分でも体験したので紹介したいと思います。


 最近聞き始めたPodcast番組でNews Connectという、元News Picks編集部デスクで音声プロデューサーの野村高文さんがホストを務められている番組があります。
 毎日5分で世界の政治経済のメガトレンドを紹介するというコンテンツなのですが、日曜日は経営共創基盤の共同経営者である塩野誠さんをゲストに迎え、その一週間のトピックを一緒に振り返るという「日曜版」を配信されています。

 このコンテンツを最近(2022年7月)聴き始めたのですが、特に日曜版が面白いので配信が始まった2022年2月頃まで遡って聴いてみました。この当時の一番のトピックと言えば、何と言ってもロシアがウクライナに侵攻するかどうかでした。

 ゲストの塩野さんは(一度お聴きになられるとわかると思いますが)非常に冷静で淡々とした喋り口調の方です。
 そして博く、かつ詳らかな世界情勢についての情報を持っておられ、同時に客観的で深い洞察をされる方であり、そこにホストの野村さんが質問やリアクションをすることでテンポを付けられているという番組構成なのですが、基本トーンは「淡々と」になっています。淡々としていますが、面白く聴きやすいのです。

 その秘訣がわかったのが、日曜版の2回目配信『【ニュース小話#02】ウクライナ情勢は「情報戦」の様相に」を聴いていたときのこと。


 この頃はまだロシアはウクライナへの侵攻にまでは至ってはいませんでしたが、依然予断は許さない緊張状態の頃でした。
 塩野さんはいつものように客観的な状況分析を淡々と述べられ、ウクライナ情勢についてわかりやすくお話をされていました。
 そして番組も7割方に差し掛かったとき、塩野さんがいつもと同じ淡々とした口調でおっしゃったのです。

 「死んじゃダメですよ…。」

 この語りを聴いたときに、何とも言葉では言い表せない(言い尽くせない)響くものがあったんですね。

 この一言は、いつもの塩野さんの博識な情報や深い洞察からくるものではなく、シンプルな一人の人間としての情緒でした。ある意味誰でも述べることの出来る一言です。しかし、いつもは淡々と客観的である塩野さんが発することによって先述の”言葉では言い尽くせない響くもの”が生み出されたのです。

 これが「執中」が為されたときに起こる事象の1つなんだと思います。

 客観性がベースの塩野さんが一瞬主観的な個人的情緒を見せたとき、まさしく『中』が執られ、そしてこの一瞬の邂逅が、一人の人間の心を揺さぶりました。

 思えば塩野さんはよく淡々とした客観的な意見にほどよく主観的な情緒的感想を交えられて話されています。そのバランスの良さが「聴きやすさ」を生み出しており、これが「執中」を体現することなんだなと感じました。

 今回塩野さんはけして意図的に中を執りにいったわけではないと思いますが、そもそも「執中」は意図的に行う君主としての心得であり、マネジメント手法です。
 ただ偶然にしろ意図的にしろ、マネジメント手法にしろPodcast番組にしろ「執中」は人間の深いところに働きかけることなんだなと体感を以て理解しました。

 概念について体感で理解するというのは中々得難い機会です。
 今回は非常に良い経験をしたので、そのご紹介でした。

<著書『フォロバ100%』Amazonにて販売中✨>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?