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Y.田中 崖
2016年12月15日 17:37
デイビッドと一緒に暮らしていた頃、時間感覚はオレンジ色だった。夕日があって、真夜中を飛び越えて、明け方に泣いた。私はたいてい彼の隣で本を読んでいた。裸で、あるいは服を着て。カーテンを開けるとそこには海が広がっていて、私たちは小さなバスタブのなかでひっついて笑い合った。 彼は、地ビールのラベルと天井裏のねずみとサニーサイドエッグをこよなく愛していた。あとは君の着ているぶかぶかのTシャツも好きだよ
2017年9月21日 13:54
コーヒーの夢を見ている。雨は夕暮れ、雲間から覗く細い月が干からびた左腕をそっと傷つける。暗いカーテン。街灯もなければ電線もない。溶けた地平線まで広がる漆黒の麦畑。麦の穂は空に昇る。一万キロ離れてたって見える星はいっしょだ。遅延する君の声に、電波のざらつきに、砂糖とミルクを混ぜる。
2017年12月29日 22:55
おじさんがガソリンを入れるあいだに、僕は併設されたコンビニで昼ごはんを買うことにした。サンドイッチとホットドッグ、ミネラルウォーターとスプライトとコーラ、スニッカーズ。レジに並んで、僕の順番が来たときに、ちょうどおじさんがお店に入ってきた。「お父さんのお手伝い?」とレジのお姉さんが言う。「お父さんじゃないんだ」と僕は答える。 ピックアップトラックの座席によじ登り、おじさんにコンビニの袋を
2017年12月2日 13:51
あいつは俺と違って、このくにの人間なんだ。当たり前じゃない、あなたと私だって生まれが違うのに。* コピー機を使ってもいいですか。 たどたどしく訪ねると、もちろん、という返事のあとであなたは言った。 あなた喋れるじゃない。 私はどぎまぎしながら、少しねと単語で答える。 いいじゃんそれで、もっと話せばいいのよ。 がっしりした体つきで、頑固そうで、不機嫌になるとすぐに顔に出るあなたが
2017年11月26日 08:35
僕は僕の故郷を知らない。君はどこから来て、どこへ行き、何をして、どうやって消えるの?* 墓がある。当たり前なんだけど、かのくにでもひとは死ぬ。墓地はまるで死そのもののように、道端でひょっこりと姿を現す。国道沿い、森の端、ハンバーガーショップの隣。記念墓地のあまりに等間隔に整列する碑や、開けた一面の芝生の上に色とりどりの献花が点在する様子は、空間アートの作品に見えなくもない。ハンバーガーシ
2017年11月10日 00:21
それはなんですか? いいえ、これはお米です。* コーヒーの夢を見ている。雨は夕暮れ、雲間から覗く細い月が干からびた左腕をそっと傷つけた。暗いカーテンが私を包む。街灯もなければ電線もない。溶けた地平線まで広がる漆黒の麦畑。麦の穂は空に昇る。一万キロ離れていたって見える星は同じだ。遅延する声に、電波のざらつきに、砂糖とミルクを加えてかき混ぜる。大きすぎるベッドの上で異物のようにまどろんでいる
2017年11月3日 23:55
対向車線で黄色いバスが停車している場合も、離れた位置で車を停止させる必要があります。* 入国初日に事故を目撃した。交差点で、右折する車と直進する車が衝突したのだ。右側通行で、赤信号でも右折できるためにこんな事故が起きるのです、なんて解説がついてきそうな事故だった。 車検がないらしい。半分くらい驚いて、半分くらい納得した。思い当たる節はあった。塗装が剥げてつや消し加工ですか、みたいな車は
2017年10月20日 20:57
またお会いしましたね、と彼女は言った。しかし私は彼女に見覚えがなかった。 * ハリケーンのせいで雨続き、肌寒いにも関わらず会議室のクーラーはがんがんにかかっていて、末端冷え性の私はすっかり参ってしまった。乾燥して喉も痛い。なんとかやりすごして、夕飯にミディアムレアのステーキを食らい、ジョッキにしか見えないトールサイズのビールをあおる。レストランのサーバーはなかなか来ないし、担当制で他のひ
2017年10月13日 22:28
私はあなたに話しかけている。* ハンバーガーとコーラ。ルートビアはおいしくない。チェリーコークはドクターペッパーと同じ。ファンタオレンジがオレンジ色すぎる。謎の青いジュース。スーパーのドーナツにはまる。カップケーキは甘すぎるし色が奇抜。ギラデリのチョコレートはおいしい。この地域の水道水は飲めないわけではないらしいけど、カルキ臭が強いから、ミネラルウォーターばかり買う。バドライト、ブルーム