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Y.田中 崖
2019年11月27日 19:14
4.再会 不意にからだが何かに捕まった。追っ手かと思いきやそうではない。右手でできた尾鰭を、死んだ彼の右手が握り締めていた。掌が温かい、と感じる、それは本当に温度?「危なかったな。ついさっき同期が終わった」 影のように黒い顔で、唯一見える唇の両端が持ち上がる。笑っているらしい。 振り返ると、波のなかに雑音混じりの小さな画面が揺らいでいた。画面から青い線が一本ぎざぎざと折れ曲がりながら飛び出
2019年10月19日 17:36
同僚が解体されていた。 流れていく部品を認識した瞬間、全身を過電流が走った。それでも《指先》は再利用可能な素材を自動的に選っていく。洗浄された神経網はおにぎりの管布みたいだ。私たちは管布おにぎりの集合体。さしずめ金属繊維は合飯で、皮殻はのりかな。そんなことを考えながら、跳ね上がった負荷が落ち着くのを待つ。 全身に疎らについた感覚機を剥がしていく。脊髄は一世代前。視神経は中の下。免疫機構は安
2019年10月27日 01:04
1.逃走 同僚が解体されていた。 流れていく部品を認識した瞬間、全身を過電流が走った。それでも《指先》は再利用可能な素材を自動的に選っていく。洗浄された神経網はおにぎりの管布みたいだ。私たちは管布おにぎりの集合体。さしずめ金属繊維は合飯で、皮殻はのりかな。そんなことを考えながら、跳ね上がった負荷が落ち着くのを待つ。 全身に疎らについた感覚機を剥がしていく。脊髄は一世代前。視神経は中の下。免
2019年11月3日 20:20
2.依頼/変身「ここだけの話だけど」と彼は切り出した。「指、拡張したんだ」 その言葉は種となって私の土に埋めこまれた。「拡張?」 彼が頷き、蒸留油を舐める。透明な油飲みのなかで冷却岩がからんと音を立てた。 区画の外れにある安い油屋の店内。煮え油と端子の焼ける匂い、客たちのがちゃがちゃ喋る声が充満し、時折笑い声が大音量で発せられる。「電気泥棒ぅ?」と一際大きな声が響いて思わず視線をやると、
2019年11月10日 10:03
3.破壊 彼の部屋は、私の住む部屋よりさらに家賃の安い、半壊集合住宅の一室だった。なかは驚くほど物がなかった。身辺整理したからね、と彼はおどけて言った。「これを」 手渡されたのは小型の切断機だった。かちかちかちと収納されていた薄い刃を出し、構えて、いろいろな角度から眺める。頸部や腹部に何度も刺せば致命傷を与えられるかもしれないが、だいぶ痛そうだ。そういう趣味なのだろうか?「これで殺すの?」